連載 いまそこにあるケア 当事者主導のヤングケアラー支援 第22回 文:斎藤真緒
イギリスが世界的にヤングケアラー・ケアラー支援をリードしてきた背景には、ケアラー自身による運動があります。1963年、同国で最初のケアラー組織「独身女性と要介護者のための全国組織」が誕生しました。シングルの女性が親の介護を担うことで、仕事との両立が困難になるという課題から出発したこの運動は、のちに全国団体のケアラーズUKへと発展します。ケアラーズUKは現在、ケアラーへの情報提供・相談、専門職への情報提供や研修など、幅ひろい活動を行いながら、ケアラーの声を社会に発信しています。全国組織のほか、各地域に、300以上のヤングケアラー支援団体があり、地域の特性に応じた活動を展開しています。
私たちの子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクトが2022年に視察したシェフィールドヤングケアラーズ(以下、SYC)では、最初の半年で1対1の面接をくり返し、ヤングケアラー自身が大切にしたいことをいっしょに考える時間を大事にしています。また、ヤングケアラーの家庭では、親自身が社会から孤立していることが多いため、子どもたちに必要な支援を届けることを目的に、親・家族向けのプログラムを重視しています。SYCでは、最初に家庭訪問を行い、親との信頼関係の構築に努めるとともに、定期的に親向けプログラムを実施し、親自身が社会との接点をもち、自己実現できるようにサポートしています。
イギリスでは、2015年から「ヤングケアラーアクションデー」というとりくみを毎年3月に行っています。「私たちのことを抜きに私たちのことを決めないで」という障害者運動の有名なスローガンにもとづき、ヤングケアラー固有の課題を社会に提起します。
2025年のアクションデー(3月12日)のテーマは「私に休息をGive me a break」です。当事者を調査した研究では、学業との両立困難、高等教育への進学にかかわる障壁、友人と過ごす時間への影響などが指摘されています。アクションデーでは、ヤングケアラー自身が自分たちのケア経験を投稿し、発信しています。多様なケア経験を知ることで、専門職や政治家だけではなく、市民が自分事として問題を捉える機会となっています。当事者の声にていねいに耳を傾けるとりくみは、支援者の独善的な支援を避ける上でも大切なステップとなるでしょう。
さいとう・まお:立命館大学産業社会学部教授/子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト発起人
(民医連新聞 第1824号 2025年3月3日号)
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