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民医連新聞

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診察室から 高齢者の口腔(こうくう)がんに遭遇して

 歯科医師として47年、これまで口腔がんを診断したのは10数例ありますが、すべて治療をしてもらいました。
 今回の症例は93歳男性。通常の歯科治療のなかで歯肉の病変に気づき、生体検査の結果、扁平(へんぺい)上皮がんでした。医大の口腔外科に紹介。高齢であることで放射線治療を10回行う方針が提案され、家族と相談した結果、治療しないことになりました。治療費の問題もありましたが、最大の問題は通院方法でした。
 家族の協力が得られず、少し足が不自由なので、バスや電車は使えません。タクシーを使うしかないと、往復1万円、10回の通院で10万円が必要となり、治療を断念することになったのです。
 その患者さんは、当歯科には友の会のバスで通院していました。がんは日々増大して気になるので、「治療できないか」と話が出るたびたび、社会の貧困を考えてしまいます。
 年金生活で余裕はなく、若い世代は非正規で親をささえられない時代に、医療・介護は公的責任が後退し、自己責任が強調され、国民の負担は増える一方です。さらに高齢者は、車の免許を返納し、公共交通機関がなくなり孤立することになります。
 今後の対応を医科・歯科・介護が連携して、最後まで見守りたいと思います。
 私たちは、病院や介護施設で入所者のスクリーニングを行っています。しかし、持病の発症から歯科受診する機会を長期に得られず、歯はむし歯で歯頚部から破壊され歯根のみが残り、口腔機能は破壊された状態の人もいます。口腔の状態が悪く治療やケアが必要でも、家族と相談すると、治療しなくて良いか、必要最低限の治療のみの希望が多く、高齢者を取り巻く情勢はますます悪化しています。
 戦争ができる国づくりではなく、平和でいのちと暮らしを守る国づくりをしたいと決意しています。
 (梅北和一、山梨・御坂共立歯科診療所、歯科医師)

(民医連新聞 第1808号 2024年6月17日号)