相談室日誌 連載560 制度活用に躊躇する家族支援 憲法に基づく社会保障実現を(埼玉)
70代後半のAさんは、「圧迫骨折で、自宅で看られず、入院を」と他院から当院へ紹介されました。入院後の検査では血糖値400㎎/dLと、放置されていた糖尿病も発覚。コルセットを着用してリハビリを開始しましたが、痛みや認知機能低下のために意欲はなく、介助歩行はできますが、オムツ介助がゴールの判断となりました。
入院時より入院費の不安があり、長女に話を聞くと、Aさんは無年金、孫は無収入で、長女の収入で家計をやりくりしていました。減額・限度額認定制度を説明すると、「安心しました」と言いますが、長女はAさんの急な入院や医療費のことで戸惑っているようでした。
県内在住の次女に、この入院の機会に現状を知ってもらうことを勧めると、次女が面会に来てくれるようになりました。療養先を検討する段階で、Aさんの「家に帰りたい」希望に応えたいと、不定期な仕事の長女と次女で協力し合うことに。しかし、介護指導の結果、在宅は困難と判断。
Aさんの施設入所を具体化するにつれ、長女自身が病気で1年療養し、現在は不安定な収入でローンがあることなどを打ち明けました。無料低額診療事業を説明しましたが、利用には消極的でした。相談の結果、医療費は次女が支払うことに。しかし、施設費用の捻出のため生活保護利用の提案をすると、世帯での申請は考えられず、Aさんのみで生活保護を受けることを希望。また、個人情報がどこまで守られるのか、長女が困窮していることを受け止められない状況や制度利用への抵抗が伝わってきました。Aさんはサ高住への入所が決まり、リハビリをがんばろうと同施設に行くことを説明。施設側には敷金の分割支払を頼み、入居と同時にAさんのみ生活保護を利用することとなりました。
介護や病気、医療費の支払いの課題などが重なり、長女は個人情報を伝えなければならない苦痛やAさんの希望に沿えない悔しさなどがあって、どこまで寄り添えたのか考えさせられます。生活保護への心理的ハードルは高く、社会保障は権利であることが共有できなかったことも悔やまれます。憲法にもとづいた社会保障を守っていきたいと思います。
(民医連新聞 第1806号 2024年5月20日号)