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民医連新聞

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「非戦・人権・くらし」の視点で大軍拡の危険性を知らせよう

 岸田政権(当時)のいわゆる安保三文書の閣議決定から、まもなく2年。私たちの暮らしのすぐそばで、大軍拡がすすめられています。最前線を知る日本平和委員会事務局長の千坂純さんは、「戦前同様、狂った世界に突入している。転換しなければ、本当に大変なことになる」と、警鐘を鳴らします。香川民医連が加わる市民運動とともに、取材しました。(丸山いぶき記者)

身近ですすむ狂気の大軍拡
日本平和委員会・千坂純さんに聞く

「日米軍事強化」のリアル

 安保三文書で専守防衛の建前さえ投げすて、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、防衛費(軍事費)の2倍化、殺傷武器の輸出までねらう自公政権。来年度の防衛予算(概算要求)は8兆5389億円にのぼり、危険な大軍拡が次々具体化されています(地図)
 この大軍拡路線の核心は、アメリカの要求に応え、日本も他国を直接攻撃できる兵器を持ち、アメリカといっしょに戦争をする態勢をつくることにあります。最大の柱は中国や北朝鮮、ロシアにも届く、長射程のミサイルを大量に購入、開発、配備することです。1000km射程のミサイルを沖縄・南西諸島に配備。一方で、島は標的として真っ先に攻撃されることを前提に、面積がひろく移動もでき、的をしぼりにくい本土に2000~3000km射程のミサイルを置き、攻撃を続け、アメリカを軍事的優位に立たせるシナリオです。これをアメリカの核威嚇態勢の強化と一体に推進する。これが日米閣僚級の「拡大抑止協議」ですすめられていることです。
 そのために、日本中から攻撃し続けられるように、全国で弾薬庫を増設しています。反撃されて使えなくなる基地に代わり、民間空港・港湾を、部隊の輸送、展開の中継拠点として使うつもりです。その態勢づくりが、いま全国で問題になっている「特定利用空港・港湾」指定です。

「特定利用空港・港湾」とは

 要は民間空港・港湾を、大型ジェット戦闘機の離発着や大型艦船の寄港ができるように整備し、有事に使えるようにするのです。懸念の声を受け政府は「武力攻撃事態の時には適用されない」と言い始めていますが、ごまかしです。平時と「緊急時」(=「存立危機事態」など、アメリカの戦争に日本が参戦・協力する事態)には「特定利用空港・港湾」の円滑な利用の枠組みで空港や港を利用し、武力攻撃事態には別枠組みの有事法制で、民間空港や港、働く人も動員するのです。
 いま唯一、沖縄県だけは軍事優先の態勢がつくられることの危険性を認識し、同意していません。
 指定を受け入れてしまった自治体は、「有事には使われない」「地域振興になる」「災害救助にも役立つ」と、一生懸命宣伝しています。しかし現に、10月23日~11月1日、全国的に行われた最大規模の軍事演習、日米合同統合演習(キーンソード25)では、32の民間空港・港湾(うち13は「特定利用」指定)が使われました。

医療の戦争動員に向け

 医療労働者も戦争動員の重要なターゲットです。有事法制が発動されると、土木建築・輸送業務と並び、医療労働者にも、強制的な業務従事命令を出せます。
 これまでは憲法9条が歯止めとなり、自衛隊は発足から1人の戦死傷者も出さない、世界でもまれな軍事組織でした。しかし、いま初めて自衛隊員が大量に負傷し、戦死することを想定した、具体的な対応が検討されています。キーンソード25では、沖縄で負傷した兵士を埼玉県入間の自衛隊病院、さらに東京や神奈川に運び、治療する訓練も。今後ますます医療労働者の動員が予想されます。

理性的な平和の道へ

 全国の自衛隊基地を、核攻撃があっても戦争が続けられる強靭(きょうじん)な基地にしようとしています。司令部を地下化するなど、5年間で4兆円かけ、ほぼ全都道府県で強靭化工事をする計画。周りが焼け野原になり、核で汚染され誰も住めなくなっても、戦争を続ける。もはや何が勝利かもわからない、恐ろしい世界に迷いこんでいます。
 この道が平和につながらないことは、中国やロシア、北朝鮮も核軍拡をすすめる悪循環が生まれていることに、はっきり示されています。石破首相はさらに、非核三原則の見直し、アメリカとの「核共有」も検討すべきだ、と主張する人物。だから核兵器禁止条約にも参加しない、日本被団協のノーベル平和賞受賞にも向き合えない矛盾に直面しているわけです。
 軍事力を持てば持つほど平和になるという幻想と狂気の発想から抜け出し、話し合いで問題を解決する理性の平和構築へ、転換が必要です。

仲間をひろげよう

 熊本・くわみず病院に近い陸上自衛隊健軍駐屯地でも、九州のミサイル部隊を統括する、敵基地攻撃の中心的司令部として、地下化がすすめられています。対して熊本民医連は、平和委員会も加わる「いのちネット」で反対運動をしています。もっと地域や職場に平和委員会をつくり、民医連職員にも仲間の輪をひろげたい。反対の世論をひろげていきましょう。
 11月16日には、日本平和大会(WEB)もあります。大会学習パンフレットでは、この大軍拡路線について詳しく解説しています。ぜひ活用してください。

いま、不必要な認識として

 幅ひろい人たちと危機感を共有するために重要なのは、何で、沖縄の人たちがあれだけ必死に、軍事要塞化に反対しているのか。その叫び声にちゃんと耳を傾けて、考えることが絶対に必要です。79年前の沖縄戦と同じ事態に、いざ戦争が始まったら置かれてしまう、切実な状況に直面している人たちがそこにいます。
 いま、真っ先に戦場になる沖縄・南西諸島の島々から住民と観光客、計12万人を、6日間で九州や山口県へ避難させる計画が立てられています。自衛隊は戦争をしていて使えず、民間の船舶や航空機を動員。政府は九州知事会などと協議し、人数を割り当て、受け入れ可能施設を調べ、要請をすすめようとしています。住民説明会では1人10kgまでの荷物にまとめることを求められました。
 鞄1つで避難させられ、どうやって生きていくのか。家や田畑、家畜を残し、島は戦争でめちゃめちゃに破壊されるのに、それに対する補償については何も語られません。沖縄本島の人びとは「屋内避難」だと言われています。
 こうした事実を知れば、認識はまったく変わってくるはずです。

郷土かがわを戦場にするな!
香川・高松港の「特定利用港湾」指定の撤回を

署名5221筆を提出

 10月7日、香川民医連も参加する「郷土かがわを戦場にするな!」県民連絡会(以下、会)が、高松港の「特定利用港湾」指定受け入れ撤回を求め、香川県庁を訪れました。会の呼びかけ人の一人、藤原高明さん(医師、香川・介護老人保健施設虹の里)らが、8月から始めた署名5221筆(ネット署名1912筆含む)を県知事あてに提出しました。
 要請には、県連事務局長の花谷忍さんを含む12人が参加。「特定利用港湾は軍事施設に位置づけられ、攻撃されても国際法上違法と言えない」「高松港が攻撃対象になることを県民に説明しないままの受け入れは許されない」と指定受け入れ撤回を求めました。
 地元テレビ局2社が取材し、当日夕方のニュースで報じました。

危険性が知られていない

 香川県、JR高松駅すぐそばにある高松港。穏やかな瀬戸内海に面し、瀬戸内の島々や中国地方、関西とを結ぶ、カラフルで大小さまざまなフェリーが行き交います。「散歩や釣りを楽しむ市民に親しまれ、特に休日は家族連れが多い。そんな港が…」。港をのぞみ、10月から香川民医連事務局長に就任した花谷さんは、危機感をあらわにします。
 3月26日、池田豊人県知事は議会に諮ることも、県民へのていねいな説明もなく突如、高松港の「特定利用港湾」指定受け入れを表明しました。2年前から地元の平和委員会が問題視し、昨年12月には反対申し入れしたにもかかわらず、強行されました。
 「まさか、こんなにあっさり受け入れるとは。このままではいかんと、高知の運動も参考に会を立ち上げた。危険性が知られていないことが、何より問題」と藤原さん。7月15日に日本平和委員会の千坂純さんを招き学習会を行い、会を結成。予想を上回る90人超が参加しました。

自分事として見る

 会のメンバーからは、自衛隊があの手この手で市民に近づき「免疫をつけている」との指摘も。広報目的の自衛隊艦船の高松港寄港は、これまでもありましたが、最近は防災訓練で装甲車を展示したり、オリンピック選手の凱旋(せん)パレードに自衛隊車両が使われていると言います。
 藤原さんは、「いまの大軍拡の動きを自分事として見てほしい。例えば、香川・善通寺診療所のそばには陸上自衛隊第14旅団がいて、有事にはターゲットになる。そうなれば私たちは医療を続けられるのか、地域住民、患者は、一体どうなるのか。沖縄のように息の長い運動で、危険性を知らせていく必要がある」と訴えます。
 香川ではひきつづき12月議会に向けて、署名を継続します。

(民医連新聞 第1817号 2024年11月4日号)

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