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民医連新聞

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猛暑から守れ! 患者・利用者そして職員を 長野県民医連 医活部 熱中症実態調査

 長野県民医連の医療活動部(以下、医活部)は昨年度から、熱中症実態調査を始めました。比較的涼しいと考えられてきた地域でも近年、熱中症への厳重警戒や避難が呼びかけられます。でも、どこへ? どうやって? 患者・利用者の在宅生活をささえる訪問サービスの職員の危機感は高まっています。7月25日、とりくみのきっかけをつくった上伊那医療生協(箕輪(みのわ)町をはじめ2市3町3村をカバー)で、今年度の調査に同行しました。(丸山いぶき記者)

 「おはようございます」
 午前10時半、日差しが注ぐ東向きの窓を開け放ち、窓辺のベッド上から笑顔をのぞかせるAさん(79歳男性)に、訪問看護ステーションみどりの木下夏未さん(看護師)が声をかけます。
 アパート1階、6畳ほどのAさんの居室に入ると、室温28・6度、湿度67%、エアコンはありません。独居で生活保護を利用。風は通るものの「おとといは暑くて頭が痛かった。暑い時は(ベッド上が)40度くらいになるからトイレに避難する」とAさん。木下さんの表情がこわばります。
 訪問看護業務に加え熱中症対策を念入りに確認し、「異変を感じたらすぐに緊急電話にかけて」と、何度も声をかけました。
 「先週エアコンがついた。これでかあさん(妻)も安心だ」と話すのは、十数年、妻(69歳)を介護するBさん(81歳男性)。老老介護の2人暮らし世帯です。昨年夏のある朝、Bさんは脱水症状で立ち上がれず、廊下をはって電話で助けを求めたといいます。
 この30年で、長野市の8月の最高気温平均値は2・5度上昇(気象庁データベースより医活部が推計)。Aさんが言う7月23日は、箕輪町でも猛暑日(気温35度以上)に迫る暑さでした。
 一方、昨年8月に実施した調査(県連加盟の在宅看護・介護事業所の利用者宅241件の結果)では、エアコンがない世帯は38・2%。訪問時に使用していなかった世帯を合わせ、54%が適切にエアコンを使えていませんでした()。これらの平均室温は約29・5度、平均湿度は約60%。エアコンの使用有無で室温、湿度に有意な差がありました。

訪問の職員が訴える実態から

 「夏でも、ストーブや電気毛布が使われている」「扇風機嫌いの人も多く、帰り際に『消してってくれやい』と言う人もいる」。生協ヘルパーステーションみどりの登録ヘルパーからも、高齢の利用者宅の危険な実態が語られます。そんなヘルパーも平均年齢63歳。32人で広域の利用者230人の在宅生活をささえており、「入浴介助は滝のような汗。マスクが張りつき息ができない」「首を冷やすグッズも効果が続かない」「エアコンが効く事業所内との気温差に体力を削られる」といいます。
 「熱中症調査は、コロナ禍の訪問サービスの職員のそうした訴えがきっかけだった」。そう話すのは、上伊那医療生協の専務理事、小山奈緒さん。長年調査する大阪民医連のとりくみも参考に、2022年、前記各事業所が入る生協総合ケアセンターみのわ単独で熱中症調査を実施。小山さんが部員(当時)として経験を紹介したことから、医活部の調査に発展しました。

幅ひろい問題を可視化

 調査票には患者・利用者の基本情報や居室の状況、温度、湿度に加え、ケア内容、今年から訪問終了後出発前の訪問車内の温度も記します。目的は、猛暑のなか在宅で生活する患者・利用者の状況と、訪問サービスの職員の労働実態を明らかにして公表し、制度改善運動につなげること。自治体キャラバンの要請、まちづくりや労働安全衛生、職員育成につなげていくことも見据えています。
 「県連全体で」と後押ししたのは、医活部部長の番場誉(ほまれ)さん(長野中央病院・医師)。「すべての家が電気代を気にせずエアコンを使える、もう後戻りを考えなくてよい変化を起こしたい。住環境も基本的人権。長野でも退院時に『エアコンある?』と、患者背景から捉える視点を育みたい」と語ります。鮎澤ゆかりさん(上伊那生協病院・SW)は、すべての生活保護利用者にエアコン購入費用を保障することや、夏季加算の必要性を訴えます。「ここ2~3カ月、月2回の食料支援でも間に合わず、追加の相談が増えている」と、物価高騰などの影響の深刻さも指摘。「生活苦やさまざまな困難は、職員もみんなが当事者、という意識が必要」と話します。
 上伊那医療生協では7~8月、訪問の職員に猛暑水分補給手当(1日150円)を支給しています。小山さんは言います。「この調査は民医連だからできた。調査からいろんなことが見えてくる。根本的に暮らしを良くして、医療・福祉に余裕がなければ、熱中症にも策を打てない。対策費へ自治体の補助も必要。地域の社会資源はひとつもつぶしてはならない」。

(民医連新聞 第1812号 2024年8月19日号)