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民医連新聞

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診察室から 長谷川式認知症スケールから見えたSDH

 福岡市東区にある千鳥橋病院附属城浜診療所で、昨年4月から所長をしています。当院には80、90代でも元気はつらつで通院する人、伴侶を亡くし一人暮らしの人も少なくありません。そうした人には早めの介護申請をすすめ、主治医意見書を書く際には認知面での評価が必要なため、長谷川式認知症スケール(以下、テスト)を実施しています。
 ある80代の女性は、認知面は問題ないと思われましたが、結果は28点。引き算や数字を逆から読む問いができていません。そこで一つ質問。「学校は最後どこまで行きましたか?」「小学校3年生。母親が具合悪くなってずっと看病をしていたので」。計算ができないのは小学校を中退していたからだったのです。
 ヤングケアラーが注目されていますが、国民皆保険制度がない時代は、今以上に親の健康問題や家業の手伝いで学業を諦めざるを得ない人がいたのでしょう。今ではテストで引き算や逆算ができない人には、かならず最終学歴を聞いています。
 毎月、地域包括支援センターなどから紹介される認知症患者には、本人に病識がなく、家族がせん妄や徘徊(はいかい)で困り果て相談したケースも。心がけているのは「認知症」というレッテルを患者に貼らないこと。医師に「あなたは認知症です」と言われ立腹し、受診を中断したケースもあります。認知症は、投薬加療をしても進行する難病。本人や家族の心のケアを行う慎重さが必要です。
 外来では患者に生活で困っていることがないか尋ね、「忘れっぽくなったと心配して、息子さんついてきてくれているよ」と伝えます。治療可能な認知症の鑑別のための検査や画像検査、周辺症状を落ち着かせる投薬も大事ですが、認知症の改善にもっとも寄与するのが、デイサービス、デイケアなど、積極的に屋外に出るサービスを導入して環境を整えること。当院では、かかりつけ医になることで、外来や訪問診療で認知症のケアをすすめています。
 介護保険制度を利用して多職種協働や医療・介護連携を強化し、認知症の患者それぞれの尊厳を人生最後の時まで尊重することが、我われに求められています。そのためには医療も介護も圧倒的な人手不足を解消しなければなりません。全日本民医連でとりくんでいる、医療従事者、介護従事者の増員を求める全国署名運動に、いっしょにとりくんでいきましょう。(三浦英男、福岡・千鳥橋病院附属城浜診療所)

(民医連新聞 第1821号 2025年1月20日号)