• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

【新連載 2024.04.10】23.産婦人科用剤の副作用

プレグランディン膣坐薬による子宮破裂、塩酸リトドリン(切迫早産治療薬)による白血球減少、エストロゲンによる肺塞栓症、ヤーズフレックス配合錠によるしびれ、排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群

 161209_01

プレグランディン膣坐薬による子宮破裂
 プレグランディン膣坐薬は、妊娠中期の治療的流産に使用されているプロスタグランジンE1誘導体です。本剤は強い子宮収縮作用と子宮頸管開大作用を有し、重篤な副作用として子宮破裂、子宮経管裂傷、子宮出血が報告されています。

症例) 30歳代女性、妊娠18週

破水ならびに絨毛膜下血腫を伴い妊娠継続が困難と判断された。本剤を初日に3時間ごとに4個、夜間ラミナリア挿入し、翌日再度3時間ごとに3個使用し中止。2時間後子宮口開大で出血多く、血性の塊が出現。胎盤が先に出てきたため早期剥離と判断し、DIC並びに貧血の治療に移行した。8日後、エコー検査で子宮破裂を確認。翌々日に子宮修復術を施行した。

 本症例は、原疾患として絨毛膜下血腫や子宮内感染があり、子宮筋層の弱い部分があったところに本剤による強い子宮収縮で子宮破裂がおこった可能性が強いと考察されています。一般に「帝王切開、子宮切開の既往歴のある患者や多胎妊娠、多産婦の患者では特にリスクが高い」とされており、症例ごとに本剤の投与可否を含め慎重な対処が必要です。 また経過中に子宮破裂や経管裂傷を生じても、強い下腹部痛など顕著な兆候を示さない症例も報告されており、子宮内容物排出後にも慎重に内診を行うことが重要です。

塩酸リトドリン(切迫早産治療薬)による白血球減少

 塩塩酸リトドリンの長期投与中に白血球減少(グレード3)を起こした例が報告されました。本剤による白血球減少は、重症 例は稀とされていますが、21日以上の持続投与や総量が5000mgを超える例での報告が文献上散見されます。今回報告された症例は、週1回のペースで血算を実施していましたが、4週目で急激に減少し、G-CSF製剤を適応外で使用し回復しました。長期、総投与量が4000mgを超えるようなケースでは、週2回程度の血算を実施するなど白血球数に注意し、3000/mm3を切ったら早めに中止することが必要です。

症例)20歳代女性 妊娠30週

 切迫早産で、リトドリン錠15mg/日の内服を開始したが改善せず、2日後に入院となる。リトドリン注100mg点滴静注開始し13日後200mgに増量。投与開始から29日目に白血球数が1500/mm3となり、リトドリン注を中止しズファジラン注に変更、さらにマグネゾールを追加、さらにノイトロジンを4日間使用し5500/mm3まで回復し36週で退院。以後は経過良好、40週6日で正常分娩した。

(民医連新聞 第1353号 2005年4月4日)

 161209_02

経口女性ホルモン配合剤(低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤)による静脈血栓塞栓症(VTE)

 経口女性ホルモン配合剤(低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤)は、頻度は低いものの静脈血栓塞栓症(VTE)を発症します。ある海外の疫学調査では、年間1万人あたり、VTE発症リスクは、OC非使用者1~5人に対し、OC使用者3~9人、妊娠中5~20人、分娩後12週間40~65人でした。つまり、OCによるVTE発症リスクは、妊娠中や分娩後12週間ほど高くはないものの、OC使用者ではOC非使用者の約2倍に上昇します。発症時期は服用開始後3カ月以内がもっとも高く、年間1万人あたり14.3人、2年目7.3人、3年目6.3人、4~5年目4.5人でした。また、肥満、高年齢、喫煙、家族歴などのリスク因子がなくても、服用による発症リスクは高まります。

エストロゲンによる肺塞栓症について

 結合型エストロゲン(プレマリン錠等)は、凝固因子産生促進作用があり、静脈血栓形成を促進させるため、塞栓症の注意喚起がされています。一方でジヒドロゲステロン(デュファストン錠等)に関しては、プロゲスチン製剤は脂質代謝異常を誘導しやすいことから、動脈血栓に促進的に働くといわれています。またこの傾向はアンドロゲン作用が大きいものほど強く現れます。

症例)40歳代女性

 手の湿疹と眼瞼の腫れで外来 皮膚科受診したが、息切れ著明、口唇・顔面蒼白気味、冷汗あり、口唇チアノーゼあり、喘鳴なし、吐き気なし、意識クリアだがややもうろう。内科受診して検査。肺塞栓疑いにて造影CTを至急撮影し、左右肺動脈に肺塞栓を認め、肺塞栓症の加療にてICU入院となる。プレマリン、デュファストン中止し、ヘパリン、ワーファリンによるコントロール開始。10日後に退院した。

 本症例は、プレマリン錠とデュファストン錠の併用患者に肺塞栓症を発症した事例です。デュファストン錠はアンドロゲン作用を持たない製剤であることから、プレマリン錠のみを被疑薬として報告されています。

 ホルモン剤使用中の凝固能検査や、血栓症が現れる可能性について、患者への説明と注意喚起が必要です。

ヤーズフレックス配合錠によるしびれ

 ヤーズフレックス配合錠(以下、本剤)は、合成黄体ホルモンのドロスピレノンと合成卵胞ホルモンのエチニルエストラジオールとの配合剤です。海外でも問題視されていた血栓症による死亡が3例報告され、2014年に、使用上の注意の改訂、警告欄の新設とともに安全性速報(ブルーレター)が発出されています。

症例)20代女性 体重・喫煙歴・家族歴不明

開始日:月経困難症に対し本剤開始
開始約1カ月後:手足のしびれあり、その後、服用継続したがしびれが続くため自己判断で中止
中止2日後:しびれ改善、本剤中止し当帰芍薬散へ変更

 本症例のしびれはVTEの初期症状であった可能性があります。多くは早期発見、早期治療で治癒するとされていますが、放置すると重篤化するケースもあるため、初期症状についての説明を徹底し、血栓症が疑われる症状を認める場合は早期に投与を中止するなどの適切な処置が必要でしょう。

(民医連新聞 第1787号 2023年7月17日)

排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群

 不妊治療に用いられる排卵誘発剤の副作用として、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyperstimulation syndrome)があります。OHSSは排卵誘発剤によって過剰に卵胞が刺激された結果、卵巣が腫大し、腹水がたまることで腹部膨満感、体重増加、腹囲増加を認めます。

症例)20代女性(治療開始前の体重不明)

1~14日目:ゴナールエフ(ゴナドトロピン製剤)投与、15日目:ヒト絨毛性腺刺激ホルモン(hCG)製剤投与、27日目:嘔気(おうき)、下痢出現、30日目:つわり症状強く受診。軽度下腹部痛、高度脱水、少量腹水貯留、両側卵巣が多嚢胞(のうほう)性に腫大。OHSSとして入院。アルブミン(Alb)3.1g/dL、Dダイマー7.5μg/mL、体重51kg、補液開始、31日目:腹水2.5L採取後、腹水ろ過濃縮再静注法(CART)実施、体重53kg、34日目:正常子宮内妊娠を確認
36日目:両側胸水著明、体重51.9kg、38日目:尿量減少、腹水、腹部膨満感悪化、再度CART実施、体重50.6kg、44日目:Alb2.9g/dL、Dダイマー23.9μg/mL(血栓はなし)
47日目:体重46kg、67日目:Alb3.6g/dL、Dダイマー5.6μg/mL、体重42.5kg、つわり症状、胸水、腹水ともに改善傾向のため退院。

 OHSSのリスク因子は、若年、やせ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、ゴナドトロピン製剤投与量増加、血中エストラジオール値の急速な増加、OHSSの既往、発育卵胞数の増加と生殖補助医療における採卵数の増加、hCG投与量の増加・反復投与、妊娠成立、とされています。
 OHSSの発現頻度はおよそ5%程度ですが、重症例では腎不全や血栓症などさまざまな合併症を引き起こし、死亡例も報告されています。OHSSは原因薬剤の中止で回復することもあるとされています。早期発見のため、患者への初期症状(腹部膨満、嘔気、体重増加)の説明や治療開始前の発症リスクの評価が重要でしょう。

(民医連新聞 第1766号 2022年8月15日)

 161209_03

画像提供 東京民医連 (株)城南医薬保健協働
http://jyounaniyaku-recruit.jp/

■掲載過去履歴一覧
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

■副作用モニター情報履歴一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=26

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用 
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.抗凝固剤の副作用(ワーファリン NOAC)
  27.抗血小板凝固剤の副作用
  28.高尿酸血症治療薬の副作用
  29.糖尿病治療薬の副作用
  30.抗リウマチ薬(DMARDs)の副作用

以下、60まで連載予定です。