相談室日誌 連載575 認知機能低下のがん患者 意思をくみとる支援とは(東京)
Aさんは70代後半の男性。独居で、生活保護を利用していました。生活費を競馬に使ってしまい、スーパーで食品の窃盗をして警察の留置施設へ。そこで体調不良の訴えがあり、急性心筋梗塞で前医へ救急搬送。搬送先で救命はできましたが低酸素脳症、CT上で進行性の胃がんも見つかりました。認知機能から判断能力なし、身寄りもないため本人に胃がんを告知せず、精査と治療はしないことに。当院に、退院先の調整目的で転院となりました。
転院直後は車いすに軽介助で離床可能。HDS―R5点で声かけには反応が乏しく、自分の名前が言える程度。食事はムース食から開始し、全量摂取可能。退院先は生活保護課が有料老人ホームの調整をすすめているところでした。関係機関と病状を共有し、予後予測は月単位。仮に本人が治療を希望しても根治は困難というのが主治医の判断でした。
入院後、ADLや認知機能が向上し、歩行器歩行が見守りで可能に。Aさんから入院理由を知りたいと希望もあり、主治医から予後も含め告知しDNARも確認。治療の希望はありませんでしたが、DNARはどこまで理解できたかはあいまいでした。
不明瞭な部分が多いことに変わりませんが、出生地をB県C市まで答え、試しにタブレット端末で出生地近辺の様子や古い駅舎の写真を見せると目を見開いて凝視。「覚えていますか」とたずねると、何度かうなずきました。窃盗した理由は、生活に必要なことだったから。これまでも金銭に困ると窃盗をくり返していたと。
有料老人ホームはがん末期の対応が可能な施設に決定。Aさんから「にぎやかなところがいい」「(施設入所で)お願いしたい」と意向を伝えられる場面も。入所後、施設職員からの連絡で、何かあったら救急車を呼んでほしいと、自身の意思を伝えられるほどに元気になっているそうです。
本人の意思確認が難しい場合、つい支援者主導になってしまいます。しかし、認知機能低下があっても本人に意向がないわけではありません。単純に施設入所へつなげることは簡単ですが、どうやったら本人の意思をくめるのか、模索することがソーシャルワーカーの支援であると思います。
(民医連新聞 第1822号 2025年2月3日号)
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