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民医連新聞

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被爆80年 「ケアの倫理」を深め未来を切りひらこう

 全日本民医連は2月15~16日、東京都内で第46期第2回評議員会を開きました。評議員83人(予備評議員含む)と四役理事、会計監査、傍聴者など、計173人が参加。第46回総会から1年、次期への折り返しにあたり、目まぐるしい情勢認識を共有し、経営危機の打開や、ケアの倫理を深めるとりくみ、オール地域でいのち・人権・暮らしを守るたたかい、医師増員、医学生担当者の困難課題などを議論しました。
(丸山いぶき記者)

第2回評議員会ひらく

 開会に先立ち、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員、田中熙巳(てるみ)さんが講演しました。田中さんは、日本被団協の歩みや授賞式のスピーチに込めた思いについて、式の裏側の様子も交えて紹介しました(後日録画を配信予定)
 開会あいさつは、上原昌義副会長。増田剛会長は国内外の「激動」の情勢に触れ、格差がひろがり国民の暮らしが圧迫され続けるなか、その原因の軍拡や富裕層優遇政策ではなく、「社会的弱者」支援へ批判の矛先が向けられる現状を指摘。今期の運動方針の肝は「人間の尊厳を守る」ことであり、「ケアの倫理」を深め、政治・社会を転換させる実践を呼びかけました。また方針案第3章冒頭のリードの意義を強調。「個々の経営とユニバーサル・ヘルス・カバレッジを守る大同団結で、夏の参院選挙に臨む」と決意をのべました。
 理事会からの報告を行った岸本啓介事務局長は、「被爆80年の民医連の決意と具体的な行動を」と呼びかけました。続いて情勢を補強し、総選挙結果で切りひらいた今国会での前向きの変化や、ゆがんだ日米関係、大軍拡・社会保障切りすての2025年度予算案、倒産や生活苦のひろがり、能登半島地震・豪雨災害の復旧・復興の遅れに言及。高額療養費制度の改悪阻止などのため、2月25日と3月26日、緊急の国会要請行動を提起。「民医連全組織をあげ、現状を乗り越え、未来を切りひらこう」とのべました。
 続く討論の後、第2回評議員会方針案、2024年度決算・会計監査、2025年度予算を満場一致で決定。大島民旗副会長が閉会あいさつをし、参加者全員の団結ガンバローで締めくくりました。

78の発言で活発に討論

 討論では55の発言と、23の文書発言がありました。うち、経営と医学生対策は、フリー討論(計8発言)も行いました。
 石川・中内義幸評議員は能登半島地震から1年、石川民医連の活動を報告。交流集会や全職員研修会を通じて支援活動を全職員のものとするとりくみや、行政が被災者支援を縮小し始めている現状を示し、「すべての人が復興を果たせるよう、息長く支援する」とのべました。
 宮城・舩山由有子評議員は、国連女性差別撤廃委員会の日本政府への勧告と関連し、第10回産婦人科医師交流会で行った女性の人権と差別の現実の学習会を報告。性風俗で働く当事者の声にならない声を聞く難しさを学び、講演録画を「特に男性に聞いてほしい」と訴えました。
 茨城・加賀美哲也評議員は、同県で始まった、大病院に救急搬送され軽症だった場合の選定療養費徴収制度について報告。同県連は1月28日、他団体とともに県と懇談。手遅れにつながりかねず、「中止を求める立場で注視し、活動を強める」とのべました。
 兵庫・松永俊一評議員は、尼崎医療生協病院が2025年度初期研修医募集定員をゼロにされた問題での、同県連のたたかいを報告。大病院偏重の定員配置、不透明な検討のあり方を指摘し、他県にも「波及することが危惧される」と、医師臨床研修制度を守るたたかいへの支援を呼びかけました。

時代を切りひらく実践を

第2回評議員会の発言から

平和の実現をめざして

 沖縄・比嘉勉評議員は辺野古新基地建設について発言。大浦湾の海底にひろがる軟弱地盤の改良に向けて防衛省は1月29日、砂杭を打ち込む工事を始めましたが、最深部70メートルまでの計画。70メートル以上の工事は前例がなく、軟弱地盤は最深部で90メートルに達しますが、政府は「70メートル以上は工事しなくても安定性が確保できる」と主張しています。
 比嘉さんは昨年8月下旬から始まった地盤の固いA護岸での杭打ち工事にも言及。3年10カ月で1000本の予定が、昨年11月末までで29本。しかし総事業費9300億円中、5319億円を費やしています。比嘉さんは沖縄県民の民意に背く国の姿勢を批判するとともに、くり返される性暴力事件にも触れ、日米地位協定の改定、米軍基地の撤去を訴えました。
 香川・大西和子評議員は、高松平和病院前に立てた憲法9条の碑を紹介。昨年12月8日、60人の参加で除幕式を行いました。「憲法9条の碑プロジェクト」で、100万円を目標に寄付を募り、目標を超過達成。民主団体や香川医療生協の組合員、職員、その他の個人から寄付が寄せられ、寄付のためにバザーを行った団体もありました。碑の裏には寄付をした団体、個人の名を刻みましたが、「名前は出さなくてもいいからカンパだけ」という人も。平和への願いがこもった碑となりました。

環境を守るたたかい

 新潟・坂下弘評議員は、政府と東京電力がねらう柏崎刈羽原発の再稼働の是非について、「県民が決めよう」と始めた、県民投票条例の制定を求める県知事あての署名運動について報告。この署名は「原発をなくす新潟県連絡会」の一員として昨年11月に始めたものです。署名を集める人は「受任者」として事前に決めなければならず、署名する人は受任者と同じ市区町村でなければならないなど制約が多いため、学習動画やマニュアルも作成。他団体含め、県全体では15万筆が集まりました。今後、臨時県議会で審議される予定です。
 大阪・近藤聡評議員は、PFASによる環境汚染問題に対するとりくみを話しました。
 昨年8月11日、1190人の血液検査の結果を公表。3割以上がアメリカで「特別の健康精査を要する」とされる20ng/ml超の結果でした。大阪PFAS汚染と健康を考える会は問題をひろく知らせようと、学習会を150回以上実施。市民講座として10月、実際のPFAS汚染が題材の映画「ダークウォーターズ」の上映会を開催。12月には「モヤモヤを出し合う座談会」。現在はPFAS問題を報じたテレビ番組を題材に同様の座談会を行っています。

患者の権利を守るために

 北海道・野村充代評議員は、長期収載医薬品の選定療養費制度について発言しました。同制度は、昨年10月から実施され、後発品がある長期収載医薬品(先発品)がある場合、先発品を処方する際は、差額の4分の1相当を保険から外すもの。「医療上の必要」があれば対象外となる例もありますが、味の違いなど薬剤の使用感などは認められず、乳幼児など服用困難な例の報告もあります。保険薬局では選定療養の説明など業務負担が増加し、患者の待ち時間が伸びるなどの影響も。野村さんは長期収載医薬品の選定療養の撤回、選定療養の拡大を阻止する運動の重要性を訴えました。
 岡山・冨家朱代評議員は、熱中症・脱水症患者のエアコン設置実態調査と要請行動について報告。
 昨年、猛暑で、岡山協立病院でも熱中症や脱水症で入院する患者が増加傾向にありました。「患者29人を対象とした実態調査で、エアコンなしが7人、そのうち6人が生活保護利用者」と冨家さん。健康被害の増加を懸念し、岡山医療生協は岡山市に、すべての生活保護利用者のエアコン設置費用の支援などを求める要望書を提出しました。
 宮城・大内誠評議員は、第1回評議員会で提起された、マイナ保険証強要と健康保険証廃止ストップの大運動を受けて「マイナ保険証なんでも無料電話相談」を行ったことを紹介。県内テレビ局4社とNHKが全国放送したこともあり、106件の相談が。「マイナ保険証にした方がよいか」「資格確認書が欲しい」「施設からマイナ保険証は預かれないと言われた」などの声が寄せられました。

医師増員・養成の課題

 長野・佐野達夫評議員は、医師増員を求める請願署名のとりくみについて報告しました。医師増員の署名とともに、診療報酬再改定と財政支援を求める署名を民医連外の病院に手紙を添えて郵送し、訪問して医師に署名をお願いしました。団体署名は35の病院、18の診療所から寄せてもらうことができました。県内、地域の医師が集まる機会があれば、署名への協力を訴えてきました。佐野さんは「県健康福祉課と懇談し、県から『真摯に受け止めたい。国に診療報酬引き上げを要望する』との回答をひきだした」ことも紹介しました。
 千葉・宮原重佳評議員は、共同組織とともに医学対活動にとりくむことで、医学対活動の幅がひろがった経験を紹介しました。
 宮原さんは「医学生と看護学生と高校生が、そば打ちサークルに参加。学生の感想から、地域にささえられて、民医連の医療・介護活動があることを実感できたことがわかった」と語りました。
 共同組織の協力を得ることで、学生が地域の実情や民医連を知り、医師像を深める機会に。医学生担当者が他部署と協力することで、活動の幅もひろがります。宮原さんは「組織をあげて医学対活動をアップデートするのが課題」と話しました。

経営危機に立ち向かう

 北海道・黒川聰則評議員は、北海道民医連の経営危機対策について発言。県連内6医科法人中4法人が債務超過と厳しさが増すなか、全日本民医連へ指導・援助を要請。北海道勤医協経営検討会で、2024年度内の資金ショートの可能性、組織運営上の弱点や県連機能の課題を指摘されました。高人件費構造で深刻な赤字や予算未達成慣れ、地域や全国の仲間の支援で乗り越えてきた経験からくる甘え、意思統一の不十分さなど、各法人共通の問題を認識できました。「人権の砦(とりで)としての民医連の事業所の再建に全職員でとりくんでいく」と決意をのべました。
 山梨・渡邊健一評議員は、訪問介護報酬引き下げ撤回運動と全職員参加の経営活動を発言。前者では自治体に国へ意見書の提出を求める請願活動を行っています。昨年12月の甲府市議会で自民党議員などが賛成し、賛成多数で採択。介護福祉士会、認知症の人と家族の会も請願者として参加しました。174カ所に賛同団体を呼びかけると、42事業所が賛同署名を寄せました(2月4日現在)。
 2025年度の予算作成では、必要利益を超えた目標利益の設定と拠点ごとの必要利益を明確に。「民医連綱領を軸に、地域に必要とされる、選ばれる事業所へとまい進したい」とのべました。
 兵庫・大澤芳清評議員は「民医連的経営再建にとりくんで」をテーマに発言。尼崎医療生協病院は2015年以降、数回、償却前利益でマイナス。しかし2019年、償却前利益で銀行返済額を下回り、資金ショートする事態になり、近畿地協経営委員会に経営検討会開催を依頼。事業所の資源を100%活用するため、時間外受診を断らない「お断りしません宣言」をしました。全職員集会を20回開き、経営状態を伝え、ベッドの100%活用、経営困難打開を訴えました。病病連携、病診連携、介護連携で、新規患者が増加し、診療報酬改定前よりも収益増加に成功しています。
 福岡・佐賀・吉野興一郎評議員は、県連での「オール地域のたたかい」の到達について発言。県内451病院への病院経営状況アンケートを実施し、72病院(16%)から返答があり、病院の切実な経営状況が見えてきました。昨年12月の北九州市議会に「医療機関の事業と経営維持のための財政支援措置を求める意見書」(財務大臣・厚労大臣あて)を提出し、自民党・公明党も含めた賛成多数で可決。民医連外の2病院を含む5病院の理事長・院長の連名で団体署名のとりくみを開始し、4500医療機関へ団体署名のお願いを発送。1月末現在で県内586医療機関から賛同がありました。

地域とともに

 岐阜・松井一樹評議員は診療所歯科の新規開設を報告。民医連全体で129番目の歯科です。
 岐阜勤医協では、2002年の法人第4次長期計画から歯科開設を展望していましたが、実現せず。そこに2021年、他県から民医連歯科の経験がある歯科医師の紹介が。みどり病院の患者回診をしてもらいながら、歯科医療活動の政策と展望を作成。地域では歯科医師の高齢化で閉院するところもあり、歯科診療の要望が多く、外来と往診の両方で力を入れています。
 栃木・関口真紀評議員は、ケアの倫理を地域の実践から学ぶ重要性を発言。特にケアにかかわる機会が少ない医事課職員には「実感が伴わないのでは」と問いかけ、同県連の学術運動交流集会で「ケアの倫理の理解につながる多くの言葉があった」と紹介しました。グリーフケアを発表した医事課職員は「人を援助することで自分も援助される」と発言。他の医事課職員は、気になる患者カンファレンス、グリーフカフェ、まちの保健室などに参加し、困難を抱えた患者への理解も深め、「家族のような存在の診療所。その出入り口にあたる医事課で業務の範囲だけではないつながりができることは素晴らしい」と発表しました。このような活動を耳にした青年医師が、4月から常勤医師として勤務することに。関口さんは全職員による「ケアの実践」は医師対策にも有効と話しました。
 埼玉・宮岡啓介評議員は「くまがやごちゃまぜの会」のとりくみについて発言。「ごちゃまぜの会」にとりくむ元県立大学教授から「熊谷市でも」と声がかかり、2月1日に第1回を開き、50人が参加しました。「ごちゃまぜ」とは高齢者、障害者、子育て世帯、若者など多様な人びとがごちゃまぜで暮らし、活動を推進する意味。子ども食堂を通して学習支援を行う団体や、障害児者の家族会を運営するNPO、青年会議所などが活動紹介。熊谷生協病院も在宅医療センターの活動を紹介しました。今後3カ月に1回開く予定です。

(民医連新聞 第1824号 2025年3月3日号)

 

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