【新連載】26.ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-Induced Thrombocytopenia: HIT)
ヘパリンによる重大な副作用
ヘパリンによる重大な副作用としてヘパリン起因性血小板減少症があり、厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアルにも掲載されています。副作用モニターでは過去にモニター情報181「ヘパリンによる血小板減少(2001年上半期血液障害のまとめ)」、およびモニター情報356「ヘパリン起因性血小板減少症」(民医連新聞2012年2月)において注意喚起を促してきました。
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)には、軽度の血小板減少を伴い自然回復していく非免疫的機序の「I型」と、ヘパリン+血小板第4因子の複合体とこれに対する抗体(HIT抗体)の自己免疫反応による「II型」があります。
II型は、形成された免疫複合体が血小板を活性化し、血小板減少、トロンビンの過剰生産が起こり、動静脈血栓を発症させます。出血症状はまれで、低分子ヘパリンより未分化ヘパリンの方が発症リスクは高まります。
血小板減少はヘパリン投与5~14日後に始まり、投与前値の50%以上の減少、あるいは15万/μL以下とされています。
治療としてはヘパリンを中止し、血栓リスク回避のために抗トロンビン剤アルガドロバンで対応します。ヘパリン中止後1~2日で血小板は回復してきますが、適切な診断・治療がなければ死亡率10%~20%と言われており、ヘパリン開始後の血小板の定期的確認を必ず行います。また、100日以内にヘパリンを使用していた場合も、急性発症例のチェックのため再検査が必要です。(モニター情報366 2012年2月より抜粋)
今回、改めてヘパリン製剤(注射剤)の過去5年間の副作用報告を抽出したところ、7件のヘパリン起因性血小板減少症と思われる報告がありました。
7件の症例のうち、5件が血液透析時の凝固阻止の目的で使用されていました。発現期間は投与開始2~3分後にショック症状を呈した例を除くと、いずれも5~15日間で発現しており血小板数も4.2~9.8万/μLまで低下していました。検査による早期発見により回復しています。呼吸困難や胸痛、四肢の腫れなど自覚症状の訴えはありませんでしたが血小板減少からHITを疑い、投与中止しHIT抗体検査等を実施しています。
なお、投与開始数分でショック症状を呈した症例を紹介します。14日前にナファモスタットメシル酸塩(商品名:フサン)による透析を開始した際、カテーテル留置のために使用したヘパリンロックによりHIT抗体が産生され、その後抗凝固剤をナファモスタットメシル酸塩から低分子ヘパリンへと変更したことにより急激に血管内凝固が亢進しショックを起こしたと考えられます。
症例 50代男性
糖尿病による慢性腎不全により透析実施。抗凝固剤としてフサン使用、カテーテル留置のためにヘパリンロックを使用し2週間同条件にて透析実施。
15日後、抗凝固剤として低分子ヘパリンを使用し留置カテーテルから透析を実施したところ開始2~3分後に頭痛、吐気を訴えられて意識低下、血圧低下、呼吸数低下、停止とショック症状を認めたため血液透析中止。アンビューで呼吸補助をしたところ意識、呼吸ともに回復。ショック時の血小板は5.7万/μL、直近の採血データは29.3万/μLであり著しく減少していた。この時回路内凝固は認められなかった。
同日状態が安定したところで抗凝固剤をヘパリンからフサンに変更し、部位をカテーテルからシャント血管に変更して血液透析実施したところショック症状は認めなかった。2週間後、HIT抗体を測定したところ陽性であった。
画像提供:愛知民医連 (株)ファルマネットみなみ
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