【新連載】32.アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(ATP)の副作用
ATP注による気管支けいれんなどの重篤な副作用に対するアミノフィリンの投与
アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(製品名:ATP注)分解産物のアデノシンは、虚血に対する心筋保護効果があります。心筋細胞の受容体を介した房室結節伝導の抑制や洞結節調律の抑制など、抗不整脈作用を期待して投与される場合もあります。しかし同時に、房室ブロックや洞停止、その他の心電図異常を誘発する可能性があり、特に高齢者の発現率が高くなっています。
当副作用モニターには、80歳代男性で発作性上室性頻拍(PSVT)に対し、アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物20mgを急速静注した直後に、呼吸困難が悪化し挿管した事例が報告されました。ゆっくり静注すると、アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物は血中から消失してしまい、効果が得られません。急速静注を行う場合は、注意深く観察する必要があります。
またこの事例は、併用薬から喘息などの気管支れん縮性の肺疾患が疑われ、特に注意が必要だったと思われます。喘息患者に発作を誘発した症例報告は他にもみられます。
静注されたアデノシン三リン酸二ナトリウム水和物は速やかにアデノシンまで分解され、きわめて迅速に細胞内に取り込まれます。アデノシンの半減期は数秒のため、通常は投与終了あるいは中止後すぐに症状は回復し、治療の必要がないことがほとんどです。
しかし、遅延性あるいは持続性の症状が発現することもあり、気管支けいれんに限らず重篤な症状が現れた場合には、アデノシン受容体拮抗作用のあるアミノフィリンの投与を検討します。緊急時、とっさに思い浮かばない処置だからこそ、対応について確認し準備しておきましょう。
『喘息予防・管理ガイドライン2009』では、アミノフィリン(250mg/筒)6mg/kg+等張補液200~250mlを点滴静注する場合の急性増悪(発作)への対応として、「最初の半量を15分で投与し、残りの半量を45分で投与する。発作前にテオフィリン薬が十分に投与されている場合は、アミノフィリンを半量もしくはそれ以下に減量する」としています。副作用症状が消失するか、アミノフィリンの中毒症状(頭痛、吐き気、動悸、期外収縮など)が出現した場合は中止します。
内服の場合でも、動悸や頻脈、全身拍動感、胸部の違和感などの副作用が、いずれも70歳以上の高齢者で報告されています。観察や聞き取りを強化しましょう。
(民医連新聞 第1595号 2015年5月4日)
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