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民医連新聞

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相談室日誌 連載576 ほど遠い地域共生社会 孤立した高齢者の支援を(福井)

 当院は全床地域包括ケア病床で、在宅復帰や施設入所などの退院支援を行っています。以前より生活保護利用者や身寄りのない患者の受け入れも行っており、その相談ケースを一部紹介します。
 ケース(1) 水道料金未納により水道供給を停止され、その数日後に水道局から市役所に緊急要請あり、市役所職員と当法人クリニックが往診対応し、入院。
 ケース(2) 家賃滞納で追い出され、住所不定で他人所有の木造小屋で生活しているところを疎遠だった家族に発見され、家族が市役所に相談したところ当院に紹介があり、入院。
 ケース(3) 生活保護費を受け取りに来ないため、市役所職員が警察に介入を依頼し、自宅で倒れているところを発見、入院。
 ケース(4) 真冬に上半身裸で路頭をさまよっているところを通行人により通報され、入院。
 ケース(1)(2)は家族と疎遠の関係であり、協力に拒否的でしたが必要最低限の協力を依頼し、施設入所につなげることができました。ケース(3)(4)は身寄りのない人だったため、成年後見制度を利用し、施設入所で調整を行いました。必要な手続きのため、法人車を使用して本人とSWで銀行や自宅などを訪問しました。これらのケースで共通することは、本人からつながっている連絡先を一つも確認できなかったことです。
 厚生労働省はひとり暮らしの高齢者は今後も増加し、2050年には約4割に到達するとの見通しを示しています。これを受けて医療分野では「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を作成し、介護分野では身元保証など高齢者サポート事業などもすすめていますが、財力によっては利用できない高齢者もいると思います。
 地域から孤立した高齢者は生活破たんしたあとに発見されることが多く、支援が遅れる要因になっています。かつて日本は住民同士が密接な人間関係を有する社会であり、現在、国はその時代をめざして地域共生社会を提唱していますが、今回の事例で知る限り、その実現はほど遠いと感じています。

(民医連新聞 第1823号 2025年2月17日号)

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