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■Ⅲ 介護報酬2012改定編

Ⅲ−1 今回の改定は、1.2%のプラス改定と聞きました。本当にそうですか。

 今回の介護報酬改定率を、在宅+1.0%、施設+0.2%とし、+1.2%であると厚生労働省は説明しています。「介護職員処遇改善交付金」が廃止され、今改定で介護報酬に加算(「介護職員処遇改善加算」)として組み込まれましたが、「交付金」相当分を介護報酬に置き換えると2%程度となるため、+1.2は見せかけの数字で、実質0.8%の引き下げとなり、「プラス改定」にはなりません。
 今回の改定では、地域区分の見直し(5区分から7区分へ)と、それに連動させた報酬単価が見直しがおこなわれました。人件費や土地代の高い都市部に報酬を重点配分することに異論はありませんが、今回の改定で報酬単価が引き下げとなった、札幌市、小田原市、岡山市などの事業所では大幅な減収となっています。
 介護報酬は、2000年の制度開始から、2009年までに3回の改定が行われ、合計で1.7%のマイナス状態となっていました(図)。
 今回の改定を+1.2%のプラスだと解しても、0.5%のマイナスとなっており、介護保険開始時の水準に届かないことに変わりはありません。
 実質0.8%のマイナス分を加えると2.5%ものマイナスになります。
 介護事業所は、今回の実質マイナスの改定によりますます厳しい運営を迫られています。

図

Ⅲ−2 新設された処遇改善加算は、従来の介護職員処遇改善交付金と変わらないと聞きましたが本当ですか。

イラスト 今回の改定で、「介護職員処遇改善交付金」(交付金)を廃止し、介護報酬の中に「介護職員処遇改善加算」(加算)を新設しました。「加算」では、対象とするサービスから訪問看護や居宅介護支援(ケアマネジャー)、福祉用具貸与事業などを除外するとともに、キャリアパス要件を設けるなど、「交付金」制度の様ざまな問題点がそのまま引き継がれています。そればかりか、キャリアパス要件の適合状況に応じた3段階の加算率を設け、10%、20%の減額をおこなう仕組みを設けました。処遇改善に係わる費用を全体的に圧縮するしくみになっています。
 「交付金」を「加算」に移行させた最大の目的は、国庫負担の削減です。「交付金」における国の負担は1900億円でしたが、介護保険財政に移すと500億円に減らすことが可能になります。
 さらに、この「加算」は、「処遇改善交付金から介護報酬への円滑な移行のための特例的かつ経過的取り扱い」とされ、2014年までの時限措置とされています。2015年度以降は、基本サービス費の中で「適切に評価する」として、加算の廃止・基本報酬に包括化していく方向が示されています。処遇改善に対する国の責任を縮小させていく方向です。
 また、この「加算」は利用料に反映されるため、利用者から「職員の処遇改善のための費用をどうして負担しなければならないのか」との声が多数寄せられています。介護職員の処遇改善と利用者負担に係わって、新たな対立構造をもちこむものとなっています。

Ⅲ−3 ヘルパーの生活援助の時間枠が短縮されました。国は「必要と判断されれば、今までの時間どおりの生活援助を利用することは可能」と説明していますが、本当にそうですか

 生活援助を中心とする訪問介護は、これまでの「30分以上60分未満」「60分以上」という時間区分が、「20分」「45分」の時間軸を基本に、「20分以上45分未満」と「45分以上」に再編され、同時に、介護報酬が2割近く(17.0%、19.2%)も引き下げられました。
 利用者は、生活援助の時間が短縮されることで、掃除や洗濯、買い物などの家事に支障を来し、日常生活に様ざまな困難が生じています。無理を押して自らおこなうことで利用者本人の状態が悪化したり、家族の介護負担が増えている事例もされています。
 厚労省は、今回の生活援助の時間枠の変更について、「適切なアセスメントとマネジメントに基づくサービスの見直し」であり、「介護報酬上の時間区分を変えただけで、従来通りのサービスの提供が可能」と説明してはいますが、「従来通りのサービスを提供」することにより、事業所の介護報酬(収益)が大幅に減ることについてはいっさい言及していません。今回の見直しは、「時間を短縮するのか、それとも収益を減らすのか」の選択を利用者と事業所に強要するものであり、新たな分断をもちこむものです。
 この間、川崎市などいくつかの自治体で、生活援助の機械的な時間短縮を認めない趣旨の通知が出されています。サービスの切り下げを許さない運動の成果でもありますが、利用者・事業所双方に関わる根本的な矛盾は解決されていません。
 今回の見直しを撤回し、生活援助を介護保険で適切におこなえるよう、制度改善が必要です。

図

Ⅲ−4 デイサービスの時間区分が見直されましたが、利用者や介護現揚にどのような影響がでていますか

 今回の改定で、これまでの「3時間以上4時間未満」、「4時間以上6時間未満」
、「6時間以上8時間未満」の時間区分が、「3時間以上5時間未満」、「5時間以上7時間未満」「7時間以上9時間未満」の区分に再編され、それに併せて介護報酬も大きく見直されました。
 利用者と事業所にもっとも大きな影響をもたらしているのが、利用者の8割が利用している「6時間以上8時間未満」への対応です。
 図のように、「5時間以上7時間未満」と「7時間以上9時間未満」のいずれかに変更しなければならなくなり、各事業所では、ひとりひとりの利用者についてたいへん苦労しながら対応しています。
 「7時間以上9時間未満」に変更すると、介護報酬は増えますが(+1.9%〜5.6%)、その分利用者の利用料負担も引き上がります。また、時間の延長にともない、職員の残業が増えて人件費がアップし、介護報酬(収益)が上がっても必ずも収支の改善につながらない事態も生じています。また、時間の延長は、介護負担の軽減につながると家族からは歓迎されていますが、利用者本人からは長時間の滞在で疲れてしまうなどの声が出されているとの報告もあります。
 一方、「5時間以上7時間未満」の時間枠に変更すると、介護報酬が下がり、事業所にとっては1割前後(▲8.8%〜11.1%)の大幅な減収となります。
 今改定は、デイサービスの利用時間を12時間まで延長可能にするなど、家族支援の拡充につながる見直しも実施されました。しかし、改定の本質は、最も利益率が高い事業(厚労省「介護経営実態調査」)であることを理由に、デイサービス総体の報酬を「適正化」した点にあります。

図

Ⅲ−5 施設の基本報酬が大幅に下げられましたが、どのような影響がありますか。今後の施設のあり方について、国はどう考えているのですか。

 今回の改定で、介護保険施設(特養、老健施設、介護療養型医療施設)の基本報酬(施設サービス費)が大幅に引き下げられました。診療報酬で言えば「入院基本料」に相当する報酬であり、施設の経営を非常に厳しいものにしています。新たに加算を算定しても基本報酬の減少をカバーできないとの報告も寄せられています。
 特に、「ユニット型個室、従来型個室、多床室の順となるように報酬水準を適正化する」として、低所得者の入所が多い「多床室」の報酬が大きく引き下げられたことが特徴です。なかでも特養については今年の4月以降に開設した多床室については報酬が別建てに設定され、より引き下げられています。 
 さらに要介護度別にみると、要介護1、2の報酬引き下げ幅が大きくなっています。
 今回の改定は、低所得者、軽度者を施設入所から閉め出すものといえるでしょう。
他方で、在宅復帰機能を強化した老健施設については、新たな施設サービス費が設定されたり、加算が引き上げられました。
 今回の報酬改定審議が行われた介護給付費分科会の審議報告では、「介護保険施設については、介護保険施設の重点化や在宅への移行を促進する観点から見直しを行う」ことを明確に打ち出しています。今改定はその流れの一環です。
 なお、厚労省は、今回の基本報酬の引き下げについて、特養・老健施設等の介護保険施設の収支差率(=利益率)が9%以上となっている(厚労省「介護事業経営実態調査」)ことが根拠だと説明しています。しかし、この調査結果は、各施設の個別事情(規模や開設年度など)を勘案しない「平均値」にすぎず、個々の施設の実態とは開きがあることから、この調査結果を前提に介護報酬改定を検討することに対して、審議会(介護給付費分科会)の委員からも異議が出されています。

図

 
全日本民医連
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