第16回全日本民医連
歯科学術運動交流集会を終えて
−実感できた民医連歯科の確実な前進−
全日本民医連歯科部長
群馬・利根歯科診療所 所長 原田 富夫
集会の特徴
第16回全日本民医連歯科学術運動交流集会が6月28・29日、北海道札幌市で24県連・172名の参加のもとに開催されました。民医連歯科職員の十数%が民医連歯科の活動を持ち寄り、交流し、学びあうことができました。
集会の準備にあたり、北海道道民医連歯科の方々が現地実行委員会を結成し、星委員長を中心に約1年にわたる準備を進めていただきました。今回からメールでの抄録受付け、抄録集の作成、パソコンプロジェクターでの演題発表とし、当日のニュースもデジタルカメラの写真入で、IT活用による運営スタイルを創りだした集会となりました。
集会のメインテーマは「Back to the basic−安全で快適な歯科医療を目指して−」で、民医連結成50周年にあたり、民医連歯科の実践を再度見直し、評価し、新たな前進につなげることを意図しました。演題報告は「高齢者歯科医療〜QOLの向上を目指して〜」、「医療の安全性の追求・患者サービスの向上」「技術構築@(歯科医師、歯科技工士中心)」「技術構築A(歯科衛生士中心)」「医療経営構造の転換、経営改善、社保活動、地域と共同の取り組み」の5分科会に分かれて76演題が報告され、共同組織の方の演題報告は新鮮な感動を与えていました。ポスター発表も8演題おこなわれました。
記念講演は、藤本篤士氏(北海道・西丸山病院歯科診療部長)から「老化が『食べる』『義歯』にどのように関わるか」と題してお話しいただきました。要介護高齢者の増加が見込まれる中、高齢者のキュアー・ケアーの基本は栄養であること、患者の状態によっては義歯作製が必ずしも意味を持たないなど自らの研究をもとに講演されました。民医連歯科が医科や介護の方々と連携して取り組むべき実践課題が提起されました(詳細はP26〜30を参照)。
夜の交流会アトラクションでは北海道民医連歯科職員もメンバーに入っている“よさこいソーランチーム極楽トンボ”の踊りが披露され、参加者に元気を与えてくれました。
実感できた民医連歯科の確実な前進
民医連歯科における高齢者歯科や口腔ケアの取り組みが年々、量的質的前進をとげてきていることが感じられました。
民医連以外の施設との連携や訪問歯科診療専門の歯科診療所の開設の経験、そこでの歯科衛生士の専門性などについての報告がありました。残存歯がたくさんある要介護高齢者が増加する中、在宅診療支援の面からの病院歯科機能の重要性の高まりや、入院医療の質の向上のためにも病院歯科における一般歯科の役割の重要性が高まっていることが報告され、病院歯科機能のあり方や役割なども実践的に深まっています。それとともに、医科歯科連携のあり方などへの問題提起がされています。
デジタルレントゲンを導入した事業所も増加し、患者さんが診療中にレントゲン写真や口腔内写真などをモニターで見ることができる環境が整備されてきています。患者さんへの情報提供に生かそうと、独自にプレゼンテーションソフトを作成したり、検査結果などの作成にパソコンを活用している経験が報告されました。また、歯の状態や歯周ポケットの深さなどがわかりやすくカラー印刷された診断書を発行できる「デンタルセブン」を導入し、患者さんから好評を得ているとの報告もされました。こうしたITの活用は今後ますます広がってくることが予想されます。「治療計画の共有」に役立つ内容づくりと経験の蓄積・共有が積極的に進めるべき課題となってきています。
医療の安全性に関連しては、診療室や訪問歯科診療の際の感染対策の取り組みの経験、「診療向上カード」「SS(セーフティー・サービス・アップ)レポート」などの報告制度の経験が報告されています。歯科部で提起した「安心・安全・信頼の歯科医療づくりのためのチェックリスト」の実践を各事業所で進める際の参考になるものです。
新幹線の運転士が運転中に眠り込んでしまうという出来事で話題になった「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」の治療経験の報告がされています。内科や耳鼻科と連携し、スリープスプリントと呼ばれるマウスピースを作成し、治療効果をあげているようです。しかし、スリープスプリントは保険給付の適用外であり、医科歯科連携の強化とあわせて保険適用を求める運動の重要性も指摘されました。
技術構築分野ではその他、歯根破折や総義歯装着後の調査など日常診療場面から課題をみつけだし意識的に取り組みをおこなった報告とともに、変色している天然歯のホワイトニングや唾液分泌が少ないドライマウスへの対応、最近歯科界でも注目されているスポーツマウスガードなどの分野の取り組みも報告されています。患者要求に応えようと各職種が努力しあい、幅広い医療活動が展開されていることがうかがえました。
「症状が出てから受診」する歯科から「定期受診=歯の健康管理のための受診」への転換をはかり、患者さんにも喜ばれている歯周治療の取り組みや長期にわたる歯の健康管理の成果の報告もされました。地域要求とのかかわりで事業所の医療活動を全体としてどう進めるのか、各職種が連携して歯周治療とどう向き合うのか、診療報酬に対する「たたかいと対応」をどうするのかなど各事業所で深めながら全国の教訓を共有する場をつくる必要性が感じられました。
新たな診療所建設では、民医連空白地域での歯科建設を地域の組合員主導型で進め、「安心・満足」の歯科医療の実践と組合員多目的ルーム活用による組合員活動の結合で経営的にも初年度黒字を生み出す成果をあげた経験や、「信頼づくり」「共同組織との連携」「やりがい、生きがい」をキーワードにした取り組み、開設5ヶ月目には治療椅子の増設をした経験などが報告されています。一方で、開設後20年前後の事業所・施設も増加し、リニューアルの経験も報告されています。全国や地協の協力を得ながら現地調査を行い、建物のリニューアルとあわせて接遇やインフォームドコンセント、後継者対策などソフト面でのリニューアルを行う中で、患者増をはかって経営面で前進した経験が報告されました。いずれも、空白県連克服や新たな事業所建設を行う際に学ぶべき教訓が沢山詰まったものでした。
「すばらティースくらぶ」、「子ども保健教室」、「はみがきセミプロ養成講座」、「口腔ケア介護教室入門編」、「歯の保健教室」など共同組織の方々との取り組みが多数報告されました。とりわけ、埼玉・行田診療所歯科の支部長から報告された、歯科を地域にどのように知らせるかの論議から始まり、地元ケーブルテレビで紹介されるまでになった経験には注目が集まりました。保健活動を地域に広め、診療所を利用してもらい、地域で頼りにされる診療所にとの熱い思いが語られました。歯科を地域の人びとにとっていかに身近なものにするかが、歯科医療従事者と地域の人びとの共同づくりの大前提になる課題です。進んだ経験に学びながら、おおいに、取り組みを広げる必要がある課題です。
おわりに
参加者の感想文に「民医連歯科の前進を実感し、宝を共有しよう」と述べられていました。今回の集会は、昨年に歯科部会より提起した「新しい扉を開こう 21世紀初頭民医連歯科の課題と展望」で示された課題が、各事業所で着実に前進されていることを実感できるものとなりました。全国の知恵を各事業所・施設での実践につなげ、豊かな内容づくりをすすめましょう。そして2年後には、全歯科事業所・施設からさらに発展させた活動の成果を持ち寄り、交流できるようにしましょう。