フードバンクから地域が見えてくる 和歌山民医連/和歌山中央医療生協
和歌山民医連と和歌山中央医療生協はコロナ禍以降、共催で「フードバンク&くらしのなんでも相談会」を実施しています。和歌山生協病院の駐車場でこれまでに8回開催し、のべ1822人が来場。衣類や生活必需品なども提供し、地域になくてはならないとりくみとなっています。(多田重正記者)
回を重ねるごとに増える来場者
きっかけは、コロナ禍で提起された全日本民医連の「いのちの相談所」大運動(2020年)。県民医連で「いのちの相談」専用電話を設置し、地元紙にも働きかけ、無料低額診療事業や相談活動の内容を周知しました。
第1回の「フードバンク&相談会」は、2021年8月。地域でチラシを配り、宣伝カーを走らせ、病院や診療所でも知らせました。
「困っている人はいるはず、と思って始めた」と話す長谷英史さん(和歌山生協病院、SW)ですが、実際にフードバンクに並ぶ人たちを初めて見た時は「びっくりした」とふり返ります。
第1回は54人が来場。第2回158人、第3回199人。地元企業の資金の協力も得て開いた第5回は270人。2023年5月の第6回は310人と、初めて300人を超えました。
第7回からは当日来られない人にも後日、物資を配達するなどして対応。和歌山中央医療生協まちづくり・組合員活動推進部の伊良部秀光さんは、普段からとりくんでいる組合員訪問で、生活保護利用者から「フードバンクに行きたかったが、足が悪くて行けなかった」と聞き、後日配達の対象に加えたエピソードも教えてくれました。組合員の働きかけで、第8回からは物資回収箱の設置など、連合自治会も協力しています。
真冬に上着の下は半そでだった母親
組合員の駒田晋さんはフードバンク&相談会の実行委員。フードバンクのたびに宣伝カーを運転し、育てた野菜も提供。要介護3の妻を介護し、自身も肺気腫を患う駒田さんですが、「私よりたいへんな人がまわりにおんねん」。家族の介護で仕事を続けるか悩む人。お金が理由で介護サービスを受けられない人。要介護状態ではない高齢者も「家族に迷惑かけたらあかんって小さくなって」と言います。
実行委員で組合員の福本喜菊(よしぎく)さんも、年末のフードバンクに来たふたりのことが忘れられません。
ひとりは「もう長いこと、餅食ってない」とこぼした高齢男性。
もうひとりは子ども2人と来たシングルマザー。「子どもたちの服を」と訪ねてきた彼女の上着の下は真冬なのに半そでで、福本さんはびっくり。大きなビニール袋を持ってきて「お母さんの分も好きなだけ持って行って」と声をかけると、とても喜んでくれました。
会場には困っていないように見える人も来ますが、「ごっつええ車で来て『車どうしたん?』って聞いたら『借りてきた』という人が何人もおる」と駒田さん。病院周辺は駅から距離があり、バス路線も縮小するなど、車は生活の足。世間体を気にして車とともに服を借りる人もいます。
継続的なつながりや資金相談体制など課題も
課題もあります。毎回、アンケートを実施し、連絡先を教えてくれた人には電話をかけ、困りごとを聞き、次回の開催を知らせたりしています。フードバンク当日は相談会もしていますが、「継続的なつながりには至っていない」と長谷さん。生活の困りごとを聞くシール投票を行って、対話のきっかけにするなど、試行錯誤しています。
会場で寄せられる相談も生活困窮だけでなく子育て、障害、夫婦関係、遺産など多岐にわたり、相談体制の拡充が必要。職員の参加増、物資や資金の確保、保管場所、物価高も悩みの種。「やっぱり自治体を動かさないと」と駒田さん。
「フードバンクで自分が変わった」
課題は多いものの、駒田さんも福本さんも笑顔です。
「フードバンクで自分が変わった。困っている人がたくさんいることが見えてきて『今まで自分は本当に世の中の動き、わかってたんかな』って思った。フードバンクは生協運動をしている自分にとって大切なとりくみ」と駒田さん。
福本さんも「『してあげてる』ではなく『させてもらっている』という気持ち。勉強になる」。
伊良部さんも「人に頼りにされる存在になれることが、自分の原動力」と語りました。
(民医連新聞 第1817号 2024年11月4日号)