【新連載】57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
薬剤の中枢作用の有無は、薬剤もしくはその代謝物の中枢への移行が大きくかかわっています。脳は生命維持に大切な器官であり、必要な物質のみを取り込み、有害な物質、不要な物質はブロックしたり排泄したりする仕組みが発達しています。
脳血管関門:Blood-brain barrier(以下BBB)は成長とともに発達していくので、脳へ移行しにくい薬剤でも、脳の発達が完成していない乳児~若年者や脳の障害でBBBが破綻している場合は中枢作用の原因となる場合もあります。
中枢神経症状といっても多岐にわたりますが、当モニターに寄せられた報告から考察していきたいと思います。中枢神経系の副作用では、中枢で作用することを期待された薬剤によるものと「望ましくなく」中枢に移行したために発生したものとに分類されます。
●催眠作用のある薬剤
睡眠剤は近年バルビツール系からベンゾジアゼピン系に移行しました。z-drugと呼ばれる(Zで始まる名称がつけられているため)非ベンゾジアゼピン系薬剤(ゾルピデム、ゾピクロン、エルゾピクロンなど)が使用量を拡大させています。これらはGABA受容体に作用して催眠作用を発揮させる薬剤です。詳細は「4.睡眠剤の副作用を再点検する」
の項をご覧ください。
最近ではこれらとは作用機序・作用点の異なる、メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名 ロゼレム)やオレキシン受容体阻害薬スボレキサント(商品名 ベルソムラ)など新規の機序の催眠薬が発売されています。当モニターにも副作用の報告が寄せられるようになっていました。
副作用モニター情報〈455〉 不眠治療薬ベルソムラの副作用と投与量
スボレキサント(商品名:ベルソムラ)は、覚醒や睡眠の調節に重要な働きをするオレキシンの受容体拮抗薬です。続けて服用すると依存の恐れがある「習慣性医薬品」に指定されています。薬効の出るしくみが新しく、酵素CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾールなど)とは併用が禁じられています。日本では、米国より開始用量が多く設定され、錠剤も分割できない形状で用量調節が難しく、過量にならないよう注意が必要です。
各国が共同して行った試験では副作用が20.9%(53例/254例、うち日本人61例)に現れ、主に傾眠(4.7%)、頭痛(3.9%)、疲労(2.4%)の内訳でした。市販直後調査では851例1427件の副作用があり、重篤なものは29例57件。「傾眠」が201件と最も多く、「悪夢」148件、「中期不眠症」92件、「頭痛」79件、「浮動性めまい」50件でした。当モニターには、以下の報告が届いています。
症例)80代女性。マイスリーを服用していたが睡眠リズムが乱れ、ベルソムラへ変更。1週間服用し、服用初日と翌日だけだったが悪夢をみた。継続して悪夢は無いが日中に非常に眠くなり、4週間服用した後マイスリーに変更し症状改善。
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市販後調査での悪夢と異常な夢が現れた時期が分かっているケースについては、ほとんどが1週間以内に発現し、服用後比較的早期に症状が現れると考えられます。ベルソムラはノンレム睡眠だけでなくレム睡眠も増加させるため、レム睡眠に関連した悪夢や睡眠時随伴症などの副作用があるようです。なお回復症例では、85%が服用を中止しています。継続した症例20件では13件が回復・軽快しており、症状が出たのは1日だけでその後は発現していません。
傾眠については、症状の現れた時期が分かった171件のうち81%が起床時~午前中で、うち83%は昼までに回復していました。分かっているだけで回復症例の73%が投薬を中止することで回復していました。多くが午前中に症状が継続し、ほぼ1日中継続する例もあるため、他剤への変更が必要でしょう。
新しい機序の薬剤であるため、今後も未知なる副作用に十分な注意が必要です。
(民医連新聞 第1617号 2016年4月4日)
副作用モニター情報〈477〉 ベルソムラ錠の副作用 第2報
スボレキサント(商品名:ベルソムラ錠)は、2014年11月に発売された、不眠症治療薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤では筋弛緩作用などの副作用がありますが、それを軽減できることも期待され、使用が増えつつあります。今年2月にNHKの番組で、薬効が不適切に紹介され、話題になりました。
2016年4月4日付の副作用モニター情報〈455〉では、悪夢の症例を紹介しましたが、これまでに当モニターには15例19件の副作用報告があります。「悪夢・睡眠時幻覚」4件、日中の眠気を含む「傾眠」4件、「浮動性めまい」2件、「健忘」1件などです。添付文書にないものとして「熱感」、「発汗」が各1例あります。特徴は、使用量は全例15mgで、初回服用での発現が多いことです。
本剤の用量は、日本では成人20mg、高齢者の場合は15mgです。しかし、半減期が10時間以上と比較的長いため、米国では服用翌日の自動車運転時の安全性を重視し、開始用量は10mg、効果不十分な場合に15~20mgとしています。日本では、10mgでの効果が不明確だとして、自動車運転を避けるよう添付文書上で注意喚起することで、米国より多い用量に設定されています。
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なお昨年12月、日本でも10mg錠が追加発売されましたが、用法・用量に変更はありません。10mg錠の添付文書上の位置づけは、あくまでも高血圧治療薬ジルチアゼムなどの薬物代謝酵素CYP3A阻害剤との併用で、本剤の血中濃度が上昇してしまうのを避けることが目的です。しかし、薬物相互作用以外の理由でも、「一時的に減薬して治療が継続できるよう10mg錠の開発が必要である」と、本剤承認時にPMDAが指摘しています。
これまでの症例報告15例のうち6例が80歳以上でしたが、80歳以上の日本人は治験に参加していません。特に高齢者への使用については今後も注意し、場合によっては減薬も必要だと思います。
(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)
ベルソムラは半減期が比較的長く、通常3日くらいは血中濃度が上昇し続けます。また併用薬によっては作用が増強されるので、この薬剤の性格をよく把握した上で処方する必要があります。
●自律神経系用薬の副作用
自律神経系に作用する薬剤は多岐にわたりますが、末梢での効果を期待して処方されたものが中枢に移行して症状が出てしまうこともあるようです。当モニターには、腹痛や頻尿治療に使用される抗コリン薬、かゆみ止めなどに使用される抗ヒスタミン剤の副作用が寄せられています。
抗コリン薬による中枢神経系の副作用 副作用モニター情報〈447〉より
症例1)70才代男性。前立腺肥大症に伴う頻尿に、塩酸プロピベリンが処方された。服用7日目、頻尿症状は無くなったが、「頭に霧がかかったような感覚」を訴える。服用11日目、症状が続き、自己中止。中止後2日目、頭の症状が改善した。
症例2)40才代女性。「頭がそわそわする」という症状に対して、ピペリデンが処方された。服用7日目、発語困難や異常行動が出現。さらに服用14日目に、漢字や考えたことが思い出せないなどの症状が出現。内服中止し、症状は改善した。
症例3)50才代男性。頻尿症状に対してプロピベリンが処方されたが、服用2時間後に頭痛が発現。しばらく続いた後に、回復した。朝夕で服用を続けていたが、そのつど、服用後2時間ほどで頭痛発現、数時間続いたのち回復を繰り返したため、自己判断で服用中止した。
抗コリン作用のある薬剤は、添付文書の副作用欄に「見当識障害、一過性健忘などの意識障害」の記載があります。薬剤によって違いはありますが、腸管や尿道に効くよう設計されていても、少量の成分が脳内に移行するため、中枢神経系に副作用を及ぼすと考えられます。発現頻度が多くないとはいえ、注意が必要です。
(民医連新聞 第1606号 2015年10月19日)より抜粋
副作用モニター情報〈440〉 抗ヒスタミン剤とけいれん~添付文書に記載がなくても注意!~
オロパタジン塩酸塩(製品名:アレロック)は、アレルギー性鼻炎などに有効な薬剤です。当モニターにけいれんの副作用が報告されました。
症例)小学生の男児。てんかんがあり神経科でラミクタール(抗てんかん薬)が処方されていた。また、慢性鼻炎もあり、耳鼻科でクラリチン(抗ヒスタミン剤)も処方されていたが、アレロックに変更後、それまで起きていなかったけいれん発作が続いた。神経科の医師がアレロック中止を指示し、その他の抗ヒスタミン剤も禁忌とした。中止後、けいれん発作は起きず、てんかん発作もなくなった。
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脳の働きに大切な神経細胞は、血液脳関門によって有害物質から守られています。抗ヒスタミン剤は、その血液脳関門を通過してしまうため、脳内でもヒスタミンの働きを低下させてしまいます。ヒスタミンは、脳細胞のネットワークに起きる異常な神経活動(てんかん放電)を抑制する仕組みと深く関わっているとみられ、脳内のヒスタミンレベルが低下すると、けいれんが引き起こされると考えられています(参考:厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアルより)。
(民医連新聞 第1599号 2015年7月6日)より抜粋
副作用モニター情報〈365〉 小児におけるシプロヘプタジン製剤の興奮、異常行動の発現
シプロヘプタジン製剤ペリアクチン(R)について、副作用モニターに寄せられた症例をまとめました。
60歳以上の6例では眠気4例、ふらつき、動悸、排尿困難各1例(重複あり)と、抗ヒスタミン作用によるものに加え、「足の筋肉がねじられる感じ」という症例でした。
1~6歳の3例では、「服用後泣きわめく状態が1~2時間くらい続いた」「石を食べようとしたり、石鹸でうがいしようとした」「服用後30分くらいしてから手が震え始めて興奮状態になり暴れだし、2時間ほどでいつもどおりに戻った」という状態で、いずれも興奮、異常行動を示すものでした。
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シプロヘプタジン製剤は抗ヒスタミン剤として利用される以外に、古くから、セロトニン拮抗作用を期待され、食欲亢進、ダンピング症候群、片頭痛、セロトニン症候群に対する適応外での使用が紹介されています。
その理由を構造式に求めてみると、抗ヒスタミン剤の中では珍しく、セロトニン骨格を持っているという特徴があり、作動するセロトニン受容体サブタイプの違いにより、さまざまな作用を示すとみられます。
また、タミフルにも同じセロトニン骨格があり、この報告に挙がった小児の報告事例はすべて、タミフルの副作用と一致しています。
抗ヒスタミン剤は、抑制系中枢神経の抑制により痙攣閾値を低下させ、興奮や痙攣を誘発するともいわれますが、シプロヘプタジン製剤では、それに加えてセロトニン作用による異常行動が加わるのかもしれません。特に小児への使用については注意が必要な薬だといえます。
(民医連新聞 第1516号 2012年1月23日)
副作用モニター情報〈318〉 オキサトミド(抗ヒスタミン剤 商品名 セルテクトなど)錐体外路症状を見逃さないで
オキサトミドはヒドロキシジン類似の抗ヒスタミン剤です。鎮静作用は穏やかなので、古典的な抗ヒスタミン薬と比べ、眠気や頭痛の副作用が少ないとされています。当モニターには、集計を開始した1990年から、これまでに通算で65件の報告がありました。この1年間では、めまい2件、頭痛1件、重篤な顔面 浮腫1件が報告されています(いずれも添付文書では発生率は0.1%未満とされている)。
オキサトミドは抗ドパミン作用に由来する制吐作用を併せもっています。ランセット誌に、小児で起きた副作用として、ジストニア(筋肉の緊張異 常による不随意運動)が6件報告されています。うち2例は常用量の投与でしたが、異常に血中濃度が高くなっていました。成人では血中半減期は5.2時間、 小児の血中半減期は9.6時間です。本剤は、米、英など主要国では使用されていない日本のローカルドラッグです。その背景には、こうした報告があるのかも しれません。
当モニターで、錐体外路症状と考えられる報告は、振戦1件(80歳代)、手指筋肉のけいれん1件、首の硬直1件(小児)があります。抗ドパミン作用に基く報告は、乳房痛1件、月経異常1件があるだけです。これらは盲点になって見逃されているかもしれません。幅広い年齢層に長期投与される可能性のある薬剤です。とくに小児や高齢者の長期服用では、嚥下困難など錐体外路症状の有無などを切り口に、症状の観察や質問をする必要がありそうです。
●スルピリド(商品名 ドグマチールなど)、メトクロプラミド(商品名 プリンペランなど)
ベンズアミド骨格は精神科領域の薬剤によくみられる骨格です。ここではこの骨格を持つ2つの薬剤の副作用について述べていきたいと思います。
スルピリドの副作用報告が多く寄せられています。消化管より吸収されたスルピリドは、ほぼ尿中に排泄に排泄されるため、腎機能が低下していると血中濃度が上昇しやすくなると考えられます。意欲低下や食欲低下に用いられることが多くなっており、高齢者へ常用量使用による垂体外路症状(薬剤性ハーキンソニズム)の発現に注意する必要があります。
副作用モニター情報〈397〉 スルピリドによる薬剤性パーキンソン症候群について より改変
スルピリド(先発品:ドグマチール)は1970年代に承認・発売された、ベンズアミド系の薬剤です。D2受容体(以下D2受容体)に作用し、用量によっていくつかの適応症を持っており、低用量では、消化管のD2受容体を遮断することでアセチルコリンの分泌を促進し消化管運動亢進、中枢においてはドパミン自己受容体遮断によるドパミン分泌増加による抗うつ作用、高用量では、ドパミン受容体遮断作用によって統合失調症に用いられます。この1年間で12例 の副作用報告が当モニターに寄せられました。
幅広い年齢層で使用されていましたが、うつ病とこれに関連した食欲不振への処方がほとんどであり、服用量はすべて1回50mg1日150mgまででした。
精神・神経系の副作用が最も多く、8例です。このうち黒質線条体におけるD2受容体阻害作用によると思われる、パーキンソン症候群の報告が6例ありました。症状としては、すり足、振戦、小刻み歩行(歩幅が狭い)、ふらつき、筋強剛などが出現しています。ほとんどが75歳以上の高齢の方でした (本薬剤は腎排泄型であり、特に高齢者への注意は必要と言えます)。
その他、女性化乳房、月経不順、胸の痛み、恐怖感・幻覚など報告がありました。
パーキンソン症候群の発現時期については、服用開始後2カ月後が最短ですが、「不明」の報告症例が多く、長期にわたって服用されている間に、副作用症状 とスルピリドとの関連が見過ごされている例も多いと思われます。薬局の薬剤師から処方医への文書報告によって中止、回復された例もありましたが、一方で服 用開始後3年以上を経過し、中止後に遅発性ジスキネジアを発症し口のモゴモゴが残った例が1例報告されています。
歴史の古い薬剤で、他の抗うつ剤との併用も多いと思われますが、長期で服用されている患者さんに、再度スルピリドに焦点をあてたチェックが必要と思われます。
その他、メトクロプラミド(製品名:プリンペラン)も、ベンズアミド系薬剤であり、血液脳関門を通過し同様の副作用発現の可能性があり、注意が必要です。
(民医連新聞 第1551号 2013年7月1日)より改変
副作用モニター情報〈362〉 メトクロプラミド(プリンペランⓇ等)による小児の錐体外路障害について
メトクロプラミド(プリンペランⓇ等)による副作用は、過去1年間で9件報告されている。発疹2件、手のふるえ・筋硬直を含む錐体外路障害は7件であった。いずれも65歳以上の高齢者での発症。今回、小児による錐体外路障害の副作用が報告されたので紹介する。
症例)10歳 女児。47kg
朝、腹痛、嘔吐あり。近医受診し、プリンペラン錠Ⓡ30mg/日分3で処方された。夕方38℃の発熱あるも1日以内に解熱。2日後の夕方頭痛あり。 舌が口の中で丸まっているのを祖母が発見し、手で3回ほど直す。その3時間後、顔が右側に曲がっているのを祖父が気づく。フラフラと揺れる感じで右側に 回っていた為、救急外来受診。外来では、左側にひっぱられる、左側へ回ってしまう、うろうろと落ちつかないなどの症状。髄膜炎、てんかんではなかった。プ リンペラン錠Ⓡの副作用を疑い内服中止。翌日、小児科を受診している間に症状は消失した。
小児へのメトクロプラミドの投与は、急性胃腸炎等の際に鎮吐剤として処方されることが多いが、錐体外路症状が発現しやすいため(特に脱水症状のある時や発熱時)、慎重に投与する必要がある。
小児用量は塩酸メトクロプラミドとして0.5~0.7mg/kg/日(体重に対応したkg用量の添付文書記載はシロップのみ)で、この患者にあてはめる と23.5mg~32.9mgとなり、投与された30mgは計算上過量ではない。しかし体重の多い小児の場合、代謝機能は年齢相応にも関わらず成人量(あるいはそれ以上)を投与されることにもなりかねない。
「塩酸メトクロプラミドの常用最上限量は0.5mg/kg/日、これを超えて使用された場合神経学的合併症をきたしやすい」との文献もあり、添付文書通りの量では多すぎる可能性がある。小児の用量設定に際しては、体重だけでなく年齢も十分に考慮すべきである。
小児のメトクロプラミドによる錐体外路障害の症状は、眼球上転、口角偏位、舌の突出、頸部後屈、斜頸など、主に顔面と頸部にジストニア反応が現れること が多い。症状の発現には、複数回薬剤投与後24~72時間が多く、一過性の著明な血中濃度の上昇よりも、高濃度の持続が関係しているとの報告がある。内服 中止、補液投与のみで回復している例が多いのも特徴。
(民医連新聞 第1512号 2011年11月21日)
副作用モニター情報〈469〉 胃腸薬メトクロプラミドによる中枢障害
メトクロプラミド(先発品:プリンペラン)は、胃腸の働きを良くする薬で、成人、小児ともに広く用いられています。消化管運動の促進や、制吐作用があります。
本剤による副作用は、2011年と14年に報告していますが、今回は改めて中枢障害の状況を報告します。
過去5年間で当モニターに寄せられた本剤の副作用報告は23例。うち16例(内服14例、注射2例)で、ふるえ、口・足の不随意運動、身体硬直、歩行困難など錐体外路症状が中心でした。また過去に寄せられた副作用報告全87例のうち32例(約4割)が錐体外路症状でした。同じ薬効のドンペリドン(先発品:ナウゼリン)では、全32例の報告中、同症状は2例であることからみても、本剤での発現頻度は高いと言えるでしょう。
年代別では、15歳未満が3例、不明1例をのぞき、全て65歳以上の高齢者で、90代も3例ありました。
本剤は腎排泄型薬剤で、代謝機能が低下する高齢者については長期使用による非可逆的な遅発性ジスキネジアが懸念されます。投与量や投与間隔の配慮が必要です。
小児は、過去5年で症例は3例。うち2例で、発熱・脱水がありながら1日内服量が30mgとされていたことが特徴です。プリンペランシロップの添付文書では小児の用量を「1日に0.5mg~0.7mg/kg(適宜増減)」としていますが、EMA(欧州医薬品局)は「急性の神経系への影響は子どもでリスクが大きい」と、日本の承認用量を下回る「1回0.1mg~0.15mg/kgを1日
最大3回まで」にしています(2013年勧告)。参考にしましょう。
(民医連新聞 第1579号 2014年9月1日)
高齢者での垂体外路症状の発現は、歩行障害→転倒→骨折の原因となります。上記薬剤の漫然投与によってADLの低下を招いている可能性もあります。処方を続けるメリット・デメリットを再点検する必要があります。ドンペリドンはメトクロプラミドに比べて報告は少ないですが、D2受容体刺激作用があります。内服錠剤が10mgであるのに対して成人用の坐薬は30mgと高用量となっており血中濃度も上昇するので注意が必要です。
●その他の薬剤による中枢神経症状
長期・高用量・排泄低下などの因子で、薬剤の中枢移行・蓄積により症状が出る場合があり注意が必要です。
メトロニダゾールに嫌気性菌感染症の適応が追加され、長期投与される場合も増えています。
副作用モニター情報〈432〉 メトロニダゾールによる中枢神経障害
メトロニダゾールは、抗トリコモナス剤として1957年から使用されてきました。世界的には嫌気性菌治療剤としても使用され、日本でも2012年8月に「嫌気性菌感染症、感染性腸炎、アメーバ赤痢、ランブル鞭毛虫感染症」の「効能・効果」が追加承認されました。これにより、高用量で長期に使用される症例が増えてきました。
症例)70歳代 女性 体重33kg
子宮留膿腫の診断でメトロニダゾール投与開始(他院のため開始時の投与量は不明)。
投与141日目 徐々に体重減少。嘔吐、嘔気出現し食事摂取困難。精査目的で入院。内服薬は紹介状記載のものを継続。電解質、血糖値、頭部CT、胃カメラ、腹部エコー、異常なし。メトロニダゾール錠は1000mg/日 分4で投与続行。
投与154日目 誤嚥性肺炎を疑いCTRX点滴投与。
投与157日目 誤嚥リスクあり、中心静脈栄養管理となる。その後、MPEM点滴に変更。炎症反応改善、解熱傾向のためMEPM中止、同時にメトロニダゾールも中止。
中止2日目 入院後、上肢の不随意運動、振戦が目立ちADL低下。CT画像では不随意運動の原因と考えられる所見なし。頭部MRI施行。
中止9日目 MRI画像(脳梁膨大部病変)より、メトロニダゾール脳症が考えられる。メトロニダゾールはすでに中止しており、経過観察となった。
中止15日目 不随意運動改善傾向。
中止37日目 右手の振戦が残る程度。
中止66日目 徐々に経口摂取量アップ。
* *
メトロニダゾールは、たん白結合率が低く、血中にとどまらず組織に移行します。また尿中排泄が遅延することから、組織にとどまり排泄しにくい薬剤と考えられます。
脳にも移行するため、脳に器質的な異常がある患者は禁忌です。末梢神経障害、中枢神経障害等の副作用が現れることがあるので,特に10日を超えて長期に本剤を投与する場合や1500mg/日以上の高用量投与時には、副作用の発現に十分注意する、とされています(添付文書)。
今回の症例は低体重であり、もとの投与量そのものが過量であった可能性があること、5カ月に及ぶ長期の投与、などが原因と考えられます。膿瘍を形成する場合は長期投与になる場合がありますが、神経症状の発現には十分注意し、MRIなどで病変の有無の確認が必要です。
(民医連新聞 第1591号 2015年3月2日)
この章では、中枢神経症状の副作用の一部ですが特徴的な薬剤について記述しました。高齢者や病態によって過量になって発現した可能性があるものも多く見受けられます。裏返せば事前に食い止められた可能性もあります。中枢移行性や患者個々の状態を把握して薬剤選択、用量設定をすることが大切です。
中枢神経用剤はもちろんですが、抗がん剤、抗菌剤、抗ウイルス薬でも中枢神経症状が報告されています。それぞれの章を参照してください。
画像提供 京都民医連 一般社団法人メディカプラン京都
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**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
50.総合感冒剤による副作用
51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
52.健康食品・サプリメントによる副作用
53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
54.ワクチンの副作用
55.骨粗しょう症治療薬による副作用
56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
■掲載過去履歴一覧
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