外国籍住民のいのちを守れ 人権としての社会保障実現へ
埼玉民医連SW部会は、制度的保障がないなか、地域で急増するクルド人(※1)住民の健康権を守ろうと奮闘しています。一方、改悪入管法の施行が6月に迫り、さらなる改悪もねらわれています(※2)。在留外国人(移民・難民)のいのちと健康を脅かし、人権を侵害し続けている日本。入管闘争市民連合代表の指宿昭一さんは、「変えるのは私たち市民だ」と訴えます。
※1 中東各国に住む少数民族。1990年代から来日し始め、2010年代から急増。現在約2000人が埼玉県蕨市や川口市に集住している。多くがトルコでの迫害を逃れてきた難民。この十数年、世界では約5万人が難民認定されたが、日本での難民認定はわずか1人。最近彼らを標的にした排外主義的差別が激化している。
※2 6月の改悪入管法施行で、難民申請3回以上の者の強制送還、人権侵害に市民を加担させる監理措置制度の開始が予定されている。さらに政府は、永住資格の取り消しを可能にする改悪もねらっている。
制度がなくても諦めない 社会を変える民医連運動を
埼玉民医連SW部会
川口市で長年、外国人患者にも対応してきた埼玉協同病院では、特に昨年2月のトルコ・シリア地震以降、妊娠や持病といったリスクを抱えて来日し、無保険で受診するクルド人患者が増えています。仮放免や6カ月未満の短期滞在ビザで、無保険、就労禁止、生活保護も利用できない、外国人患者の医療ニーズへの対応が、地域の課題。しかし、彼らを救うことは極めて困難です。
県連SW部会代表者の熊谷瑛え梨りさんは、「彼らにはリスクを抱えて渡航せざるを得ない事情がある。当事者や民間支援に問題を押しつけるのではなく、政治的解決を。そう考える人をどう増やすか。支援団体や行政とのネットワークづくりが重要」と話します。
理解者を増やし、つながる実践
同SW部会は2021年頃から年3回、外国人患者への理解を促進し、在留資格制度や使える社会資源、支援方法を周知する学習会をWEBで開催しています。県連内約30人のSWが原則全員参加し、関東地協のSWにも案内。クルド人学生から当事者の思いを聞くなど、これまでに10回以上開き、医療生協さいたまの組合員向けに映画の上映会も行いました。
21年度からは地域の支援団体「在日クルド人と共に」と毎月定例会議を行い、支援に携わる研究者も交えて課題を共有、支援方法を検討しています。きっかけは、クルド人家族の多産傾向から産婦人科が直面した困りごと。母国での女性の地位や教育水準、識字率の低さなどの背景も学び、助言を実践に役立てています。
22年度、埼玉協同病院の職員を対象に行った外国人患者対応に関する意識調査では、8割超が対応に不安があると判明。医療知識に乏しい患者の知人や、未発達な子どもが通訳することで生じるコミュニケーションエラー、子どもの権利侵害、事故の危険などの実態も明らかになりました。
23年度には調査結果を受け、神奈川の先進的な医療通訳制度の学習会を開催。支援団体を通じ、保健所職員も参加しました。川口市では未実施の通訳派遣事業について市役所と懇談。法人ヘルスプロモーション推進委員会などが企画し、「やさしい日本語講座・ワークショップ」も行いました。
無保険→受診抑制→重症化→医療費負担の増大→困窮の連鎖を断ち切ろうと、病気にならない生活へ予防的な働きかけを重視し、歯磨き指導などもしています。
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成果が見えにくく、経営課題とのジレンマもあり「心折れそうになることもある」と熊谷さん。それでも、「制度で解決できないからこそ、社会を変える民医連運動が求められている。人権を守る!という思いが拠り所になるはず」と言います。(丸山いぶき記者)
(民医連新聞 第1806号 2024年5月20日号)