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民医連新聞

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診察室から 「酒か、いのちか」決めた患者の人生に向き合う

 消化器外来を担当していると、かならず肝障害という病名でアルコール関連の問題を抱える患者が受診します。アルコール依存症は精神科・家族の病気で、内科受診段階で治療するのは難しいことがほとんど。さまざまな問題を家族背景に抱えていることも多く、可能ならアルコール専門病院につなぎますが、受容が困難な場合は内科外来で対応せざるを得ません。
 診察室で付き添いの家族から「先生からお酒をやめるよう強く言ってください」と頼まれることもよくありましたが、そんなことでやめるわけもなく、ここ30年以上患者に「酒をやめなさい」と言ったことがありません。アルコールによる有害事象を画像・検査結果などを示してていねいに説明し、最後に「酒を選ぶか、いのちをとるか、2つに1つ。決めるのはあなた自身」と話しています。
 10年以上にわたり、アルコール依存症で肝硬変の50代の男性を担当しました。有数の進学校から慶応大学を卒業した公認会計士。本人いわく、酒と女に溺れて妻とは離婚し、娘は千葉在住で、一人暮らしとなっていました。腹水・黄疸(おうだん)で2回入院歴がある非代償期の肝硬変で、入院時には死亡寸前まで悪化。なんとか回復し退院後は腹水・黄疸が常在した状態で外来通院。5年ほどは禁酒し安定した時期もありましたが、最後は少しずつ飲酒が再開し、黄疸が進行していきました。診察室でいよいよ、最後の時が迫ってきたと率直に話したところ、12月下旬の受診時に「先生、職業柄もういつ死んでもいいようにすべての準備が終わりました」と晴れ晴れとした表情。正月休みが明けてすぐ、自宅で死亡しているところを発見されました。部屋には酒の空き瓶が多数あったとのこと。そのことを知ったとき、この人は最後に酒を選んだんだなあと納得しました。昨年のことでした。
 酒をやめさせて健康な生活に戻すのが医師だと怒られそうですが、私は今後もさまざまな背景を抱えた目の前の患者の人生に向き合っていきます。(山本博、東京・大田病院附属大森中診療所)

(民医連新聞 第1810号 2024年7月15日号)