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民医連新聞

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水俣病問題解決に向けて今こそ国を動かすとき

こたえる人
熊本・はみんぐ法律事務所
弁護士 中島 潤史さん

 各地でノーモア・ミナマタ第2次訴訟がたたかわれています。これまでの判決の特徴と問題、解決に向けた今後のとりくみについて、弁護士の中島潤史さんの解説です。

訴訟の概要
 ノーモア・ミナマタ第2次訴訟は、水俣病患者が、原因企業であるチッソ、国、熊本県に対して、患者一人あたり450万円の損害賠償を求める裁判です。2013年6月20日に熊本地方裁判所に第一陣を提訴し、大阪地裁、東京地裁にも提訴。新潟地裁でも、新潟水俣病患者による同様の訴訟が行われ、原告数は合計1700人を超えました。
 昨年9月27日の大阪地裁判決では128人の原告全員を水俣病と認めて全員勝訴、本年3月22日の熊本地裁判決では144人中25人を水俣病と認めたものの除斥期間を適用して全員敗訴、4月18日の新潟地裁判決では訴訟中に行政認定された2人を除く45人中26人が水俣病と認められ原因企業に勝訴。いずれも控訴で高裁に審理が移行しています。
判断枠組み
 裁判では水俣病か否かを決める判断枠組みが争われています。
 私たちは、疫学研究を含むこれまでの水俣病研究の結果から、(1)メチル水銀曝露歴があり、(2)四肢末梢優位または全身性の表在感覚障害が認められれば、水俣病であると主張しています。これに対して国側は、「水俣病の症状の範囲」のなかに原告らの症状が入るか否か、という判断方法を主張しています。
 大阪判決は水俣病の疫学研究を高く評価し、私たちの判断枠組みをほぼ採用しました。これに対し、熊本判決と新潟判決は疫学研究を低く評価して、曝露終了後10年程度以内の発症を条件の1つとしました。
メチル水銀曝露
 不知火(しらぬい)海沿岸地域では、民医連の医師らによる血のにじむような地道な検診活動によって、今まで水俣病患者がいないとされてきた地域でも多数の患者がいることがわかってきました。原告の多くは、こうした地域で魚介類を日常的に食べてきた人たちです。
 国側は、高度に汚染された魚介類を大量に摂取しなければ水俣病は発症しないとして、原告らのメチル水銀曝露を争っています。
 大阪判決と熊本判決は基本的に私たちの主張を認め、原告らのメチル水銀曝露をほぼ認めました。新潟判決も同様です。
共通診断書の信用性
 原告らは症状を証明する証拠として、共通診断書を裁判所に提出しています。そこに記載された表在感覚障害などの医師の所見が信用できるかが争われています。
 国側は、感覚検査は患者の主観的な応答で判断する難しい検査の1つであり、共通診断書の方法では正確な所見が取れないと主張しています。
 大阪判決は、共通診断書を高く評価して所見の信用性を認めました。これに対し、熊本判決と新潟判決は、一般的な検査方法と異なるなどの理由で所見の信用性を認めず、公害健康被害の補償等に関する法律(公健法)上の認定申請時に行われる国側の検査結果(公的検診録)がある原告についてはそれで判断し、それがない者はそれだけで敗訴させました。
除斥期間
 除斥期間は、20年間権利行使しないと権利が消滅するという民法上の制度です。私たちは、本件では正義公平の観点から除斥期間は適用すべきでないが、仮に適用するとしても、起算点は水俣病と診断された時と主張しています。
 大阪判決は起算点を診断時とし、除斥期間は経過していないとしました。熊本判決は起算点を発症時とし、水俣病と認めた25人全員に除斥期間を適用して敗訴させました。新潟判決は起算点を発症時としましたが、正義公平の観点から除斥期間の適用を制限して、水俣病と認めた26人全員に除斥期間を適用しませんでした。
水俣病は終わっていない
 3つの判決は、いずれも多数の水俣病患者が放置されている現実を明らかにした点で一致しています。判決が出そろった今こそ、国を解決交渉のテーブルに着かせる時です。そのために必要なのは解決を求める世論の声です。
 今般の環境省による「マイク切り」問題に端を発して、多くの人びとが水俣病問題に関心を寄せています。水俣病問題が終わっていないことをSNSなどで情報発信し、解決の必要性を世の中に伝えてほしいと思います。

(民医連新聞 第1809号 2024年7月1日号)