【新連載】40.抗結核治療剤の副作用
抗結核治療剤:ピラジナミド(PZA)、イソニアジド酸(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール塩酸塩(EB)
この5年間にPZA・INH・RFP・EBの4剤併用の副作用として、薬剤性肝機能障害11件・尿酸値上昇6件・薬疹4件・高次機能障害1件・発熱1件が寄せられています。肝機能障害は、4剤ともに休薬後肝機能値の異常値の軽減をみながら順次再開していますが、再開による肝機能の悪化が患者ごとにPZA・INH・RFP・EBのいずれかで生じるケースが報告されています。4剤共に肝機能値異常を引き起こすことから、再投与で確認をしながら処方量を引き上げていくことが大切です。
また、尿酸値の上昇では、PZA・EBが被疑薬として挙げられています。特にPZAによる尿酸値上昇の頻度が高いが、4剤療法を維持することを優先し抗尿酸血症治療薬などを併用するケースもあります。
注意したい副作用としては、EBによる視力低下が2件ありいずれも1ヶ月で生じています。
症例)80歳代女性 肺MAC症にてクラリスロマイシン200mg4錠/2×、エタンブトール塩酸塩250mg3錠/1×、リファンピシン150mg3C/1×開始。1か月後遠くのものが見えずらくなり、眼科受診。エタンブトール塩酸塩による視神経炎疑いにより36日目に中止。中止後6日目、見え方がよくなってきている。[肺MAC症;Mycobacterium Avium Complex(MAC)を原因菌とする、慢性の肺疾患。非結核性抗酸菌症のひとつ]
また、RFPによるワーファリンの効果減弱が1例報告されており、血液凝固系検査PT-INRを指標にしながらワーファリンを2~3倍へ増量が必要となります。
イスコチン(INH)単独使用による肝機能異常は10件ありました。下記の副作用モニター情報〈420〉を参考にしてください。
副作用モニター情報〈420〉 抗結核薬イソニアジド 適切な投与量を
イソニアジド(INH)は、リファンピシン(RFP)と並んで結核症に対する第一選択薬です。同時に、近年、関節リウマチなどの治療で強力な免疫抑制作用を持つ生物学的製剤を使用する機会が増え、注意喚起されるようになった潜在性結核感染症(LTBI)でも第一選択薬です。
INHによる肝機能障害は、INHの代謝物のひとつであるアセチルヒドラジンの用量依存的な蓄積が原因と考えられています。INHの投与量は、添付文書では体重1kgあたり4~10mgとされており、最大量500mg、2013年3月に発表された「潜在性結核感染症治療指針-日本結核病学会予防委員会・治療委員会-」では5mg/kgで最大量300mgです。治療に必要な期間は6~9カ月のため、どちらにも「定期的な肝機能検査が必要」と書かれています。
最近1年間の当モニターに寄せられたINHによる肝機能障害は、RFP併用の3例とLTBIにおけるINH単独投与の3例、計6例の報告事例すべてが、体重を考慮せず最大量の300mgで投与を開始していました。
肝機能障害の危険は、RFPとの併用では肝代謝酵素P450(シトクロムP450:CYP)が誘導された結果、INHの代謝速度が上がり、INHの代謝物のひとつであるアセチルヒドラジンの生成量が急激に増えるため、やむを得ない側面はあります。しかし、INH単独投与では、LTBIの指針通りに5mg/kgで投与が開始されていたら、肝機能障害を防ぐことができたかもしれません。
投与量の設定は、およその体重で40kgでは200mg、50kgで250mg、60kgで300mgと細分化することで、肝機能障害の予防を試みてください。INHの主たる代謝経路は酵素P450とN-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)による2通りがありますが、アセチルヒドラジンの代謝は NAT2の経路だけなので、少数ですが、NAT2の活性が低い遺伝子多型のケースを念頭に置き、柔軟に投与量を変更できるようにしたいものです。
【注意】当事例に限らず、薬品の投与の際は、体重を確認し、過量にならないよう注意が必要です。また、副作用モニター情報報告書には、可能な限り体重の記載をお願いします。LTBIを診断した場合は、保健所に届け出てください。
(民医連新聞 第1577号 2014年8月4日)
副作用モニター情報〈329〉 イソニアジドと飲食物との相互作用
イソニアジド(INH)は、食事との相互作用で不快な症状を引き起こす場合があります。
それは、同薬がMAO(モノアミンオキシダーゼ)や、DAO(Dアミノ酸酸化酵素)を阻害するためです。
【症例】結核のために入院し、イソニアジドによる治療を開始。3カ月後に転院し、外来治療を継続。入院中も含め、同薬と食事との相互作用について説明されなかった。 そのため、マグロ、チーズを食べて頭痛、吐き気を繰り返していた。イソニアジド服用以前は、マグロ、チーズを食べてもこのような症状は出現しなかった。
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魚類には、マグロ、ブリ、ハマチ、イワシなどヒスチジンの含量の多いものがあります。ヒスチジンは体内で脱炭酸され、ヒスタミンに変化しますが、そのヒスタミン代謝にMAO、DAOが関与します。 そのため、同薬服用中に、これらの魚類を食べると、体内にヒスタミンの蓄積が起こり、頭痛、嘔吐、紅斑、掻痒感など中毒症状を起こすことがあります。
また、モノアミン類の含有量の多い食品も注意が必要です。チラミンが多いチーズ、ワイン、そらまめ、イチジクなど、ヒドロキシトリプトファンを含有する バナナ、パイナップルなど、その他、レバー、酵母などを、同薬を服用中に食べると、血圧上昇、動悸、頭痛などのアミン中毒症状が出現することがあります。
他にも、アルコール飲料やカフェイン含有飲料(コーヒーなど)で有害な相互作用を起こす場合があります。
新規処方の際は当然ですが、他院からの継続処方の場合も、薬物相互作用と同様に食事との相互作用があることを伝え、注意を喚起することが必要です。
(民医連新聞 第1474号 2010年4月19日)
■画像提供 山梨民医連
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**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
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1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
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