副作用モニター情報〈522〉 ボトックス注による嚥下(えんげ)障害
ボトックス注はボツリヌス菌がつくり出すA型ボツリヌス毒素を有効成分とする注射薬です。神経と筋肉の間では、アセチルコリンという化学物質が放出されて刺激が伝わり、筋肉が収縮します。この薬は、投与した部位に作用してアセチルコリンの放出を阻害することにより、神経の働きを抑え、筋肉の緊張やけいれんを抑えます。
そのため、手足の痙縮、眼瞼けいれん、片側顔面けいれん、痙性斜頸、小児脳性まひ患者の下肢痙縮に伴う尖足、重度の腋窩多汗症、斜視、けいれん性発声障害など、さまざまな疾患に対して使用されています。
今回、ボトックス注による嚥下障害の副作用が報告されたので紹介します。
症例)50代 女性
投与日:けいれん性発声障害(内転型)に対して披裂筋(首の前側の筋肉)にボトックス注投与
投与2日後:水分摂取困難、発熱あり
投与5日後:誤嚥性肺炎と診断、抗菌薬投与開始、右下肺crackle・胸部X線写真両側肺野に浸潤影認める
投与6日後:ゼリー食開始(以降、段階的に食事形態アップ)
投与11日後:crackle・誤嚥性肺炎改善傾向
投与44日後:固形物摂取可能
なお、本症例は、7年前にボトックス注を投与した際にも嚥下障害を認めていたことが後にわかっており、2度目の副作用発生です。
添付文書では、けいれん性発声障害へのボトックス注使用による嚥下障害の副作用発生率は40.9%(9/22例)、PMDAには2004~2018年までに嚥下障害の副作用(全ての適応症を含む)が22件、誤嚥性肺炎の副作用(全ての適応症を含む)が13件報告されています。
本症例のように、ボトックス注を首の前側の筋肉に注射後、嚥下障害、声質の変化、呼吸困難などの副作用が起こることがあります。これは、首・喉の緊張状態や協調性が変化して起こります。通常、軽い症状であれば数週間で回復するとされていますが、海外では嚥下障害により発生した誤嚥性肺炎で死亡した症例が報告されており、注意が必要です。
(民医連新聞 第1697号 2019年8月5日)
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