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民医連新聞

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連載 いまそこにあるケア 第17回 問題解決型支援だけでない欲望形成支援を 文:河西 優

 現在、政府・自治体は、進学、就職、友人との付き合いなど、ヤングケアラーのさまざまな機会を保障するために、相談窓口の開設やヘルパー派遣を行っています。これらの支援は、当事者自身が問題を自覚し、SOSを出さなければつながりません。
 しかし2021年の政府の実態調査では、相談した経験がないケアラーが5~6割で、理由として「誰かに相談するほどの悩みではない」「相談しても状況が変わるとは思わない」などがあげられています。また、私たちが出会ったケアラーの声からは「自分がどうしたいのかがわからない」「自分の人生を生きるとはどういうことかがわからない」という実態が見えてきました。このように当事者がその状況を「問題」と思わない、問題から抜け出すことに希望を見出しにくい背景には、幼いころから家庭や社会における暴力や抑圧、貧困、無理解、偏見などの逆境に適応せざるを得ず、欲望そのものが抑え込まれてきたプロセスがあります。
 欲望が抑え込まれたケアラーは、何を訴えればよいのかわからず、相談やヘルパー派遣といった問題解決型支援にはつながりにくいのです。ですから、問題解決をめざすのではなく、何が問題なのか、自分がどうしたいのか、時間をかけて自己理解を深めながら、欲望をつくっていく「欲望形成支援」(國分功一郎の言葉)が必要ではないでしょうか。
 この点で、私はピアサポート(仲間同士の支え合い)に可能性を感じています。似たような経験をした他者の話を聞いたり、それに触発されて自分の経験を思い起こすなかで、過去の経験や現在の状況を相対化し、内省すること。それは、ときに社会の規範によってつくられ、長く自身を抑圧してきた認識の変化につながります。たとえば「家族に優しくしないといけない」「家族のケアをして当たり前」という認識が、他者の話を受けて「優しくしなくてもいいんだ」「つらいときは家族のケアから離れてもいいんだ」という認識に変わることがあります。
 さらに、認識の変化が「家族から離れたいかもしれない」「一人暮らしをしたい」などの具体的な欲望の形成につながることもあります。こうした欲望が強く生まれた段階では、問題解決型支援が必要になる場面もあるでしょう。短期的な問題解決型支援と長期的な欲望形成支援の両輪が必要ではないでしょうか。


かさいゆう:立命館大学人間科学研究所補助研究員/子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト発起人

(民医連新聞 第1819号 2024年12月2日・16日合併号)