能登半島地震からまもなく1年 求められる復旧・復興の視点は 自治体問題研究所 理事長 中山徹さんに聞く
能登半島地震からまもなく1年。現地では、倒壊した家屋が残るなど、復旧の途上にあります。なぜ復旧が遅れているのか。復旧・復興をめざす上で必要な視点は。自治体問題研究所理事長の中山徹さんに聞きました。(多田重正記者)
甘い被害想定 職員減で自治体も弱体化
―復旧が遅れている理由は。
第一に、石川県の被害想定が非常に小さかったことです。
どの自治体でも地震などの被害を想定し、想定した被害にもとづいて地域防災計画をつくっています。石川県でも県が被害を想定して計画をつくり、それをもとに市町村が個別の計画を策定していますが、県の防災計画上の被害想定は図2の通りです。想定震度は6弱で、能登半島地震は震度7。死者数は想定7人ですが、実際は339人(うち関連死110人)で、48・4倍です。負傷者数、避難者数、建物の全壊と、いずれも実際の被害が想定をはるかに上回ります。
2020年末から能登半島では群発地震が続いていました。被害想定や計画の見直しの必要性が指摘されていたのに見直さず、必要な手だてをとらなかったことが復旧の遅れにつながっています。
第二に「平成の大合併」などを通じて「災害に弱い自治体」ができてしまったことです。
奥能登の2市2町(輪島市、珠洲(すず)市、能登町、穴水町=図1)はもともと2市4町1村でした。職員も大きく減らされ、地域の状況をつかむことが困難になっています。復旧・復興の要である行政が弱体化しています。
図3は自治体職員の増減率です(2005~2023年)。輪島市で23・1%、珠洲市で26・9%、能登町は39・3%も減っています。
すすまない住宅の耐震化
第三に住宅の耐震化が遅れていることです。
能登半島地震では、直接死の8割以上が、阪神・淡路大震災(1995年)と同様に建物の倒壊によるものです。住宅の構造は地方ほど木造が多い。輪島市、珠洲市では9割以上が木造です(図4)。建築時期も両市では建築基準法の改定前(1980年以前)と同法の再改定前(1981~2000年)の合計で全体の7~8割を占めます(図5)。2000年以前の木造住宅は耐震診断を受け、耐震性がなければ耐震改修をするというのが国の方針です。
国は、2020年までに住宅の耐震化率を95%、2025年にはほぼ100%という目標を掲げていますが、耐震性を有する住宅の割合は輪島市で45・2%(2019年※1)、珠洲市で51%(2018年※2)です。耐震診断の実施率は輪島市で5・7%、珠洲市で1・5%にすぎません(2014~2018年の累計)。地震に弱い住宅が多いことも被害を拡大し、復旧の遅れにつながっています。
能登半島地震でねらわれる「集約化」
―復旧の遅れについて、現地では「能登は、国に見捨てられているのでは」との声も出ています。
その通りだと思います。被災した市町は過疎地ですが、地震で人口減少が加速しました(図6)。住居を失った人が子どもを通学させるために転居した例も多く、輪島市では小学生が42・5%も減りました。市町は避難した人たちに戻ってもらおうと、今年末または今年度末までに復旧・復興プランを策定しようととりくんでいます。
しかし土屋品子復興大臣(当時)は、奥能登の被災地を視察した後、「人口減少、自治体の財政状況を踏まえると、市長、町長に集約化を訴えていく必要がある」と語りました(6月5日)。財務省も「集約的なまちづくりやインフラ整備」の検討が必要としています(財政制度等審議会財政制度分科会提出資料、4月9日)。つまり「今後、人口も減っていくのだから、維持管理コストを考えれば、元のところに戻るより、インフラを含めて、まとめていくようなまちづくりをすすめなさい」ということです。
県も「石川県創造的復興プラン」で「創造的リーディングプロジェクト」を掲げています。その冒頭にあげているのが二拠点居住です。平日は金沢市など都会で生活して働き、週末は奥能登で暮らすイメージです。この二拠点居住も、県内での集約化につながります。
―住民の願いとはかけ離れていますね。
国や県は、地元住民のことより、地震をきっかけに、過疎地のあり方を見直そうと考えています。骨太方針2024(6月)は「奥能登の復興が人口減少地域における地方創生のモデルとなることをめざす」としています。奥能登で集約化がすすめば、他の地方で震災が起こった際、同様の集約化がすすめられることにつながります。
生活と生業の再建を最優先に
―復旧・復興をめざす上で、求められる視点は。
1つ目は、集約化を持ち込まないことです。阪神・淡路大震災でも震災をきっかけに、区画整理や駅前開発など、住民の要望とかけ離れた大型開発が震災復興事業として行われました。今回の能登半島地震でも集約化ではなく、地元住民の声を出発点にしなければ。
2つ目は、生活と生業(なりわい)の再建を最優先にすることです。
生活にはまず、住宅再建が必要です。建て直しや改修を個人任せにせず、行政の責任でやる。奥能登では水道管も道路までは行政が復旧していますが、住宅に引き込む部分は「個人の資産だから」と自己負担にされ、いまだに水道が復旧していない住宅が残っています。しかし地震はその家に住んでいる人が悪くて起こったわけではありません。住宅の引き込み部分も行政の責任で復旧すべきです。
生活が再建されて地域で暮らす人びとが増えると、地域での消費も増え、生業の再建につながります。学校や福祉施設などの復旧、人材確保などもすすめて住民の暮らしをささえることが重要です。
3つ目は、集落単位の再建計画を基礎にすることです。生活や生業の再建でも、その集落の人がいちばん地域の実情を知っています。自分たちの集落やコミュニティーをどうしていくかという計画がまずあって、それを束ねて市や町の計画にし、県や国が支援する形にする必要があります。
4つ目が、長期的な復興計画を立てることです。これは急ぐ必要はありません。きちんと生活や生業の再建をはたしながら、地元の人たちが自分たちで考えながらすすめることが大切です。
災害に強いまちづくりに向けて
―災害に強いまちづくりも課題ですね。
住宅の耐震改修も公費ですすめたらいいと思います。耐震性のない住宅は2023年で全国550万戸程度でしょう。これを今後10年間、250万戸は建て替えて、公費で残り300万戸を耐震改修すると仮定すれば概算で300万×168万円=5兆円。年間約5000億円で可能です。今「103万円の壁解消」で減る税収(年間8兆円)をどうするかという議論をしていますから、5000億円は現実的な数字です。建物が倒壊しなければ負傷者や犠牲者が減り、医療費も減ります。復旧もスムーズにすすみ、経済の再生も早くなり、税収の落ち込みも軽微になります。5000億円を公費で負担しても、経済・財政上の効果はそれ以上になると思います。
避難所も日本では体育館や公民館などに集団で床に寝かされ、プライバシーも保たれない。阪神・淡路大震災から変わっていません。ところが今年4月、台湾・花蓮の大地震では、すぐに体育館に四方を仕切りで囲った個室が設置され、3時間後に避難者を受け入れました。簡易ベッドもあり、あたたかいお弁当も配られました。避難所の改善は震災関連死の抑制にもつながります。日本でも国・自治体がやる気になればできるはずです。
「人間の復興」をささえるとりくみを
―最後に、民医連職員にメッセージを。
復旧・復興を考える上でいちばん大事なのは、そこに住んでいる人です。人の心が折れてしまったら、道をつくっても、建物が完成しても、地域の復興なんてできません。住民が希望を持って自分たちの地域について考え、まちづくりをすすめていくような「人間の復興」が大事だと思います。
能登半島では病院の統廃合もねらわれています。しかし医療機関は、住民が安心して暮らしていく上で欠かせません。医療や高齢者福祉のあり方も考えていく必要があります。
これからも、民医連のみなさんもいっしょに、奥能登の復旧・復興をささえるとりくみをすすめてもらえたらと思います。
―ありがとうございました。
※1 「輪島市耐震改修促進計画」2008年策定、2020年改訂
※2 推計値。「珠洲市耐震改修促進計画」2007年策定、2019年改訂
中山徹さん
自治体問題研究所理事長。奈良女子大学名誉教授。専門は建築学、まちづくり
(民医連新聞 第1819号 2024年12月2日・16日合併号)
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