副作用モニター情報〈497〉 ストロメクトールによる意識障害と高ナトリウム血症
当モニター情報467号でイベルメクチン(製品名:ストロメクトール)の肝障害について注意喚起をしましたが、今回、意識障害の報告がありました。
イベルメクチンはグルタミン酸作動性クロライドチャンネルという受容体に結合し細胞内に塩素イオンが取り込まれるのを促進します。その結果、麻痺が進行し生物が死滅するという神経毒です。ヒトなどの脊椎動物はこのチャンネルの発現が証明されておらず、中枢移行も少ないことから影響を及ぼしにくいとされています。ただ弱いながらも他のクロライドチャンネルにも結合するとされています。
症例)90代 女性 体重38kg 老健施設入所中。ほぼ全身に紅皮症様変化、角化性丘疹を散在性に認め皮膚科受診。KOH法にてヒゼンダニの数の多い角化疥癬症(ノルウェー疥癬)と診断され、ストロメクトール錠3mg3錠を服用
7日目頃 ストロメクトール錠3mgを3錠服用(日付は不確か)
13日目 車いす移動や食事についてはほぼ自力で可能だったが、朝食時、声かけするも開眼せず。食事の咀嚼や内服も困難。点滴(ソルデム1)施行も意識レベルの低下は続き(36.8℃、脈82、SPO2 99%、血圧162/92 刺激で開眼)、病院に搬送。血糖値478、CRP3.32、BUN36.1、血清Cr0.59、Na166、K3.9、CL127、高ナトリウム血症、脱水の診断で入院となる。5%ブドウ糖液点滴500ml開始。発熱はないがCRP3.32だったのでCTRX点滴施行(21日目まで)
15日目 声をかけると開眼できるが、食事・内服摂取は困難
17日目 傾眠傾向つづき食事摂取できず。夕食前血糖>600で測定不能、インスリン施行。Na145と正常化。以後高血糖はあるものの意識レベルは徐々に改善。
20日目 内服可能となる。
29日目 車いす移動可能に、食事も自力摂取可能になった
35日目 血糖値も安定し(食前血糖<300)、退院。
ノルウェー疥癬は蔓延しやすく、早急に駆除する必要があり、安全性が確立していない高齢者にも使用せざるを得ない実情があります。イベルメクチンの用量は200μg/kg。38kgなら6.4mgになり、1錠3mgなので36~50kgでは3錠です(添付文書)。服用はおそらく2回ということですが、超高齢で体重も適用範囲では下限に近かったことから過量となった可能性があります。食思不振・高血糖→脱水・電解質失調→意識障害の経過も考えられますが、脱水が補正されても意識障害が正常化するまでに2週間以上要していることから、移行しにくいとされている中枢に蓄積し神経毒性を発現、意識障害が先行した可能性も否定できません。PMDAの副作用報告では死者も出ています。高齢者に使用する場合は減量や他剤への切り替えも考慮すべきでしょう。
(民医連新聞 第1670号 2018年6月18日)
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