連載 いまそこにあるケア イギリスにおけるヤングケアラー支援 第21回 文:斎藤真緒
イギリスは、ヤングケアラー支援先進国で知られています。イギリスでは、ヤングケアラーは「他人のためにケアを提供している、または提供しようとしている18歳未満の者。ただし、ケアが契約に基づく場合、ボランティア活動として行われる場合は除く」(「2014年子どもと家庭に関する法律」)と規定されています。ヤングケアラーは自分の状況を客観的に捉えることが難しいため、ヤングケアラーおよびその家族を発見し、支援につなげることが、地方自治体の責任として確認されています。また、ヤングケアラー個人のニーズだけではなく、要支援者のニーズを含めた「家族全体への支援WholeFamilyApproach」も明記されています。家族全員が、安心して支援にアクセスできるような環境整備のために、家族構成員それぞれのニーズを可視化し、調整することに支援者の役割があると考えられています。
イギリスのヤングケアラー支援を理解する上で重要な点は、同国が、全世代のケアラー支援の先進国であるということです。1995年には、「ケアラー(認定およびサービス)法」が制定されました。
イギリスでは、ケアプランを立てる際に、利用者のニーズアセスメントだけではなく、ケアラーに対するニーズアセスメントを行い、ケアラーの生活設計を視野に入れたサービスの提供が検討されます。これはケアラーに保障されている独自の権利で、利用者がアセスメントやサービスの利用を拒否している場合でも、ニーズアセスメントを請求できます。ケア役割が、他の活動を圧迫しないこと、特に仕事との両立(転職や再就職、職業訓練など)に重点が置かれています。ケアと仕事の両立は、家族の経済的安定という観点だけでなく、ケアから離れる時間や人間関係の保障による精神的健康という観点からも重要だと考えられています。
イギリスには、ケアラーへの支援が要支援者に高い質の支援を提供する「最良の方法」であるという考えが根づいています。イギリスのヤングケアラー支援の合言葉は「Nowrongdoors(間違ったドアはない)」です。どのドアをたたいても、家族全体が支援につながる仕組みをつくるという強い決意が込められています。家族全体のエンパワーメントという視点は、日本でのヤングケアラー、ケアラー支援のヒントになるのではないでしょうか。
さいとう・まお:立命館大学産業社会学部教授/子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト発起人
(民医連新聞 第1823号 2025年2月17日号)
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