気持ちあげる力になる 医療にメイクセラピーを 岡山協立病院
メイクセラピーは、カウセリングを用いて、本当のなりたい私に出会い、その私をメイクで表現していくこと。岡山協立病院でのとりくみを取材しました。
(長野典右記者)
「チークはニッと笑ったところの少し上に」と参加者に伝える講師の菅野由起さん(事務)。健康づくりセンター大野辻では、毎月、メイクセラピーを幅ひろく知ってもらうためのメイクセラピーセミナーを、さまざまなテーマで開催しています。今月のテーマは「時間がなくても大丈夫。簡単おでかけメイク」。参加者に「自分にとって心地よいメイク」を考えてもらいながら、おでかけメイクのポイントも加えつつ、メイクで変わる印象を伝える菅野さんの話に、参加者はひきこまれていきます。
「前に出てダメだしされても心が折れない人」という菅野さんのユニークな呼びかけに、この日モデルになったのは遠藤陵子さん。メイクで少しずつ変わる遠藤さんに参加者もくぎづけに。遠藤さんは「ちょっとしたことでこんなに変われるなんて。メイクをしてもらったことで元気が湧いてきて、明るい気持ちになった」と笑顔があふれます。中田登美子さんは「以前の私は、気分がふさぎがちだったが、このセミナーに参加して、気持ちが前向きになる自分に気づけた。参加者同士でほめあうことで、自分では気づかないところをほめてもらえてうれしかった」と語ります。セミナー終了後は、生き生きした明るい表情の参加者の姿が見られました。
メイクセラピーとの出会い
菅野さんは2020年にがんと告知され、抗がん剤治療を始めました。どんどんすすんでいく治療とは反対に、気持ちはどんどん下がっていきました。「以前の自分に戻れるのだろうか」。体調の悪さと不安な気持ちから、自分の明るい将来など想像もできなくなっていました。「背負うものが重すぎる。治療も副作用も仕方ないが、自分の力で乗り越えられる人ばかりではない」と感じていました。
これからの医療には「自分らしくいられるメンタルを養ってくれるもの、自分の気持ちを自分で応援できるものが必要だ」と強く感じるようになっていました。治療中でも病気の陰に隠れず、自分らしくいられることで、治療の質が違ってくると感じたからです。
治療を終える頃、友人の紹介でメイクセラピーの存在を知りました。メイクセラピーを学ぶにつれて、メイクセラピーは気持ちをあげられる手段の一つになり、治療の質の向上につながるという思いを強くしました。
ひろがる活動
「岡山医療生協70周年イベント」で「あなたの夢叶えますプロジェクト」の募集があり、「メイクセラピーを医療現場で行いたい」と思っていた菅野さんは、小説なみに思いを書き提出した結果、2022年夢プロジェクトに採用。2023年に法人内でメイクセラピープロジェクトを立ち上げました。
本来、メイクセラピーは一対一で行うものですが、一度にたくさんの人に届けられるように、メイクセラピーセミナーという形で活動しています。
他にも各地の班会でセミナーを行い、メイクセラピーを紹介。最近では法人外からも依頼がくるようになりました。職員や医療生協組合員も参加する、月1回のメイクセラピープロジェクト委員会では、活動報告や今後の計画の情報共有をしています。
人生変えるメイク
「メイクは年齢や性別、状況にかかわらず、どんな時も気持ちをあげてくれる力を持っている。医療とつながる日が来ることを願い、メイクセラピーを届ける活動を続けたい」と菅野さん。
同医療生協常任理事の川崎順子さんは「菅野さん以外にもメイクセラピーを伝えられる仲間を増やし、メイクセラピーの認知度を上げていきたい」と言います。
また「夢プロジェクト企画」からともに活動している、大平由香利さん(事務)は「健康を幅ひろく捉える民医連らしさを感じている。今後もサポートしていきたい」と言います。
菅野さんは「プライマリ・ケア学会にも応募して、活動の域をさらにひろげていきたい」と抱負を語りました。
「メイクは人生を変えますよ」と語る菅野さんの笑顔が印象的でした。
(民医連新聞 第1824号 2025年3月3日号)
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