いつでも、どこでも、安心、安全な介護を! 介護ウェーブ2009のうねりを起こそう!

ここが聞きたい!介護保険と「社会保障・税一体改革 目次ページへ→

■0 制度解説編

0−1 介護保険を利用するためにはどのような手続きが必要ですか

 下の図は、介護保険の利用に至るまでの流れを示したものです。
 ご覧のように、介護保険では、サービスの利用までに、「申請」から始まり、「認定調査」→「要介護認定」→「ケアプラン(予防プラン)の作成」と、何段階もの手続きを経なければなりません。
 医療保険とはずいぶん異なったしくみであり、介護保険制度の大きな特徴となっています。

図

(1) 申請
 介護保険利用の手続きは、現在住んでいる市町村の介護保険窓口に申請することから始まります。申請は、ケアマネジャーが代行することも可能です。
(ただし、40〜64歳の場合は、あらかじめ厚労省が定めた「特定疾患」(アルツアイマー、脳血管疾患など)に該当する場合のみが対象となります)。

(2) 認定調査(訪問調査)
図 申請後しばらくして、市町村の「認定調査」が行われます。「認定調査」では、市町村から委託された訪問調査員が、自宅まで出向き、「一人で食事に行けるか」「一人でトイレに行けるか」など、74項目にわたる細かな聞き取り調査を行います。

(3) 要介護認定
(一次判定)
 「認定調査」の結果や、「主治医意見書」(かかりつけ医が意見書を書くことになっています)に基づき、コンピュータを使って「一次判定」が行われます。

(二次判定)
 続いて、「二次判定」が行われます。医療や福祉の専門家数名による会議(介護認定審査会)で、「一次判定」の結果や「認定調査」での特記事項(訪問調査員が記入します)、「主治医意見書」などを参考に、7種類の要介護度の判定(要支援1、2、要介護1、2、3、4、5)を行います。要支援1、2は予防サービス、要介護1〜5は介護サービスの対象となります。7種類のいずれかの要介護度に該当しなければ「非該当」となり、介護保険の利用は必要ないと判断されます。
 要介護度は、申請の日から1カ月内に市町村から通知されます。要介護認定の有効期間は初回の場合は6カ月ですが、状態の安定している場合は、更新時に最長2年まで延長することが可能です。

表

(4) ケアプランの作成
 要介護1〜5の場合、介護サービスを利用するためには、「居宅介護支援事業所」のケアマネジャーと契約し、ケアプランを作成することが必要です。ケアマネジャーと相談して、介護サービス事業所と契約を結び、必要なサービスをプランに組み込むことになります。
 要支援1、2の場合は、予防サービスの対象となり、予防プランの作成が必要です。地域包括支援センターか、もしくは地域包括支援センターから委託を受けた「居宅介護支援事業所」(ケアマネジャー)が作成します。

図

(5) 区分支給限度額
表 介護保険では、要介護度ごとにあらかじめ保険給付の上限が決められており、。右の表のように月額が設定されています(「区分支給限度額」と呼びます)。
 この上限額以上にサービスを利用した場合、オーバーした部分は保険の対象から外れ、全額自己負担(10割負担)になります。
 医療保険とは異なる、介護保険の大きな特徴です。

(6) 利用できるサービスの種類
 介護保険で制度化されているサービスは、下表の通りです。
 要支援1、2を対象とする「予防サービス」(予防給付におけるサービス)、要介護1〜5を対象とする「介護サービス」(介護給付におけるサービス)に大きく区分されます。
 「予防サービス」には、特養などの施設サービスはふくまれていません。
 「地域密着型サービス」は、市町村が管轄するサービスです。2006年度に制度化され、2012年度からは新たに「定期巡回・随時対応型訪問介護・看護」と「複合型サービス」が加えられました。

表

(7) 利用にともなう費用負担
 利用するサービスに応じて、費用負担が必要になります。
第1に、「利用料」です。それぞれのサービスの給付額の1割分(定率負担)を利用料として事業所に支払います。ケアマネジャーが作成するケアプランについては費用はかかりません。
 第2に、「食費・居住費」です。これは全額自己負担になります。内容は、通所サービス(デイサービス、デイケア)の食費、施設に入所した場合の食費・居住費、ショートステイを利用した場合の食費・居住費(滞在費)であり、定率1割の「利用料」とは別に支払いが必要です。
 3つめは、保険給付の上限(区分支給限度額)を超えた場合に発生する自己負担(10割負担)分です。

表

(8) 介護保険料
 介護保険は“保険制度”(「第5番目の社会保険」と言われています)ですから、介護保険料を支払うことが前提となります。
 65歳以上の高齢者については、全員、介護保険料の支払いが義務づけられます。保険料は3年ごとに見直され、市町村によって異なります。2012年度から向こう3年間(第5期)は、全国平均で4927円(月額)となりました。都道府県別の平均額をみると、最高額は沖縄県の5880円です。
 40歳〜64歳の場合は、所属している医療保険によって異なります。それぞれが属する健康保険や国民健康保険で決められており、これらの医療保険分と合わせて納付します。

0−2  介護保険を利用するうえで、どのような問題がありますか

 介護保険を利用するには、以上のような何段階もの手続きを経なければなりません。こうしたしくみが介護保険を利用しにくくする「ハードル」となっています。

● 申請が大前提
 第1に、制度の“入り口”で、「申請主義」を採用している点です。
 申請をしなければ、利用したいと思っても制度は一歩も動きません。一人暮らしや認知症など、申請することがそのものが困難な高齢者も少なくありません。そうした人たちが最初から制度から排除されてしまう危険性があります。

● 状態とかけ離れた要介護認定
 第2に、要介護認定です。
 要介護度が正確に判定されず、実際の状態よりも判定結果が低く出てしまう問題があります。これまで何度かシステムの見直しが行われましたが改善されていません。
 軽度に判定されてしまうと、「区分支給限度額」が下がり、保険の範囲内で受けられるサービスが大きく制限されることになります。また、要介護1以上の利用者が要支援1、2に変更されると、介護サービスから予防サービスに移され、訪問介護などの回数や時間が減らされてしまいます。特養などの施設にも入所できなくなってしまいます。「非該当」と判定されれば、介護保険のサービスは利用できません。
 とくに、認知症や一人暮らし、状態が変わりやすい疾患の場合に認定の矛盾が集中しています。認知症の要介護度が低く判定されるのは、認定のしくみそのものが身体的な機能のみを判定する内容になっており、認知症高齢者に必要な見守りや精神的なサポートが判定に反映されないことによります。また、コンピュータ判定(一次判定)を重視しているため、ひとりひとりの個別性の判断が困難なシステムになっているという問題もあります。

● 区分支給限度額内では十分な介護を受けられない
 第3は、あらかじめ保険給付の上限が決められている問題です。
 区分支給限度額の範囲内で、果たして十分なサービスが受けられるのでしょうか。もっとも重度である要介護5の場合を考えてみます。区分支給限度額は約36万円です。たとえば、30分〜1時間未満の「身体介護」が1回約4000円(介護報酬)ですから、朝・昼・夕の3度の食事毎に利用すると1日1万2000円、それを1カ月30日利用するとそれだけで限度額に達してしまいます。つまり、1日3時間は介護保険でカバーできますが、残りの21時間は家族の支援がないと在宅生活を維持できないということです。
 「介護の社会化」を掲げて創設された介護保険ですが、あくまでも家族介護を前提に設計されていることを示しています。区分支給限度額を超えてサービスを利用すれば、オーバーした分は全額自己負担となってしまいます。そもそも設定されている給付の水準が、十分な介護を保障するものとは到底いえません。

● 制度のしくみ・運用による介護の「取り上げ」
 第4に、制度のしくみや運用によって、様ざまな利用制限がある点です。
 ひとつは、要支援1、2が対象となる予防サービスの問題です。予防サービスは、保険給付の範囲(区分支給限度額)を狭め、訪問介護の回数や時間に大きな制約が加えた別枠のサービス体系として2006年度から制度化されました。今で要介護1以上だった利用者が、状態が変わっていないにもかかわらず要介護認定の更新で要支援1、2に下がり、予防サービスに移されることによってサービスが減り、日常の生活が立ちゆかなくなるケースが多数生じています。
 ふたつめは、軽度者に対する「福祉用具貸与」の利用制限です。要支援1、2、及び要介護1について、電動ベッドや車いすの利用が2006年度から制限され、事実上の「貸しはがし」が実施されました。
 3点目は、市町村による法令基準の独自解釈(ローカルルール)による利用制限です。典型的なのは、同居家族がいる場合の生活援助(訪問介護)の利用制限です。家族が同居しているといっても、昼間は仕事で不在のため「日中独居」となっていたり、病気や障害があって介護を十分できない状態だったりなど、生活援助の利用が必要な利用者・家族はたくさんいます。こうした個別の事情を考えずに、一律・機械的に利用を制限する事態が横行しています。ヘルパーのよる散歩介助や通院介助などでも同様の問題が起こっています。

● 深刻な施設の絶対的不足
 第5に、特養などの施設が圧倒的に不足している問題です。
 特養については、特養待機者が42万人を超えていると報告されており、要介護4、5で家族の介護を受けながら在宅で特養の空きを待っている利用者が7万人に達しています(厚労省調査)。
 本人の状態悪化、介護者の高齢化や病気などにより、在宅生活を続けていくことに困難が生じているにも関わらず、施設を申し込んでいるが所できる見込みがない、ショートステイで家族の介護負担を軽減したいが空きがないなど、今後の介護や生活の方向を見いだせない深刻な事態が起こっています。とりわけ、家族による日常的な支援が得られない、あっても脆弱な一人暮らし、費用負担の上で対応の選択肢が限定される低所得層においてより深刻化しています。

● 利用を遠ざける費用負担
 第6に、費用負担の問題です。
 医療保険では窓口負担が困難で医療を受けられない状況が深刻化していますが、介護保険でも、利用料の支払いが困難で、必要なサービスを利用できないケースがあとをたちません。ケアマネジャーに5000円渡して、「これでプランを作ってくれ」と依頼する利用者もいます。医療では、病気と貧困に相関関係があると言われていますが、介護でも、経済状況と要介護状態(介護が必要になること)とは密接な関係があり、「所得が低い人ほど要介護状態になりやすい」という調査結果が報告されています。低所得層ほど介護保険サービスの利用の度合いが高くなることを意味しますが、重い利用料負担が足かせになり、必要なサービスを利用できないのが実態です。介護保険の費用負担のしくみは、「最も介護サービスを必要とする人に、最もサービスが届いていない」という本末転倒の事態をつくりだしています。
 2005年10月から実施に移された施設等での居住費・食費の徴収も深刻な問題を引き起こしています。
 食費を支払えずにデイサービスの回数を減らす、居住費の支払いが困難になり施設からの退所を余儀なくされるなどの事態が生じています。必要な入居費用を工面できないため施設を申し込むことができず、「待機者にすらなれない」事態も生じています。
 65歳以上の介護保険料は、後期高齢者医療制度の保険料と同様、高齢者が増加したり、給付費が増大すると、介護保険料が引き上がるしくみをとっています。6段階区分を基本として設定されていますが、所得が低い高齢者ほど負担が重い逆進制になっています(自治体によって区分を細かくして逆進制を緩和する対策をとっていますが根本的な解決にはなっていません)。また、年金収入が月額1万5000円以上あれば、生活実態にかかわらず、年金から強制的に天引きされます。さらに保険料を滞納した場合は、償還払い(=いったん10割分の支払いを求め、後日9割分を払い戻す)にきりかえたり、利用料負担を3割にする(=給付を7割に減額)などの制裁措置が設けられています。
 今年の4月から向こう3年間の介護保険料が見直され、全国平均で4927円と5000円近くになりました。これ以上保険料を引き上げるのは限界にきています。

 介護保険がスタートして12年経ちましたが、当初高く掲げられた「介護の社会化」の理念とは裏腹に介護をめぐる様ざまな困難が広がっています。「介護心中・介護殺人」と称される痛ましい事件はあとをたちません。
 利用料などの負担ができず必要なサービスを利用できない低所得層の実態は深刻です。さらに、費用の支払いはある程度可能でも、要介護認定や区分支給限度額などの制度のしくみや、特養をはじめとする基盤整備の遅れから必要な介護を受けられない問題も噴出し続けています。
 まさに「保険あって介護なし」といってよいでしょう。こうした事態がいっそう深刻化しているのが介護保険の現実です。

 
全日本民医連
HOME BACK