連載 いまそこにあるケア 第12回 新たなケアの発生をともなう家族形成 文:河西 優
生活をともにする「家族」をもつことは、同時に、パートナーや子どもとの新たなケア関係が発生することでもあります。自分でつくる家族からは安心感を得られることもありますが、家族を中心にケアを担うこととされる社会では、子育て、パートナーのケア、年老いた親のケア、義理の家族のケアなど、ケアをめぐるさまざまな問題が発生することがあります。とくに、子ども・若者ケアラーの場合は、子ども・若者期からつづく親のケアに加えて子育てが重なるダブルケアや多重ケアに直面することがあります。また、ケアラー自身が子ども・若者期に十分にケアされてこなかったためにメンタルヘルスの問題を抱えている場合、子どもやパートナーからケアを受ける側になることもあります。
私は今年27歳ですが、30歳の節目が近づくにつれて、家族形成を含めた今後の生き方を考えることがあります。幼い頃、両親が別居し、私が小学校高学年の頃に母親は統合失調症になりました。学生時代は、母方の実家で祖父母や叔母、叔父と暮らしてきました。私は一人っ子のため、近い将来、病気の母親のケアに加えて、一人で暮らす70歳目前の父親、50代のシングルの叔母と叔父のケアという多重ケアを担う可能性があります。こうした将来の予測が、自分の家族形成に対する考え方にも影響しています。食べることはもちろん、多重ケアへの対応を見据えて、経済的な基盤の構築を第一優先にしているため、当面子どもをもつことは考えられません。またパートナーとの関係では、ケアをめぐる話が真面目にできるか、メンタルヘルスの問題に拒否反応がないことなど、相手のケアに対する精神や向き合い方に注目してきました。20代では介護や子育てなどのケアを経験したことがない人が多く、以前のパートナーとはケアを自分事として捉える点で温度差があり、いっしょにいられないと感じたこともありました。いまのパートナーとは、少なくとも互いの家庭やケアについて日頃から話し合える関係性ではあると感じています。
「家族」をめぐっては多様な選択肢が保障されるべきだと思います。将来のケアを見据えて家族形成を諦めたり、家族をもつことで新たなケア関係が発生し社会的不利を被ったりしないように、子ども期・若者期だけでなく、生涯続くケアをささえる仕組みづくりが必要ではないでしょうか。
かさいゆう:立命館大学人間科学研究所補助研究員/子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト発起人
(民医連新聞 第1813号 2024年9月16日号)
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