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民医連新聞

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【新連載】38.漢方薬の副作用

 過去5年間(2011~2015年)に当副作用モニターに報告のあった漢方によるグレード2以上の副作用は96例、105件でした。偽アルドステロン症関連(偽アルドステロン症、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)48件、薬剤性肝機能障害23件、間質性肺炎10件、発疹・掻痒など21件、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)1件、アナフィラキシー1件、心不全急性増悪1件などでした。また、漢方薬としては、芍薬甘草湯32件、抑肝散16件(抑肝散加陳皮半夏3件)、小青竜湯7件、半夏瀉心湯6件、清肺湯、補中益気湯各5件でした。年代別では、90歳代10例、80歳代35例、70歳代36例、60歳代21例、50歳代13例、40歳代1例、30歳代5例、20歳代1例と70歳、80歳代に多く見られました。また、飲み方として1日3回73件、1日2回34件、1日1回13件と1日3回で用量を多く服用している例が多く見られました。

◆甘草含有漢方薬製剤の偽アルドステロン症に注意

( )内は1日投与量に使用されている甘草の量

 当モニターに寄せられた過去5年間(2011~2015年)の漢方によるグレード2以上の副作用のうち、偽アルドステロン症もしくはそれが疑われるものは48件で、内訳は偽アルドステロン症6件、血圧上昇8件、低カリウム血症27件、浮腫7件と低カリウム血症が最も多くみられました。これらの被偽薬の漢方製剤は全て甘草含有のもので、芍薬甘草湯(甘草6.0g グリチルリチン240mg)が24件と半分を占めており、続いて抑肝散(甘草1.5g)9件、小青竜湯(甘草3.0g)4件、その他9種類で各1~2件でした。偽アルドステロン症と血圧上昇に関しては1例以外芍薬甘草湯が被疑薬となっており、低カリウム血症に関しては、芍薬甘草湯8件、抑肝散9件その他は8製剤が各1~2件、浮腫に関しては芍薬甘草湯が4件と、小青竜湯2件、抑肝散加陳皮半夏(甘草1.5g)1件でした。

重篤副作用疾患マニュアルよる偽アルドステロン症の解説

 「偽アルドステロン症とは、低カリウムを伴う高血圧を示し、低カリウム血清ミオパチーによると思われる四肢の脱力と、血圧上昇による頭重感等が主な症状です。初期症状としては、手足のしびれ、つっぱり感、こわばりで徐々に進行する四肢の脱力や筋肉痛に注意が必要で、その他全身倦怠感、浮腫、口渇、食思不振等と症状が見られます。」
 甘草の機序としては、甘草の主成分であるグルチルリチン酸がコルチゾールをコルチゾンに変換する酵素を阻害し、コルチゾールが過剰となり、ミネラルコルチコイド作用を発揮することにより生じます。
 尿細管のミネラルコルチコイド受容体に作用してナトリウムの再吸収を促進させカリウムの排泄を増やすため、低カリウム血症を生じやすくなると考えられています。偽アルドステロン症では、低カリウム血症や高血圧の症状を呈します。
 発現期間としては、3カ月以内に発症したものが約4割を占め、女性(男性の2倍)や低身長・低体重で体表面積の小さい人、高齢者に生じやすく、利尿剤やインスリン使用患者では低カリウム血症を起こしやすく、重篤化しやすいので注意が必要です。

抑肝散による低カリウム血症

 甘草による低カリウム血症は、含有するグリチルリチンがコルチゾールを変換する酵素を阻害し、増加したコルチゾールが尿細管の受容体に作用してナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進するためといわれています。甘草1g中に含まれるグリチルリチンは約40mg(実際は20mg位らしい)で、1日の上限値はグリチルリチン300mg(甘草として7.5g)とされています。

 ツムラでは、添付文書に示されている「漢方に含まれる混合生薬の乾燥エキス」の中で甘草が2.5gを超える製剤12品目は、使用上の注意で「低カリウム血症に禁忌」としています(グリチルリチン注射剤での上限がグリチルリチンとして100mgのため)。

 当モニターへの過去5年間(2011~2015年)での報告では、低カリウム血症は抑肝散9件、芍薬甘草9件、他7製剤各1~2件で発現しており、そのほとんどは抑肝散と芍薬甘草湯が占めています。

 抑肝散はグルタミン酸系やセロトニン系などの神経伝達に対する調整作用が示唆されており、現在、認知症の周辺症状である幻覚や妄想、焦燥感などに、神経興奮を抑制する目的で多く処方されています。また、配合生薬の釣藤鈎には、アルツハイマー病における神経細胞死の原因と考えられている、アミロイド蛋白の凝集抑制作用も示唆されています。 必然的に対象患者が高齢者となり、低体重の患者に1日3回漫然と投与されることも多く見受けられます。また、在宅患者では定期的な採血が行なわれていないケースも多く低カリウム血症に気付きにくい点にも注意が必要です。定期的にカリウムチェックを行ない、症状に応じて必要最低限の量で投与していくことが望ましいと思われます

症例)70代左視床出血にて入院。抑肝散7.5g分3で開始となる。5g分2に減量。服用開始3か月後に下痢、嘔吐、全身の痛みあり低カリウム血症と横紋筋融解症の診断。カリウム1.1まで低下するもカリウム製剤注射、経口にてカリウム補給し改善。

 本例では、低カリウム血症から横紋筋融解症にまで至ってしまいました。抑肝散内服に加えて下痢、嘔吐などもあったことから低カリウムを助長したと考えられます。このように他に低カリウム血症を来す要因が重なった場合など、低カリウム血症の進行に伴い筋脱力による転倒、致死性不整脈や横紋筋融解症にまで至る例もある事から注意が必要です。

症例)90代 女性 144cm 41kg 慢性心不全 狭心症、洞不全症候群あり。フロセミド、エナラプリル、スピロノラクトンなどの併用あり。認知機能低下による不穏に対して抑肝散7.5g分3で服用開始。2か月後、カリウム2.5と低カリウム血症認め、心不全増悪あり。経口利尿剤、抑肝散等すべて中止し、ソルダクトン注、サムスカ、ハンプ、ステロイドミニパルス等の治療にて改善。

 ベースに心疾患があり、高齢、低体重、利尿剤の併用もあり、抑肝散追加にて心不全増悪となりました。このようにリスク因子が重なっている患者への投与ではより一層注意が必要です。

 生薬組成だけをみると、原因とされる「甘草」は、芍薬甘草湯が6g配合に対し、抑肝散は1.5gの配合であり、比較的少ないと言えます。しかし、患者さんが高齢、低体重、服用が長期にわたる場合は、定期的な検査値のチェック、手足のしびれや脱力感、筋肉痛などに注意が必要です。

グリチルリチン製剤の重複投与に注意を
 甘草などのグリチルリチン製剤は多くの医療用及び一般用医薬品や、甘味料として食品やタバコなど非常に広く利用されており、1日の摂取量を把握しにくいといわれます。また、医薬品の中でも特に漢方薬、胃腸薬などで甘草含有に気づかないまま長期投与されるケースが多いことが以前から問題視されてきました。

症例 80代 172cm 41kg男性 慢性閉塞性肺疾患に対して清肺湯服用中。夜間せん妄に対して抑肝散処方。服用6日目 カリウム3.1 12日目 カリウム2.8 と低カリウム血症認めたため漢方薬を中止しグルコン酸カリウム服用3日でカリウム3.6まで上昇。

 今回の症例では高齢、低体重で、抑肝散(甘草1.5g)、清肺湯(甘草1g)を併用(計グリチルリチン240mg)していました。 このように漢方薬を2種類さらにはもっと多く併用している例も見られます。
 過去には偽アルドステロン症による低カリウム血症が原因となり、心室性不整脈や意識障害、ジギタリス製剤併用による心不全死亡例も報告されています。
 現在、グリチルリチン製剤による偽アルドステロン症については広く知られていますが、実際にはその危険性に対する認識不足などから未だ重篤化する例が後を絶ちません。
 重篤化を防ぐためにも、薬局からの積極的な情報提供を通じて医師や患者の認識を高め、必要な検査を実施するなどモニターをお願いしたいものです。
 また、漢方薬の処方の7割が甘草を含有します。必ず含有量を確認し、特に甘草湯(8g)や芍薬甘草湯(6g)、甘麦大棗湯(5g)など含有量の多いものは記憶しておく必要があります。

こむら返りに対する芍薬甘草湯の適正使用 副作用モニター情報<293>

 過去5年(2011~2015年)の漢方による副作用の被疑薬として最も多く見られたのは芍薬甘草湯でした。「こむら返り」は、筋肉に発生する強直性けいれんで、就寝中の発汗による水分喪失やミネラル不足で生じるといわれています。芍薬甘草湯は、芍薬に含まれるペオニフロリンのカルシウムイオンの細胞内流入抑制作用と甘草に含まれるグリチルリチン酸のK+(カリウム)イオン流失促進作用による筋弛緩作用が、予防効果と頓服での即効的な効果(疼痛消失まで約3分)を示し繁用されています。 

【症例】60代後半・女性、合併症に心疾患があり、フロセミド、スピロノラクトン、ジゴキシン、ワーファリンなど服用中。「こむら返り」にツムラ芍薬甘草湯7.5g(分3)連日の処方で、服用20日後の来局時、浮腫・体重増加(3週間で3㎏増)を訴え、水分貯留を疑い被疑薬を中止した。中止後、体重は4㎏減少し元に戻った。

 この報告は、高齢者で心疾患があり、利尿薬やジゴキシン、ワーファリンを内服中の患者に対しては、7.5gの連日処方は明らかに過量であり、心不全の悪化や低カリウム血症による不整脈を誘発しやすいハイリスクな状態だったと思われます。
 こむら返りに芍薬甘草湯を処方する場合、1日1回量を就寝前に投与するか、頓用で処方するなど必要最小限にすべきです。とくに高齢者などリスク因子のある場合は注意しましょう。           

(民医連新聞 第1434号 2008年8月18日)

◆漢方による薬剤性肝機能障害

 当モニターに報告のあった漢方による薬剤性肝障害は過去5年間(2011~2015年)で23件。原因となる漢方薬は18製剤。5製剤で各2例、その他13製剤で各1例の報告でした。重篤副作用マニュアルでは、小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯の順に肝障害が多く出るとされていますが、過去5年で小柴胡湯1件の報告はありますが、柴苓湯、葛根湯では報告がありませんでした。肝障害においてはどの薬剤でも注意が必要です。また、防風通聖散としては肝障害の報告は過去5年では1件でしたが、防風通聖散と同じ生薬が配合されている市販薬のナイシトールで2件の報告がありました。

 漢方薬による薬剤性肝障害の原因生薬として黄芩が知られていますが、リンパ球幼若化試験(DLST)では柴胡、半夏、人参、沢瀉、生姜、甘草も原因生薬とされており含有する漢方薬では特に注意が必要です。

副作用モニター情報<338>市販薬ナイシトール85(=防風通聖散)による薬剤性肝障害

【症例】60代女性。脂質異常症、骨粗鬆症で、プラバスタチン、アクトネルを2年ほど処方され、サプリメント としてビタミンC、コラーゲンを7~8年服用している患者。市販薬のナイシトール85を3カ月ほど内服したところ、AST352、LDH340に上昇。薬剤性肝障害が疑われ全薬剤中止となった。中止後、ASTは改善し、3カ月後にプラバスタチン、アクトネルを再開した。

 ナイシトール85は、テレビのCMなどで腹部の皮下脂肪の分解・燃焼をうたい、売り上げを伸ばしています。その成分は医療用漢方薬の「防風通聖散」と同一で、1日量(10錠)と防風通聖散エキス顆粒2.5g(1包)がほぼ同量です。現在では、ナイシトールG(1日量12錠 防風通聖散エキス顆粒3.1gと同量)、ナイシトールZ(1日量15錠 防風通聖散エキス顆粒5.0gと同量)とより生薬量の多いものも発売されています。
 防風通聖散には、黄芩(おうごん)のほか、甘草、大黄、麻黄などが配合され、これらの成分は注意が必要な生薬です。(肝機能障害がでやすいのは黄芩、甘草、生姜)重篤な副作用に間質性肺炎、偽アルドステロン症・ミオパチー、肝機能障害があります。
 現在(2016年6月時点)全日本民医連の副作用モニターには、医療用「防風通聖散」を被疑薬とする報告が13件登録されており、そのうち肝障害・肝機能異常が5件と、約半数を占めています。そのほか、下痢、発疹各2件、間質性肺炎、胃部不快感、ふらつき、気分不良が各1件でした。厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアルには、漢方薬による薬剤性肝障害について 「一般に、発症までの期間は1カ月以内が44%、3カ月以上が29%と、やや長い症例がある。初発症状は、黄疸、全身倦怠感、腹部症状などであるが、アレルギー症状や白血球・好酸球の増多を伴う者は少ない」と記載されています。
 「メタボブーム」の中で、関連する薬効をうたった薬剤の使用者数が、医療用・市販薬ともに増加しています。とくに、漢方製剤の市販薬は「第2類」に分類 され、登録販売者のいる店舗であればどこでも手に入るうえ、30種類を超える商品があります。中には、名称が「ナイシトール85」のように、「防風通聖散」とすぐにわからないものもあります。
 医療機関などでは服用薬を聞き取った際には成分までしっかり確認をすることが重要です。

(民医連新聞 第1483号 2010年9月6日)

◆漢方薬による薬剤性間質性肺炎 副作用モニター情報<164>

 当モニターに寄せられた過去5年間(2011~2015年)のグレード2、3の漢方薬の副作用のうち、間質性肺炎の件数は10件でした。

症例)70代 女性147.5cm、46.3kg 腹部膨満感があり大建中湯15g分3 7日分処方されたが、自己調節により実際は7.5g分3で服用。2か月後夜中に胸が締め付けられるような感覚で目が覚め呼吸苦あり。服用開始1か月半頃から体動時の呼吸苦があり休むと改善。大建中湯服用で調子悪化する感じがあったため一旦中止。SpO2:93%、CXRにて両肺野にびまん肺湿潤影(右優位)KL-6:6672抗菌薬抵抗性で基質化肺炎を認めた。DLST大建中湯陽性 ステロイドパルスにて症状改善。

 間質性肺炎を引き起こす機序としては、まだ不明な点が多くありますが、薬剤の細胞毒性によるものと、アレルギー反応によるものが考えられています。前者には抗癌剤、免疫抑制剤があり、細胞に直接障害を起こし、間質の炎症、繊維化を起こすと考えられています。また、アレルギー反応によるものは、薬剤もしくはその代謝物が免疫細胞を刺激することで起こるとされています。薬剤には抗生物質、抗不整脈、漢方薬が挙げられます。漢方特有の薬剤性肺障害の発生機序の報告はありません。画像的な特徴などもないようで、肺胞や間質にみられる病変が多く見られますがその他の報告もあるようです。
 以前より、漢方薬による間質性肺炎は注意喚起されており、DLSTより黄芩、半夏が原因生薬としてあげられてきました。今回の10件のうち黄芩もしくは半夏(もしくは両方)を含む漢方を服用していたのは6件(乙字湯、麦門冬湯、半夏瀉心湯、防風通聖散各1例、潤腸湯2例)で、黄芩、半夏を含まない漢方は4件(牛車腎気丸、大建中湯、清肺湯、当帰芍薬散各1例)でした。現在では黄芩や半夏を含まない漢方薬でも間質性肺炎の報告は多くされており、黄芩や半夏を含む、含まないに関わらず注意が必要です。年齢は、50代1例、60歳代3例、70歳代5例、80歳代1例と60歳、70歳代が多く用量に関しては6g/日以上服用で多くは7.5g/日服用している例でした。男女差はなく、薬剤性の間質性肺炎ではベースに肺疾患がある事がリスク因子となるようですが、今回の症例では気管支炎の患者が1件のみでした。また、HCV感染そのものが間質性肺炎の発症・増悪に関与している可能性があり、HCV抗体の陽性率が高い可能性があるようですが、HCV陽性患者はいませんでした。服用2~3ヶ月で見られることが多く、咳、呼吸困難、発熱などの症状には注意が必要です。

◆山梔子(サンシシ)含有漢方製剤の長期投与に伴う腸間膜静脈硬化症 副作用モニター情報<464>

 山梔子含有漢方製剤の黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)による腸間膜静脈硬化症の報告がありました。黄連解毒湯は、体力中等度以上で、のぼせぎみで顔色が赤っぽく、いらいらする傾向がある人の胃炎、二日酔い、不眠症、神経症などに用いられます。

症例)精神不安定のため、少なくとも7年以上前から黄連解毒湯を服用していた患者。3年ほど下痢症状が時おり現れ、そのつど、整腸剤や下痢止めを処方していた。便潜血検査で陽性、大腸内視鏡検査で盲腸から上位結腸に暗紫状粘膜、静脈拡張を認め、腸間膜静脈硬化症の疑いで黄連解毒湯を中止。1カ月後に治癒を確認、その後は症状無し。

* *

 腸間膜静脈硬化症は、大腸壁内から腸間膜の静脈に石灰化が生じ、血流が阻害されることで腸管が慢性的に虚血状態になる疾患です。症状は、右側腹痛、下痢、悪心・嘔吐や便潜血陽性(無症状)があり、重いものでは腸閉塞(イレウス)もあります。
 原因は、山梔子の生薬成分であるゲニポシドだとみられています。大腸の腸内細菌がゲニポシドを加水分解し、ゲニピンを生成。ゲニピンが大腸から吸収され腸間膜を通って肝臓に到達する間にアミノ酸やたんぱく質と反応し血流をうっ滞させ、腸管壁の浮腫、線維化、石灰化、腸管狭窄を起こすと考えられています。
 2013年に厚生労働科学研究が全国調査の結果を報告し、腸間膜静脈硬化症患者の8割以上が山梔子含有漢方薬を服用し、その内9割以上で服用期間が5年以上だったことを明らかにしています。
 2013年と14年には「使用上の注意」の改訂指示が出されました。現在、山梔子を含有する製剤で腸間膜静脈硬化症が「重大な副作用」に記載されているのは、加味逍遥散(カミショウヨウサン)、黄連解毒湯、辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)、茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)です。
 山梔子を含有する漢方製剤はこの4種以外にもあります。それらを5年以上長期投与している患者が、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感、嘔気・嘔吐等を繰り返す、または便潜血陽性になった場合は投与を中止し、CT、大腸内視鏡などの検査を行い適切に処置することが必要です。漫然とした長期処方は見直し、継続する場合は1~2年に1度程度の定期的な大腸内視鏡検査を実施してください。

(民医連新聞 第1626号 2016年8月15日)

副作用モニター情報<616> 漢方薬の長期投与には定期的に効果判定を

 漢方薬は、自然界にある植物などの生薬を、原則として複数組み合わせてつくられた薬です。有効な成分を選んで用いる西洋薬と違い、1つの生薬に複数の有効成分が含まれ、さらにその生薬の組み合わせである漢方エキス製剤は、多種多様な成分が少量ずつ複合的に作用するという特性があります。1967年から保険収載され、医師の処方により多く使用されるようになりました。一方で、保険上の適応病名と本来の漢方薬の適応との間で齟齬(そご)が生じている実態は放置されたままです。
 今回は、効果がはっきりしないまま服用を5年継続し、中止したことで症状が改善した症例を紹介します。

症例)80代 女性
 主訴:食欲不振
 吐き気あり、ランソプラゾール15mg開始。7カ月後、効果なく、タケキャブに変更。
 食欲なくツムラ補中益気湯追加。改善なく、口のなかが苦いとの訴えでツムラ六君子湯に変更。吐き気に対しメトクロプラミド追加するも、食欲不振と悪心継続。補中益気湯と六君子湯の変更をくり返すが、症状改善せず。
 5年間、漢方薬、胃酸分泌抑制剤を継続していたが、思い切ってやめてみたら、食欲回復、おいしさを感じるようになってきた。メトクロプラミドも減量を経て中止。
 漢方薬による副作用と判断された。

* * *

 今回の六君子湯と補中益気湯は適応病名が違うので併用が可能と思われがちですが、6種類の生薬が重複しています。また六君子湯と補中益気湯は構成生薬に「朮(じゅつ)」が含まれますが、蒼朮(そうじゅつ)を使用しているメーカー(ツムラなど)と白朮(びゃくじゅつ)を使用しているメーカーがあります。漢方の原典である神農本草経にこの区別がないためです。白朮は虚証を対象としますが、蒼朮は実証を対象とするため、効果の切れ味はよくなる半面、漫然と投与すると副作用が現れる恐れがあります。
 漢方薬の効果判定は、急性症状であれば数時間~数日以内、慢性の病態であれば2~4週間程度で行います。もし、効果が感じられない場合には中止してみることが肝要です。

(民医連新聞 第1807号 2024年6月3日号)

■画像提供 山梨民医連
http://www.yamanashi-min.jp/2016_yakuzaishi-bosyu/HTML5/pc.html#/page/1

■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
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■薬学生の部屋
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**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>

*タイトルをクリックすると記事に飛びます
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)

■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28