【新連載】20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
サラゾスルファピリジン(サラゾピリン錠、アザルフィジンEN錠など)、メサラジン(ペンタサ錠など)、メサラジン外用(ペンタサ注腸など)
副作用モニター情報〈317〉 サラゾスルファピリジンによる副作用
サラゾスルファピリジンは、5-アミノサリチル酸とスルファピリジンをアゾ結合させた化合物で、日本では1969年から普通錠製剤の「サラゾピリン錠」が潰瘍性大腸炎の治療に使われてきました。1995年からは、消化器系症状を軽減するために腸溶性製剤に加工した「アザルフィジンEN錠」が、関節リウマチの治療剤として発売されました。
2000年から2015年末までに当モニターに報告された副作用件数の総合計は156件、2016年7月まででは合計で168件と増加傾向です。内訳は、発疹が58件と圧倒的に多く、薬剤性肝障害17件、痒み11件、発熱6件、食欲不振5件、の順に多く、以下、白血球減少、舌炎、薬剤過敏症症候群、間質性肺炎、下痢、顔の浮腫が各3件、吐き気、味覚障害や貧血、脱毛なども各2件報告があるだけでなく、これらに類する報告もいくつかあるため、総じて、口腔、消化器系、血液系の障害が起こりやすい薬剤ということができるでしょう。
関節リウマチの治療に汎用されるようになってから使用量が急速に増え、それに伴い、副作用報告件数も増加していると思われます。そして、副作用被害救済への申請に至った症例もあります。
対象疾患が感染症とかけ離れているため、サルファ剤という認識に至らないかもしれません。そういう意味では常に監視の必要な薬剤のひとつであると、常に意識しておきましょう。
以下、副作用モニターで紹介された記事を振り返ってみます。
2008年度から2009年7月までの当副作用モニターに、腸溶性製剤による副作用12件と普通錠による副作用1件の計13件が報告されています。内訳は、滲出性紅班・発疹などの過敏症が5件、薬剤性肝障害が3件、血小板減少など血液障害が2件、口内炎等を含む消化器症状が3件、SLE(全身性エリテマトーデス)様症状が1件(重複あり)でした。特に肝機能や血液障害の5件の中には、重症度の高い症例が4件ありました。
症例1)70歳代前半の男性。アザルフィジン開始後3週目の血液検査で血小板減少(2.1万個/μl)、5週目の血液検査で肝機能異常(AST100~500単位だが詳細不明)が発見されました。もし、投与2週間目に検査が実施されていたら、重篤化を防げたかもしれません。
症例2)70歳代前半女性。もともと食欲不振でエンシュア・リキッド服用中。アザルフィジンが投与開始日に30日分で処方され、5日後に、下痢、胃もたれ、食欲不振の消化器症状が生じ、自己判断で中止していました。中止により改善しています。
本剤はサルファ剤なので、皮膚粘膜障害、血液障害、肝障害に注意が必要です。腸溶剤の添付文書には、投与前に血液学的検査と肝機能・腎機能の検査を実施すること、また、投与後3ヶ月までは2週間に1回、投与後6ヶ月目までは4週間に1回、6ヶ月以降は3ヶ月ごとに1回の血液学的検査と肝機能検査、および定期的な腎機能検査の実施が「重要な基本的注意」として記載されています。使用にあたっては、定められた検査をきちんと実施することや、初回処方は14日以内にすることを、あらためて確認することが必要です。なお、普通錠の添付文書には「定期的な検査の実施」との記載しかありませんが、腸溶錠と同様の対処が望まれます。
(民医連新聞 第1459号 2009年9月7日)
副作用モニター情報〈344〉 ペンタサ(メサラジン)による薬剤性肺障害
メサラジンは、サラゾスルファピリジンの活性部分だけを製剤化した、クローン病および潰瘍性大腸炎治療剤です。胃から先の消化管で作用を発揮するため、錠剤は溶出性を工夫し、ペンタサ錠のように小腸で薬効成分が放出されるものから大腸で放出されるように設計された製剤(商品名アサコール)もありますが、副作用では大きな違いはなく、2016年7月時点で併せて30件の報告がよせられています。薬剤性肝障害、薬剤性肺障害、皮疹が各3件、白血球減少、汎血球減少、脱毛、心内膜炎、頭痛が2件、発熱、関節痛などが1件ずつとなっています。
ペンタサによる薬剤性肺障害
症例)40代男性。潰瘍性大腸炎と診断されペンタサ錠を開始、その後、ペンタサ注腸も追加。ペンタサ錠の開始から17日後、発熱と咳が発現。50日後、好酸球性肺炎と診断され入院。CTを施行したところ、両側の胸膜直下に非区域性の所見があり、縦隔小リンパ節腫大が見られたので、薬剤性肺炎を疑いペンタサを中止。このときの体温は38.2℃、CRP 9.41mg/dl、白血球数8640個/μl、好酸球7.0%。その後の気管支鏡検査で、好酸球性肺炎の所見はないが薬剤性肺障害に矛盾しない所見だった。治療はぜずに回復し、退院。リンパ球幼若化試験(LST)は陰性。
ペンタサは、潰瘍性大腸炎やクローン病の治療剤です。添付文書には重大な副作用として、好酸球性肺炎、肺胞炎、肺臓炎、間質性肺炎等の肺障害が記載されており、これらの過敏性肺障害の副作用の発現率は、錠剤で0.01%以上0.1%未満、注腸はその1/10となっています。市販後報告(1996年7月~2008年10月)で は、副作用2004件中、呼吸器系副作用167件(間質性肺疾患53件、好酸球性肺炎30件、肺炎23件など)となっています。
今回の症例は、症状が非特異的なため薬剤性を疑うのは難しいものでした。咳・発熱が続く場合は、薬の副作用である可能性も常に考えておく必要があるでしょう。
(民医連新聞 第1489号 2010年12月6日)
潰瘍性大腸炎に用いられる薬剤では、これらの他にはステロネマ注腸がありますが、ニキビの1例だけが副作用の可能性ありとして報告されているだけです。使用する機会が少ないので報告が少ないだけなのだと思いますが、ベタメタゾンの3.9mgという高用量投与になるので、全身作用には十分に気を付けて使用する必要がありそうです。
■画像提供 広島民医連 (株)ピーエムシー企画
http://www.pmc-kikaku.jp/about/index.html
**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。
今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載しています。
(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
21.抗甲状腺ホルモン薬の副作用
22.排尿障害治療薬の注意すべき副作用
23.産婦人科用剤の副作用
以下、60まで連載予定です。
★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf
◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/
◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html