診察室から ある夫婦の話し合い
診察室ではなく、訪問診療場面での話です。Aさん夫婦に許しを得て記事にさせてもらいました。
少し前に、訪問診療を導入したAさんは、不全型の頸髄(けいずい)損傷に糖尿病を合併しています。膀胱(ぼうこう)障害と四肢不全まひのために排尿に介助が必要ですが、退院直後から夜間の排尿が多く、妻の負担が非常に大きいのが感じられました。
入院中から、安楽尿器の指導などを受けているのですが、こぼれて、おむつだけでなく寝衣・寝具を汚染します。また湿潤する皮膚にただれが生じてきています。
投薬調整とか、血糖コントロールとか、安楽尿器の指導や機種の見直しとか、私たち医師も、ケアマネジャー、訪問看護師も知恵を絞りますが、訪問のたびに妻の疲れが目立つようで、緊急SOSになるのではと危惧していました。
ある日の訪問の際、妻と本人の表情が少しすっきりしているように見えます。
「私たち話し合ったんです。このままじゃ共倒れねって」「それで決めごとをしたんです」「私(妻)は夜別室で就寝し、そのかわり3回排尿介助ないしはおむつ交換に来ます」「その間私(夫)は、妻を呼ばないで尿意があっても寝ていることにしました」「結果、二人とも気分が安定したんです」
すごいなあ。もちろん専門職からみて、いろいろ指摘できるかもしれませんが、ピンチに遭遇して、話し合いで当面の持続可能な具体的な打開策を決めていける、素敵な夫婦関係だなあ、と感心させられました。
ピンチの時ほど、人と人の間には葛藤が生まれやすくなり、情緒的になりすぎたり、逆に「こうあらねば」と、とらわれすぎたりしがちです。当面の持続可能性のための選択肢を話し合える二人に、学ばされた気がします。脆弱(ぜいじゃく)性に着目しがちな私たちの支援も、こうした強みにも着目できれば、と感じます。
自らの家庭の関係もそんな風にあれるだろうかと、思わずふり返ってしまいましたが。(小林充、京都民医連洛北診療所)
(民医連新聞 第1813号 2024年9月2日号)
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