新春インタビュー 平良いずみさん(映画監督) PFAS汚染は人権侵害 ケアワーカーと報道の連携で世論動かす大きな力に
全国でPFAS(有機フッ素化合物)による水の汚染が表面化しています。沖縄の映画監督、平良いずみさんは、国内で最初に汚染が発表された沖縄で、いち早くこの問題に着目してきました。母としての思い、国内外の状況、民医連への期待を聞きました。(松本宣行記者)
私が育児休業中だった2016年に、沖縄県は突如、PFAS汚染を発表しました。産科医からミルクは水道水でつくるよう指導されており、子どもに毒を与えてしまった悔しさ、罪悪感、不安がこの問題にとりくむ原点です。怒りを原動力に、取材しています。
沖縄は1994年まで、給水制限があった島です。県民は水の大切さが身に染みています。その水が汚染されていたのです。
水不足の島に降る白い泡
2020年、宜野湾(ぎのわん)市内に白い泡が降りました。普天間(ふてんま)基地内のバーベキューが原因で、消火装置が誤作動して、PFASを含む泡消火剤が流出したのです。基地の真横にある湧水も汚染されていました。その湧水は家庭菜園などに利用されています。土壌に染み込んだPFASは、野菜などへの移行がわかっているため、看過できませんでした。理解を得られた人の土地で調査し、汚染を報じました。水はいのちに直結します。この問題の発覚から現在までの流れを『水(みじ)どぅ宝』、『続・水どぅ宝』(OTV)にまとめました。
日独の差にあ然
取材でアメリカ、ドイツ、イタリア、スイスを訪ねました。取材を重ねるごとに、PFASがもたらす健康被害に恐怖を覚えます。
ドイツ駐留米軍は、PFASの汚染源は基地と認め、米軍の負担で浄化施設を開設しました。米軍は取材に対し、スーパーファンド法(米国の環境保護法)に準じていると回答しています。対して日本は、沖縄は、どうでしょうか。在日米軍基地が汚染源と疑われていますが、調査を拒み、一方的に汚染水を下水へ放出します。
涙を怒りに変えた女性たち
子どもを守ろうとするウナイ(女性)の怒りは世界共通です。言葉を詰まらせ、涙を流しますが、徐々に怒りへと変化します。沖縄のウナイたちは、国連の女性差別撤廃委員会で、PFAS汚染は女性や子どもの健康を害する人権侵害だと訴え、委員が日本政府に情報を開示するよう求めました。それに対し日本政府は「国内で健康被害は確認されていない」と、従来通りの発言にとどまりましたが、国連勧告に盛り込まれました。
今も沖縄を傷つける戦争
戦後70年に制作した『まちかんてぃ』(OTV)では、沖縄の夜間中学に通う高齢者たちへ、カメラを向けました。人生の大切な時期に、戦争で学びを奪われた人たちです。戦争は終わっても長期にわたって悪影響が残ります。今年は戦後80年です。今もなお残る米軍基地、PFAS、浦添西海岸の軍港移転問題を追います。
本土と沖縄の共通問題
PFAS問題では、本土の人たちが沖縄と同じ問題に、当事者として向き合っています。憲法25条は、私たちと子どもたちのいのちと健康を守っているはずです。それが今、守られていません。世論が動かないと、政府はなにもしないことを、民医連のみなさんは、よく知っているのではないでしょうか。みなさんにはこの問題を、患者・利用者・住民と語り合ってほしいです。時間のかかる調査報道は、私たちが担います。ケアワーカーのみなさんと報道で、いのちと健康を守る気持ちを共有し、手を携えられたなら、世論を動かす大きな力になるはずです。ともに、ひやみかちうきり(ふるい立ちましょう)。
たいら・いずみ
沖縄テレビ放送(OTV)入社後、報道部でキャスターを務めながら、ディレクターとして基地問題、医療、福祉などをテーマにドキュメンタリーを多数制作。『まちかんてぃ』で民放連賞優秀賞。映画『ちむぐりさ菜の花の沖縄日記』(2020年)で初監督を務める。『水どぅ宝』(2022年)でギャラクシー優秀賞など受賞多数。GODOM沖縄ディレクターとして取材活動を続ける。
(民医連新聞 第1820号 2025年1月6日号)
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