連載 いまそこにあるケア 第8回 親が悪い?―ヤングケアラー支援の落とし穴 文:湯谷菜王子
2023年10月、埼玉県で小学生の子どもを家に放置することを禁じる虐待禁止条例の改正案が、県議会の福祉保健医療委員会で採決され大きな波紋を生みました。条例改正案を提出した自民党県議団の想定では、短時間でも子どもを家に留守番させること(買い物やごみ捨ての間でも、高校生のきょうだいに子どもを預けても)、子どもを一人で外出させること(登校やお使いでも、子ども同士を公園で遊ばせることも)、が禁止事項としてあげられました。これに対し、市民から非常に多くの反対意見が出され、4日後の委員会で改正案は撤回されました。子育て世帯からは「共働きでないと家計が成り立たないのに」「習い事の送迎できょうだいを留守番させることもある」「一生懸命やっている子育てが虐待と言われ、とてもショック」などの声がありました。また反対する議員からは「放課後児童クラブの待機児童も多いなか、子どもの預け先がない親をさらに追い詰めることになる」との意見が出されました。意見書を提出したさいたま市のPTA協議会も、「子育てに関する責任を親だけに押し付けるような条例だと感じる。子育て支援を充実させるという社会の流れと逆行している」とコメントしました。
ヤングケアラーがいち早く社会問題化したイギリスでは、以前から「ヤングケアラーの概念によって『不十分な親』が名指しされる危険性がある」という専門家の指摘がありました。日本でもそれに近しい現象が、さまざまなところで生じているのではないでしょうか。「自分の子どもをヤングケアラーにしたくない(だから無理をしてでもがんばる)」という親や、「ヤングケアラー相談のパンフレットを家に置いていたら、親を傷つけるかもしれない(だから相談しにくい)」という若者の語りがあります。
少子高齢化、非婚・晩婚化、離婚率の上昇など、家族のあり方が非常に多様になってきた今日です。もう、「ケアの責任が家族にある」という前提での社会の仕組みでは、家族は立ち行かなくなっています。ケアの責任を家族に押し付けることなく、十分にケアがまかなわれる社会の整備が必要です。ヤングケアラー本人だけではなく、それにかかわるすべての家族に目を向けることが、支援者にとって必要なことなのではないでしょうか。
ゆたになおこ:大学院生(立命館大学社会学研究科 博士後期課程)
(民医連新聞 第1810号 2024年7月15日号)
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