第16回 看護介護活動研究交流集会in熊本 ケアの倫理、認知症のケア、災害支援など学び深める 5つのテーマでセミナー
セミナー1
ケアの倫理とケアの実践
全日本民医連人権と倫理センター長の加賀美理帆さんが、「ケアの倫理 未来を切り拓く」と題して講演しました。
倫理は社会基盤の変化に影響されやすいこと、医療従事者は技術だけでなく患者の心と向き合い、尊厳を保障する高い人権意識と倫理観が求められることを指摘。看護職、介護福祉士会、介護支援専門員の倫理綱領、医療従事者による戦争犯罪や人体実験などの反省から生まれた倫理4原則にも触れました。
また、「医療・介護活動の2つの柱」(2016年)、「『ケアの倫理』が貫かれた無差別・平等の医療・介護サービスを一体的に提供」(2022年)など、民医連が方針に掲げてきた倫理的側面に言及。倫理に関する民医連の交流集会の歩みや、同センターが旧優生保護法下での強制不妊手術問題を機に発足したことものべました。
加賀美さんは「ケアは生きることを肯定する営みであり、社会と人間をささえる不可欠の実践」「人をケアするとは、その人が成長することを助けること、自己実現を助けること」など、政治学者、哲学者の見解を紹介。「ぜい弱性を抱え相互依存の存在であるという人間の本質に立ち、ケアの倫理を公的規範として鍛え上げ、人間・社会・民主主義を捉えなおす」必要性をのべた、岡山県労働者学習協会の長久啓太さんの言葉も紹介し、「ケアの倫理の特徴と、みなさんが日常的に行っている諸活動は矛盾しない。日々の実践のなかで『これってケアの倫理だよね』というようにとりあげられるようになれば」と。
その後、参加者同士で感想や疑問を出し合うトリオセッションを交じえ、交流しました。
セミナー2
認知症ケアを考える
170人が参加。講演は、熊本県介護福祉士会会長の石本淳也さんによる「地域で支える多職種で支える認知症ケア」でした。
石本さんは冒頭、介護の魅力発信プロジェクトである「KAiGO PRiDE」を紹介。認知症基本法の基本理念の「正しい知識と理解」に着目し、説明しました。文部科学省の学習指導要領で、中学生は介護や認知症を学びます。医療・介護事業所の近くにある中学校へ、出張講座に名乗りをあげるチャンスであり、重要な役割だと言います。医療・介護職は、専門職である前に一市民・一住民です。「地域」とは二通りあり、事業所がある地域と、一住民として住んでいる地域だと指摘。「認知症の啓発は、職場のある地域だけで完結するものではない」とのべました。
多職種連携は今後、他業界連携になると予想を披露。また、医療・介護の多職種連携は、共通言語が必要と強調しました。介護職が医療の言葉を学ぶ必要があるのと同時に、医療職へ「医療と福祉は教育内容が違う。福祉系の職員に医療の言葉が通じると思わず、職場で学習会を開くなどして共通言語の確立を」と補足しました。
指定報告では、東京・すこやか福祉会の塚田望さん(保健師)が「認知症になっても地域で暮らす」、岡山・ひだまりの里病院の銀羽あす香さん(看護師)が「認知症専門病院として選ばれる病院になるために~短期集中治療チームとして自宅退院に向けた取り組み~」を報告。会場からは、人材確保に関する質問があり、石本さんは「まず離職防止が大切。同時に介護の魅力を各地で発信しましょう」と訴えました。
セミナー3
安心して住み続けられるまちづくり
最初に、北葛北部医師会の地域ケア拠点菜のはなの秋元里美さん(看護師)が「寄り添いつながる看護の力~コミュニティーナースの実践」をWEBで講演。
「みんなのカンファ」では、地域でささえ合い支援活動を行っている住民や専門職を支援するカンファレンスも実施しています。
「暮らしの保健室」を50カ所設置し、主役は地域の人、当事者目線を忘れない、血圧測定は手段、いっしょに悩むことを作法に継続。
地域に看護師が出ることで、医療・介護以外の生活支援に目を向けることができ、地域ケアシステムの一翼を担っています。お互いさまというささえ合える関係をつくり、地域の福祉力を高めることにつながるとのべました。
指定報告は大分・竹田診療所の「僻地(へきち)診療所での熱中症対策についてのとりくみ」について。高齢化や熱中症患者が増えるなか、熱中症対策自宅訪問シートを作成して訪問、対策を呼びかけるポスターも更新しました。今後は高齢独居、老老世帯以外の家族と同居する世帯に向けた熱中症リスクへの注意喚起を広域的に行います。
栃木・生協ふたば診療所は「診療所がつくるまちの保健室(カムカム)のとりくみ」を報告しました。地域の介護事業所との共同事業として、2022年11月にオープン。診療所のスタッフの常駐で支援の拠点になり、継続的なフォローができる、普段の何気ない会話から生活状況を聞き取り、気づき、問題点に介入できると指摘。またスタッフと利用者同士の顔の見える関係で、日常的に継続的な多職種での支援が可能になるなど、活動の特徴をのべました。
セミナー4
ほしい未来をみんなでつくろう
コミュニティー・オーガナイジング・ジャパン(以下、COJ)の中村果南子さんが「コミュニティー・オーガナイジングで未来を創る」と題して講演。コミュニティー・オーガナイジング(以下、CO)とは、「市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方」(COJホームページより)。中村さんはCOについて『スイミー』の物語のようなものだと話し、一人では果たせないことでも多くの同志の持つ資源を力に変えて、目的達成をめざすものだと説明。COで言う同志とは、同じ問題を抱え、その解決をめざす人たちです。
COでは、多くの人が連携してリーダーシップを発揮するスノーフレーク・リーダーシップの考え方を採用。リーダーが次のリーダーを育てていく考え方のため、チーム全員がリーダーになり得ます。そうして生まれたリーダーたちは、(1)共感できるストーリーをつくり、(2)ストーリーを共有し、(3)チームをつくり、(4)戦略を立て、(5)行動を起こすという5つのリーダーシップを用いて課題解決をすすめます。また、ナース・アクションと無低プロジェクト(北海道)を例にあげて、(1)から(5)のどこがよかったのか、またどこを改善すればよいのか、話しました。
講演の合間には、トリオセッションを行い、自分の職場やチームをCOの視点でふり返り、互いにアドバイスしました。
セミナー5
困ったところに民医連あり
130人が参加。元日の石川・能登半島地震と、2018年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震に関する3つの指定報告を中心に民医連の災害救援活動について学びました。
石川・城北病院の藤牧和恵さん(看護師)は「全国はひとつを実感した民医連の災害支援~能登半島地震における全国看護支援を受け入れて~」を報告しました。6月末までに全国から医師37、看護師96、薬剤師4、介護職2、心理職12、事務幹部58人の支援を受け「現場職員も勇気をもらえた」と語りました。
石川・ヘルパーステーションさくらの山下綾花さん(介護福祉士)は「地震に奪われた能登の日常」と題して報告。地震で生活は一変し、大切な人を亡くした上、輪島診療所併設の介護事業所の職責者としても葛藤。「できることを」と、自衛隊風呂で入浴介助。涙で言葉に詰まりながら9月の豪雨被害にも「前を向きがんばる」と語る山下さんの姿に、会場ではすすり泣く人たちもいました。
北海道・勤医協中央病院の折出洋子さん(看護師)は「北海道胆振東部地震における経験」を報告。全道停電のなか、450床の急性期病院の機能を維持し患者・職員・地域の医療を守った、緊迫する現場の様子と対応を語りました。日常の民医連活動の重要性を強調し「教訓を次につなげる努力が必要」と語りました。
続く質疑では、職員のメンタルヘルス、被災地と外との温度差、患者・利用者宅の災害備蓄、管理者の支援なども話題に。MMAT委員の下林孝好さん(奈良・土庫病院、医師)は基調報告で、災害支援とともにあった民医連の歴史とMMATの活動を紹介しました。
(民医連新聞 第1818号 2024年11月18日号)