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指定報告3/「貸しはがし」に揺れる福祉用具貸与事業者の現状と課題/前年同月マイナス19.1%の衝撃/東京・介護ショップらくだ 小川一八

福祉用具の「貸しはがし」について

 

 財政削減を基調とする社会保障費抑制策により、2006年度介護報酬改定において貸しはがしが行われました。その内容は、表1にある通りです。

 この改正では、介護ショップを含めた福祉用具貸与業界の弱点が突かれた格好となりました。それは、一部の行政やケアマネジャーからの「利用者宅にてベッド・車いすが埃をかぶっている」「利用をしない福祉用具の貸与は財源の無駄遣い」等の声にも表れています。私の訪問した利用者宅でも、ごく一部に福祉用具(特にベッド)が充分に使いきれていない例がありました。まず、こうした業界への苦言に対して、真摯に襟を正す必要があります。

 一方、最も見逃してはならないのは、多くの利用者及び家族から「貸しはがし」に対して連日自治体(介護保険の保険者)窓口へ猛抗議が続いたことです。私もベッドを利用する要支援1・2、要介護度1の利用者を訪問した際に、ベッドの上下動や背上げ機能を使って起立・歩行を行い、さらにはトイレや浴室へ歩行する利用者を多く見ています。

 図1は特種寝台の貸与件数推移を要介護度別に示したものです。最もベッド総件数が多かった 200 年4月審査(実質3月分)では70.8万台の内、要介護1- 22.1 万台、要支援- 5.5万台、計 27.6万台でした。それが2006年 11 月審査分(実質10月分)では49.5万台の内、要介護1- 0.9万台、要支援1- 0.1 万台、要支援2- 0.3万台、経過的要介護- 0.6万台、計1.4万台となりました。26.2万人分のベッドが「貸しはがし」をされました。自治体窓口に連日猛抗議が続いたのは、当然のことです。

 次に図2は、各要介護度別のケアプラン件数に占めるベッド件数の比率を示してあります。改定以前には要支援は約1割、要介護1は2割程度です。確かに要介護1は、図1で見たようにベッド件数は最も多かったが、ケアプラン数の約2割の使用です。「介護度が実態より軽く出る」といった声に象徴された介護度認定制度の不備を考えると、1割、2割のベッド使用を多くの国民(介護保険料を納める)が不必要と判断するとは考えられません。また、要支援1、2、要介護1の11月審査分(実質 10 月分)ベッド件数は、3月分の5%程度でした(月遅れも含まれる)。この結果から、表1にある例外規定が、ほとんど運用されていないと考えられます。

 こうして貸しはがされる利用者に対して、多くのケアマネジャーや地域包括支援センターは、安全性や衛生面、廃棄による環境問題等があることも知りつつ、中古ベッドの廉価販売・貸与を積極的にすすめたのです。

 以上見てきたように、「貸しはがし」は寝たきりとならないように予防するとした介護保険の趣旨とは逆行する、理不尽な施策といえます。

 この間の「貸しはがし」による混乱を振り返ると、介護認定制度の不備には触れずに、先に述べた一部利用者の話が誇張・拡大され、あたかも全体の話であるかのようにして「貸しはがし」が断行されました。まさに、社会保障費抑制策をすすめる政府・行政にうまく「貸しはがし」されたという印象があります。

 

ベッドの貸しはがし後の行方

 

 さて、ベッドの「貸しはがし」が行われた利用者は、その後どうしたのでしょうか?

 大きくは、表2の3通りです。この対応で、介護ショップらくだは、侃侃諤諤の議論を行いました。おりしも耐震強度偽装事件やパロマ湯沸かし器事件が報道され、最近では不二家、リンナイが有名となっていますが、介護ショップの社会的責任を含めた討議を行いました。結論は、「介護ショップらくだでは原則として自らが責任を負える範囲内で事業を行う。(表2の下線にある)廉価な中古品ベッド販売・レンタルは、責任を持ってメンテナンスを行えないために実施しない」としました。これに対して、当時は内外から相当なお叱りを受けましたが、介護ショップはメンテナンスをしない中古ベッドがどれだけ危険であるかを日々体験しています。中古販売した責任は、商品が存在する限り介護ショップに発生します。当然、この中古電動ベッドは、社会問題となる可能性を持っています。この間、介護ショップの縮小及び廃止を私たちの周りでも見聞きします。そして、大手の介護ショップは、廉価な中古品ベッド販売・レンタルについて終始消極的でした。今後、中古ベッドを販売した事業所が廃業した場合、利用者は故障・事故が発生すると販売に関与したケアマネジャーに問い合わせるでしょう。これに備えるために、関与したケアマネジャー事業所は記録を残し注意を払う必要があります。

 

予防介護と福祉用具貸与

 

 厚生労働省の 2006 年度改正資料「要支援1・2の標準利用例(案)」を見ると、福祉用具貸与の項には、例として「補助杖」があげられています。杖の月あたり貸与価格は 1000 円程度です。一方で、貸与事業者は定期的なメンテナンスを行わなければなりません。メンテナンスに関する人件費や経費支出を考えると、要支援1・2の利用者の比率が高くなると、収益に対するメンテナンスコスト比率は増加します。よって、多くの介護ショップは、事業の主たる対象を要介護度1〜5の利用者へ絞ると予想していました。実態もその通りとなっています(図3 5月からの介護費推移を参照)。

 以上から、民間事業所が安上がりな予防介護を担うのは、事業の継続性という点から無理があります。そのために、介護予防は自治体が直接責任を持って行うほうがよいのではないでしょうか。

 

経営状況は? 前年同月収益比が-19.1 %

 

 図3は福祉用具貸与事業者の登録数と介護保険請求事業所数、そして月別給付費推移を示したものです注)。 2006年10月分の収益が前年度同月対比で- 19.1 %となりました。請求事業所数の増減はほとんどなく、各介護ショップの収益は概ね2割の減少となります。この約2割の減収が介護ショップに危機を招いています。そこで、質の向上と共に収益増加という課題に取り組まなければなりません。

 

介護ショップの基本戦略

 

 収益増加と質向上において考えられる方策は、大きく2つです。1つはグループ内外の連携を強め利用者獲得を行います。2つめは介護保険貸与以外の収益を増やします。さらに、双方において民医連加盟事業所の場合、他には真似できない医療機関との連携を生かすことが「強み」となります。

 また、こうした介護ショップの危機は、社会保障費抑制策による政策誘導によって発生していることから、政策の如何が経営を左右しやすいといえます。この対応策として、政策の基礎となる地域住民への働きかけと同種同業者との日常的なコミュニケーションが求められます。大風呂敷を広げ、私の希望(ロマン)を含め述べると、医療連携と地域密着型の実践を通じて大資本に対抗する経営を模索することです。この点は3つめの方策です。

 ここで最も大事な点は、以上3点を当該グループの経営戦略に位置づけることです。

 

介護ショップらくだの取り組み

 

 介護ショップらくだでは、「貸しはがし」により前年度と比較してベッド数が約100台前後、収益にして月150万円程度が減少しました。この間、ケアマネジャーにベッドの増加を働きかけてきました。増えない理由として「ケアマネがいない」「要介護2以上の利用者の数が増えない」「介護度認定が軽く出る」「要介護1はベッド導入を諦める」などの声を多く聞いています。

 また、介護ショップらくだでは以前から大田病院との連携を模索し、エアーマット、マットレスのレンタルを検討し実施しました。今後は、順次車いすや各種福祉機器導入を検討します。この取り組みのねらいは、入院から在宅まで同様の機種を利用できれば在宅でも入院でも同様の環境で療養できます。そのことで、グループ内事業所スタッフの福祉用具の適応や用法が統一できます。実はこうした取り組みを提起してから、始めるまでに約3年近くを要しました。この取り組みは、今年の全日本学術運動交流集会に演題申し込みをする予定です。採用されればもう少し詳しく報告できますので、お待ちいただければ幸いです。

 

介護サービス情報の公表と連携

 

 「介護サービス情報の公表」により中小・零細事業所が淘汰される危険があります。昨年から、介護サービス情報の開示にあわせた業務内容の整備状況が公開されました。もちろん、整備には人材と資金が必要です。そのために、それらを他よりも有している大手グループの事業体が有利となります。利用者獲得競争でも、そのまま他より有利な条件を有するサービス事業体が「勝ち組」として中小・零細事業所を淘汰していく可能性があります。

 介護保険では、地域密着型の小規模事業所が不可欠です。小規模事業所には利用者と職員のお互いの顔が見えるという利点があり、それが、利用者の安心につながります。また細かな対応と即時対応する機動力を行使し、自らにないサービスを行う事業所と連携することで利用者の要求に見合ったサービスを提供できます。そうした実践は、地域密着型の小規模事業所に多く見られます。しかし、こうした事業所を支えていく事業所同士の連携は、まだ成熟していません。連携は、大手グループ事業体の一人勝ちとしないためにも、我々の課題といえます。

 

介護ショップの質向上の課題

 

 日本の福祉用具の水準は、その工業水準によりヨーロッパで使用される福祉用具と遜色がありません。色・デザインという点では、まだ一歩遅れをとっていますが、軽さや小型化ではむしろリードしているという印象があります。また、介護ショップの仕事は、こうした福祉用具を在宅へお持ちすれば良いというものではありません。

 最初に「業界の弱点」について述べたように、介護ショップは質向上の課題に取り組まなければなりません。この課題とは、利用者へ適応(フィッティング)した福祉用具を提供することです。福祉用具の適応は、福祉用具とコーディネートする人(福祉用具相談員)があって役割を果たします。人が利用者の状態にあわせて対応するのです。

 この場合、介護ショップからの利用者等への具体的な問題提起が求められます。そして、利用者一人ひとりの課題を突き詰めていくと「どのような(高齢化)社会をつくるのか」という課題に突きあたるのです。飛躍した意見と受け止められかねませんが、この取り組みが、福祉用具をつうじて地域を変える可能性を生みだすと考えます。

 

追伸 厚生労働省は2007年2月18日開催の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議において、4月から表1の例外規定の見直しを行います。よって、今後の自治体の対応に注意が必要となります。

注)国保連合会ホームページ2006年10月福祉用具貸与給付費より抜粋。

〈参考文献〉

小川一八「介護ショップのマネジメントの課題について」いのちとくらし研究所報  No.14 2006. 2

 

表1 福祉用具貸与に関する改定内容

 

 要支援1・2と要介護度1は、「特殊寝台」「車いす」「床ずれ防止用具及び体位変換器」「認知症老人徘徊感知器」「移動用リフト」について給付の対象外

 

*半年間の経過措置により 10 月より実施

 但し、例外規定により特殊寝台の場合は、日常的に起きあがりが困難な者、日常的に寝返りが困難な者(要介護認定データを活用して判断)は使用が可

 

表2 貸し剥がし後の行方は?

 

1.ベッド購入

・新品ベッド(3モーター、25〜30万円前後)

・中古品のベッド(6〜 12万円前後中心、製造から5年以上)

2.介護保険外の自費レンタル

・ 10 割負担レンタル(月額1〜2万円位の負担)

・中古ベッドレンタル(月額 3000円前後の負担)

・モーター無しベッドレンタル(月額 3000円前後の負担)

3.ベッドの返却・ベッド未使用 *布団で寝る