副作用モニター情報〈473〉 止血剤トラネキサム酸の用量に依存した副作用
トラネキサム酸(TXA、先発品:トランサミン)は、血栓の分解を防ぐ抗プラスミン作用を持つ止血剤です。海外とは異なり、日本では咽頭炎などに適応があり、抗炎症剤として日常的に使われています。血液透析を週3回行っている患者さんに、トラネキサム酸の蓄積による中枢性副作用が現れた症例を紹介します。
症例)60代、女性。14年前から血液透析を週3回行っていた。透析時、体温37.8℃、頭痛、咽頭痛があり、TXAを1500mg/日、毎食後7日分で処方。服薬開始5日目まで徐々に食欲が低下、6日目は2回嘔吐し、まったく食べられなくなった。7日目にも嘔吐。食事はできず、両手に力が入らずピクピクとした震えが出現。両足にも力が入らず、うまく立ち上がれなかった。病院で頭部CT、血液、心電図の各検査を受けたが、異常なし。薬剤性を疑い、TXAの服用を中止。
カルテ調査の結果、TXAの投与量が750mgの時は症状がなかったが、1年8カ月前、初めて1500mgに増量した時は服用開始5日目に「不随意運動」、服用終了日の6日目(透析日)に「不随意運動にジアゼパム有効」と記載。増量2回目の10カ月前は、8日目に「首や肩のけいれん症状出現」と記載されていた。3回目の今回は、服用中止2日目(透析後)に不随意運動は消失、症状が改善し自宅退院。
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海外の添付文書には、「用量依存的にGABA-A受容体を阻害、けいれん発作を誘発する」と記載されています。そして、「腎障害時の投与量補正が必要。経口製剤では、血清クレアチニン値(Cr)1.4~2.8mg/dlの場合1300mgを1日2回で最長5日間、Cr=2.8~5.7mg/dlでは1300mgを1日1回で最長5日間、Cr>5.7mg/dlでは650mgを1日1回で最長5日間」と規定しています。透析患者への設定はありません。
日本の添付文書には、慎重投与に「腎不全のある患者」とあるだけで、腎機能に応じた投与量は書かれていません。意外にも、市販薬の「トランシーノ」(肝斑治療剤、TXA 750mg/日)の注意事項には、「透析療法を受けている人(けいれんが現れることがあります)」としっかり書かれています。
今回の症例は、海外の用量設定に照らし合わせると、用量、投与期間のどちらも過剰でした。海外の情報を日本の添付文書にていねいに反映させていれば、防ぐことのできた副作用だったと考えられます。
(民医連新聞 第1638号 2017年2月20日)
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