【新連載 2024.04.10】11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
ベタネコール塩化物(ベサコリン散など)、ジスチグミン臭化物(ウブレチド錠など)、ドネペジル塩酸塩(アリセプト錠など)、ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール錠など)、リバスチグミン(イクセロンパッチなど)
コリン作動性薬剤と誤嚥性肺炎
副交感神経系を賦活させるコリン作動薬剤が原因と思われる誤嚥性肺炎の報告がありました。
症例)60代、男性
神経因性膀胱のため、5%ベタネコール散(商品名:ベサコリン)0.6g分3開始
投与11日目 0.6g→0.8gに増量
18日目 発熱あり。肺炎または排尿障害に伴う腎盂腎炎の可能性あり、セフトリアキソン注開始
21日目 高熱が続くためメロペネム注に変更→その後、いったん解熱
26日目 再度発熱。鼻水と咳あり
30日目 胸部XPで左肺炎の可能性あり。ベタネコール散によって気道分泌が亢進し、それを誤嚥したことで呼吸状態の悪化を引き起こしたかもしれない、と判断し、ベサコリン散中止
中止から5日目 胸部XPはほぼクリアになり解熱。その後は咳などの訴えなし
中止から10日目 抗生剤も中止となる
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コリン作動性薬剤は、ベタネコールなど泌尿器科で用いられるものだけでな く、アルツハイマー治療剤や消化器疾患治療剤など各分野で使用されています。それぞれの用途に応じて組織移行性や作用部位に選択性があると考えられますが、副交感神経系を賦活するため、気道分泌や消化液の分泌が促進される場合があります。
今回報告のあったベタネコールは低緊張性膀胱による排尿困難(尿閉)のほか、消化管の蠕動促進目的やクロルプロマジンやピペリデンなどの口渇に対しても使用される薬剤です。そのため、気道分泌が増加し、嚥下機能が不十分な患者では誤嚥性肺炎を誘発する可能性があります。
薬剤開始後痰の量が増える、発熱を繰り返す、などの症状が出てきた場合は誤嚥性肺炎の可能性を疑い中止か減量を考慮する必要があります。
また、ベタネコール以外のコリン作動性薬剤でも同様の副作用が発現する可能性があることを念頭に置くべきです。
(民医連新聞 第1555号 2013年9月2日)
ベサコリンによる薬剤性房室ブロック
薬剤性房室ブロックが起きた症例を紹介します。
症例)90代女性 体重28kg
神経因性膀胱に対してベサコリン45mg/日で内服継続中、発熱、徐脈の精査加療目的にて受診。CTで肺炎、心電図で完全房室ブロックを認め入院となった。ベサコリンによる薬剤性完全房室ブロックと診断され、入院日からベサコリン中止。その後、シロスタゾール100mg/日開始(適応外使用)。第1病日目では脈拍は40bpm台だったが、第5病日目には洞調律に復帰。その後も洞調律を維持し、第16病日目には脈拍は60bpm台で安定した。
房室ブロックとは、心房から心室への電気的な興奮伝導が部分的または完全に途絶する状態を指します。本症例のような完全房室ブロックは、心拍数が減少、より重度の場合は失神や心不全がみられることもあります。
原因が薬剤によるものである場合は、被疑薬の中止により改善します。薬剤の長期服用中にも発症することや自覚症状がないこともあるため、脈拍数の確認は有用な手がかりになります。特に高齢者は副作用が起こりやすく、コリンエステラーゼ阻害薬であるジスチグミンや認知症用剤(メマンチンを除く)を併用している場合は、ベサコリンの作用がより増強される可能性があるため、注意が必要です。
また、これら以外にも、抗不整脈・β遮断薬・カルシウム拮抗(きっこう)薬などでも房室ブロックが起こる場合があるため、留意しましょう。
(民医連新聞 第1792号 2023年10月2日)
ウブレチド錠(排尿障害治療剤)によるコリン作動性クリーゼの前駆症状
ウブレチドの用量は、発売当初、1日5~20mgとなっていましたが、2004年6月『 1日5mg 1錠から開始、発現が多い事から投与14日以内の厳重な観察、高齢者には慎重投与 』の追記など添付文書が改訂され、さらに、2010年3月には、排尿困難への使用量が5mgのみ適宜増減なしに変更され、警告の追加、使用上の注意にコリン作動性クリーゼ(初期症状として酷い下痢や吐き気、脈の低下などが起こり、更に進行すると気道が収縮して呼吸困難に陥る危険な副作用)。についても追記されました。
〔症例1〕70代女性。泌尿器科でウブレチド錠5mg2錠とエブランチル1錠が処方される。翌朝、服用後に意識消失し入院。エブランチルによる血圧低下の疑いでエブランチル中止、ウブレチドは継続し退院する。服用5日目の朝食後、腹痛がありトイレに行った際に再度意識消失、救急搬送される。この時血圧が200前後。ウブレチドの副作用が疑われ、ウブレチド中止。その後は症状の発現なし。
〔症例2〕60代女性。残尿感を訴え、ウブレチド錠5mg2錠(1日2回、朝夕食後)を処方される。服用2日目、水様便が発現し、排便回数7回。自己判断で服用中止。3日後に症状消失。
〔症例3〕70代男性 入院中(入院目的不明)尿閉のためウブテック(現:臭化ジスチグミン5mg1錠処方開始。2日後泥状便のためマグミット中止。泥状便続き4日目には水様便に。6日目軽度縮瞳みられChE109 コリン作動性クリーゼを疑いウブテック中止。翌日には下痢改善
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当モニターに報告のあった臭化ジスチグミンによるコリン作動性クリーゼの前駆症状が疑われる副作用は、2010年3月の、排尿困難での用量変更に関する添付文書改訂前10件、改訂後29件の計39件でした。(2016年12月時点)
症状としては、下痢26件が最も多く、コリンエステラーゼ低下、嘔気各4件、発汗、腹痛、嘔吐、各3件、ふらつき、呼吸困難 各2件、徐脈、脱力、唾液過多 各1件でした。用量と症状に相関性はみられませんでした。
年代別では、50代2例(いずれも10mg)、60代7例、70代14例、80代11例、90代3例、不明1例となっており、高齢者でより注意が必要とも考えられます。
改訂以前は1例以外、発現時の服用量は10mgで、5mgで服用開始し10mgへ増量後症状発現したものや初めから10mgで服用していて症状発現したものもありました。改訂後は全ての症例で5mgの服用となっており、5mgでも発現する可能性があるので注意が必要です。
発現期間は、すぐ~1日以内10件、数日(2~4日)10件、約1週間4件、2~3週間2件、2~3ヶ月3件、14ヶ月1件、不明14件(5ヶ月以内7件、7日以内1件、全く不明6件)と比較的早期に発現していますが14ヶ月目に発現している例もあるため長期服用後にも注意が必要です。
重篤度に関しては、grade1 32件、grade2 5件、grade3 1件とほとんどがgrade1でした。
臭化ジスチグミンは、強力なコリンエステラーゼ阻害剤です。コリン作動性クリーゼの初期症状は『 下痢、腹痛、縮瞳、呼吸困難、発汗、唾液分泌過多、徐脈 』などです。発現後は、ただちに投与を中止し、『 縮瞳、線維束攣縮、意識障害、呼吸不全、痙攣 』等の症状の有無によって拮抗薬のアトロピン硫酸塩水和物の投与や重篤な場合には人工呼吸を要する場合もあります。 患者への前駆症状や、発現時にはすぐに受診することの指導、毎回の前駆症状の聞き取りなどが重要となります。
コリンエステラーゼ阻害作用をもつ薬剤による認知機能低下症治療薬の副作用
ドネペジル塩酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩、リバスチグミンは、アルツハイマー型認知機能低下症における神経細胞の脱落に伴って生じる脳内のアセチルコリン減少を補うコリンエステラーゼ阻害作用のある抗認知症薬です。
アセチルコリンによる悪心、嘔吐、食欲低下などの副作用が発現することがあるため、少量から服用開始し、効果の出る維持量まで徐々に増量していき、必要に応じて制吐剤などを併用しながら継続していきます。
これらの薬の中で発売時期が最も早く、使用患者が最も多いと思われるのはドネペジルで、ガランタミン、リバスチグミンはほぼ同時期に発売されていますが、リバスチグミンは貼付剤となっています。
当モニターに過去2年間に報告されたドネペジルによる副作用は12例。年代別では50代1例、70代1例、80代9例、90代2例でした。症状発現時の服用量は3mg 7例、5mg 5例、増量に伴い症状発現した例もありますが、初期用量の3mgでも約6割が症状発現しているので初期より注意が必要です。
症状としては、消化器症状(食欲低下、胃部不快感等)、循環器系の症状(動悸、血圧上昇等)、精神系(易怒性、頭痛、めまい等)などでした。
同効薬のガランタミンによる副作用は3件。年代別にみると、70代1例、80代2例でした。症状としては精神神経系(幻視、パニックなど)で、ドネペジルでみられた消化器系や循環器系の副作用はみられませんでした。
リバスチグミンでは、5例の報告(すべて80代)がありました。症状は精神神経系(めまい、歩行異常、コリンエステラーゼ阻害剤中毒)3件、薬剤性肝機能障害2件でした。
精神神経系の症状は認知機能低下症自体の症状と判別がつきにくい場合もありますが、自殺企図や自殺念慮、攻撃性等など時に危険な症状でもあるため慎重に投与すべきと思われます。認知機能低下患者では、自分で自覚できない場合もあるため、ご家族への指導が重要となります。
画像提供 東京民医連 外苑企画商事 http://www.gaiki.net/
**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。
今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。
(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗けいれん薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用(本稿)
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
以下、57まで連載予定です。
★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf
◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/
◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html
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