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民医連新聞

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市民と野党の共闘で 軍拡・改憲ゆるさずアジアに平和を 一橋大学名誉教授 渡辺治さん講演より

 全日本民医連「憲法まもりたい! 民医連ネットワーク」は昨年12月14日、憲法学習会を開き、一橋大学名誉教授の渡辺治さんが「総選挙後の政局と軍拡、憲法をめぐる情勢、今後の展望」と題して講演しました。概要を紹介します。(多田重正記者)

岸田政権時代に日本の軍拡、改憲は新しい段階に

 裏金問題の批判を浴びて岸田文雄政権が退陣し、昨年9月、石破茂政権が発足しました。石破政権の軍拡・改憲政策を知るには、石破氏が引き継ぐと表明した岸田政権の軍拡、改憲政策をまず分析する必要があります。結論を言うと、岸田軍拡は安倍軍拡を超え、軍拡を新段階に引き上げました。
 岸田軍拡が安倍軍拡を超えた理由は、アメリカの戦略の大転換にありました。トランプ前政権は、自由な市場に歯向かう「ならず者国家」やテロとたたかう戦略から、アメリカの覇権に挑戦する覇権国家として台頭した中国と対決する戦略にかじを切り、バイデン政権はそれを拡大、対中国軍事対決の拠点となる日本に圧力をかけてきたからです。「台湾有事」の際、日本は米軍の出撃拠点となるだけでなく、集団的自衛権を行使して米軍に加担し中国とたたかえ、という圧力です。その実行の任を負ったのが岸田政権でした。
 岸田軍拡の第1の特徴は、自衛隊を「戦争する軍隊」に改造したことです。自衛隊は、軍事費では世界有数の大国でしたが、憲法9条と国民の運動により、その行動は大きな制約を受けていました。岸田軍拡はアメリカに従って中国と戦争するために、この憲法による制約をすべて取り払おうとしたのです。憲法で禁じられていた、他国を攻撃する長射程ミサイルの大量配備、「敵」を探知するための軍事衛星群の打ち上げ、対中戦争の前線基地となる南西諸島への自衛隊の重点配備、基地の要塞化などです。
 岸田軍拡の第2の特徴は、「戦争する軍隊」だけでなく「戦争する国」づくりを強行したことです。
 戦後、憲法にもとづき軍事大国にならないため、日本が守ってきた防衛費の上限(GDP比1%)を、完全に破壊し2%をめざす。軍事大国にならないため、武器輸出を禁じていた原則を破棄して軍事産業育成のため、殺傷能力を持つ武器の輸出を解禁する。さらに国家機密の範囲を経済情報にまでひろげる、経済秘密保護法の制定。「国民の安全に重要な影響をあたえる事態」に、国が自治体に対して戦争準備を命ずる「指示」を出せるようにする、地方自治法の改悪。軍事研究の加速化のための日本学術会議の改変などが、それです。
 岸田政権は軍拡だけでなく、改憲問題でも、安倍時代を超えて「前進」を遂げました。2021年の総選挙で議席を伸ばした維新の会や国民民主党を利用して、安倍時代にはすすまなかった憲法審査会での改憲論議を重ね、自民、公明、維新、国民など、5会派の一致する「緊急事態における議員任期延長改憲」を先行し、改憲の突破口とする戦略をとったのです。
 岸田改憲は、市民と野党の共闘によって挫折を余儀なくされましたが、岸田首相は改憲を諦めず、議員任期延長改憲に加え、改憲の本命である「戦争する国づくり」改憲、憲法9条への自衛隊明記、有事の際に政府の命令で国民を戦争に動員する緊急政令改憲を加え一括して強行する戦略に転換し、その新戦略を自民党として決定し、ポスト岸田の新政権が岸田改憲を継承することをねらったのです。

石破首相は持論を引っ込め岸田政権の路線を継承

 岸田政権は、裏金問題での国民の怒りで倒壊し、総裁選の結果、裏金問題にもっとも厳格な処理を主張した石破内閣が誕生しました。
 従来、石破首相は、軍拡、改憲について自民党主流派とは異なる主張をしてきました。軍拡問題では、日米同盟の一体化を追求してきた安倍・岸田氏と違い、日米同盟の大枠は認めるものの日本が全面的に集団的自衛権を行使することにより、地位協定改定など日米同盟の「対等化」をはかるという主張をくり返してきました。また、9条改憲については、軍隊の保持を禁止した9条2項を廃止して国防軍保持を明記する、より「過激」な改憲を主張していました。
 しかし、国民の大運動もないのに日米同盟の「対等化」などアメリカが認めるはずもなく、また、市民の反対の声や市民と野党の共闘ががんばっているもとで、国防軍設置をうたう改憲などできるはずもありません。内閣誕生と同時に、石破首相は、持論の撤回を余儀なくされ、軍拡、改憲について、岸田の路線を踏襲、加速化をはかる方針に転換したのです。

総選挙の3つの結果―「自公政治を変えて」という国民の期待

 石破首相は、総裁選最中の約束を踏みにじって内閣発足早々の解散・総選挙に踏み切りましたが、自民党は大敗、自公は過半数割れに追い込まれる結果となりました。そこで、この選挙が示したものを3点指摘したいと思います。
 第1は、この選挙における自民党の大敗は歴史的なものだという点です。自民党の比例得票率26・73%は、21世紀に入ってからの16回の国政選挙で下から2番目。得票数でも、21年総選挙から533万票も減らし、1500万票を割ってしまいました(表1)
 今度の選挙が示した第2の特徴は、自民党がこれだけ票を減らしたにもかかわらず、自民党から離れた層を立憲野党が獲得できず、野党票が分散した結果、政権交代が起こらなかったことです。野党第一党の立憲民主党は小選挙区で議席を増やしたものの、その比例票は21年と比べて7万票しか増えず、自民党から離れた533万票のほとんどを獲得することができませんでした。
 では、自民党から離れた票はどこへいったのか。国民民主党が21年比で358万票増やし、れいわ新選組が同じく159万票増やして、自民離れ層を吸収したのです。
 では、どうして、自民離れ層は立憲民主党に行かなかったのでしょうか。それを知るには、今回の自民大敗の原因が裏金だけでなく、低賃金、社会保障費削減、物価高など、自公による新自由主義政治への不満と自公政治を変えてほしいという切実な思いにあったことが重要です。ところが、立憲民主党は裏金問題に論点を集中し、自公の暮らし破壊の政治に代わる政治構想と、それを実現するための立憲野党共闘の戦略を対案として国民に示せませんでした。そのため、自公政治を変えてほしいと切望する層は、「手取りを増やす」「消費税を減らす」など、目に見える対案をくり返した国民やれいわに一縷(いちる)の望みを託したのです。
 第3の特徴は、市民と立憲野党のがんばりで、政治を前進させる条件が生まれたことです。自公を過半数割れに追い込んだ結果、維新の後退も含めて、衆院では、改憲勢力が改憲発議に必要な3分の2を割り込み、改憲策動にブレーキがかかりました。また、衆院27の委員会のうち、12で委員長を野党が担うことになり、特に予算委員長が立憲民主党の議員になったことから、予算にからめて軍拡や新自由主義的な政治などあらゆる問題を告発する条件もできました。

軍拡・改憲を阻止するために

 総選挙により、石破政権は少数与党に追い込まれましたが、なお軍拡に突きすすもうとしています。25年度予算案では、軍事費は過去最高、8兆7000億円にのぼっています。しかし軍拡と改憲では、日本とアジアの平和は実現できません。
 石破政権の軍拡、改憲政策を止めるには、総選挙が切り開いた新たな条件を活用して、軍拡の是非を国会で追求し、軍拡反対の声で石破政権を追い詰めることが必要です。そのためには、市民と野党の共闘を再構築、強化し、国会を自公政治の是非を本格的に議論する場にするよう、運動を強めることが不可欠です。同時に、この夏の参院選でも自公を過半数割れに追い込み、改憲策動に終止符を打つことが求められます。


平和といのちを守るために

各地のとりくみを紹介します。

一切の戦争政策に反対
700回に迫る毎日のスタンディング
北海道・勤医協札幌西区病院

 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。北海道・勤医協札幌西区病院は、尊いいのちが奪われている現状に対して何かしたいと、同年3月15日から平日毎日、抗議のスタンディングを続けています。きっかけは、ウクライナの惨状に「黙っていられない。一人でもスタンディングをする」と、北海道勤医協西・手稲支部の社員支部長(当時)が表明したこと。それなら職員もいっしょにと、連日のスタンディングが始まりました。これに先立ち院内共闘委員会が3月2日に行った最初のスタンディングには、50人が参加。職員の関心の高さが後押しになりました。
 大雨の日も大雪の日も、午後1時から15分間、札幌と小樽をつなぐ、交通量の多い旧国道沿いの同院前に立ち、ガザへの攻撃を続けるイスラエルにも抗議します。昨年末までに685回。アピールグッズは労組や地域の友の会の手づくりです。病院だけでなく、薬局や歯科、在宅事業所の職員、医師の姿も。友の会フラダンスサークルが活動前にフラの衣装で参加することもあり、時々で雰囲気も変わります。職種もさまざま。職員間の交流にもなっています。
 毎日続けているとうれしい反響も。通行人からは「がんばって」と声をかけられ、向かいの医療機関で増築工事をしていた作業員は、工事最終日に手を振ってくれました。「毎日見てくれていたんだと、うれしくなった」と、事務長の鶴谷拓雄さん。たまたま通りかかったウクライナ支援団体の人から話しかけられ、懇談して「お互いがんばりましょう」とエールを交換したこともありました。
 とは言え、新型コロナやインフルエンザの流行、忙しい日常業務のなか、毎日続けるのは大変です。少ない日は、数人で実施することもあります。それでも、「綱領に“一切の戦争政策に反対”と掲げる民医連の事業所として、戦争が終わるまでやめられない」と、今年も1月6日からスタンディングを始めています。

学びを深め署名数を伸ばそう
Kenpou-Keeperチャレンジ第2弾
福岡・佐賀民医連

 福岡・佐賀民医連は昨年4~7月、Kenpou-Keeperチャレンジ第2弾を実施しました。2022年に続く2回目。「憲法改悪を許さない全国署名」をひろげるために、今回は憲法について学びを深める機会も取り入れました。
 「憲法署名に限らず、民医連などがとりくむ各種署名は、どれも一定数集まると伸び悩む。昨年参加した全日本民医連社保委員長会議でも、全国のみなさんが同じ悩みを抱えていた」と企画担当者の今村直美さん(福岡民医連・事務)。その克服のために、福岡民医連県民運動部や反核平和委員会で工夫を凝らしました。
 集めた署名数、憲法クイズの正解、学習動画視聴と感想文、憲法川柳、SNS公式アカウント登録で、ポイントを獲得。計100ポイント以上獲得するとチャレンジ達成となり、100ポイント以上、120ポイント以上で副賞も贈呈しました。ニュースやSNSで発信も。福岡・佐賀民医連加盟事業所の全職員を対象に、エントリー300人、署名数3000筆が目標。結果はエントリー118人(うちチャレンジ達成41人)、署名数1395筆と、目標達成には至りませんでしたが、県連で4万筆の目標に向けて、署名を積み上げることができました。
 参加者からは「良い学びの機会となった」「法律と憲法の違いを学べた」「忙しいなか面倒くさいと思っていたが、やり出すと意外とはまっておもしろかった」「憲法川柳がおもしろい」など、ポジティブな感想が寄せられました。
 昨年10月からは新たな憲法署名がスタート。今回見つかった改善点・課題も生かし、近く、Kenpou-Keeperチャレンジ第3弾も行う予定です。

(民医連新聞 第1821号 2025年1月20日号)