相談室日誌 連載574 成熟した社会をめざす行動 共感する他者としての役割(神奈川)
Aさんは某空港で接客業に就いていました。2020年のCOVID‐19の流行で、五輪前夜のインバウンド景気で沸いた空港は一転。非正規で働くAさんの仕事は奪われ、治療費が捻出できず、既往のぜんそくに苦しみ、職に就けず、家賃は滞り、住居を失いました。生活保護窓口では水際作戦を受け、その後某動画共有プラットフォームで支援団体を知り、生活保護を利用、居住設定ができました。しかし遠方の職業訓練校とアルバイトの二重生活となり、遅い終業はAさんの足をネットカフェへ向けます。生活保護は失踪廃止。ネットカフェで過ごすようになりました。Aさんは簡単なやり取りは数カ国語で話せ、さまざまな国につながりをもつ人が多くいるB市での接客を始めました。しかし、日雇いアプリを通じて働いているため社会保険から排除され、住民票の抹消で国民健康保険も資格喪失。ぜんそくの症状は徐々に悪化し、路上で発作を起こし救急搬送。入院の必要があり、収容地で生活保護の申請をしました。賃貸物件の調整を試みましたが、失踪廃止の前歴で認められませんでした。
B市では簡易宿泊所火災事件以降、帰住先のないケースは自立支援センターの利用を経て、賃貸物件などの居所を調整することが多くなっています。自立支援センターでは集団生活で、窮屈を強いられるため、行方不明になる人も少なくありません。Aさんも「ネカフェの方がまだ自由で設備もいい」と訴えましたが、住まいではないネットカフェでの保護継続はできません。SWも、通院の継続が必要だと、賃貸物件の頭金の用意ができるまで自立支援センターで暮らすように促しました。退院したAさんでしたが、結局福祉事務所に現れずネットカフェに戻ったようです。
脆弱(ぜいじゃく)な就労状態を許容する法、予算内の公的扶助、幸福不追求、便利そうな電子アプリ、ヘルスリテラシー…。社会にある疎外、孤立が、心理的・身体的健康状態に影響を与え、私たちの前に現れます。現状では、既存資源を最大限活用し切るほかありません。私たちは「共感する他者」として、傷つきやすい人間と顔を突き合わせ続けなくてはなりません。成熟した社会をめざす行動とともに。
(民医連新聞 第1821号 2025年1月20日号)
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