相談室日誌 連載559 身元不明者の手遅れ死亡事例から民医連としてできることを考える (北海道)
当院では、毎年のように手遅れ死亡事例があります。残念ながら去年は4例の手遅れ死亡事例を報告しました。
Aさんは20年以上、路上生活をしていた人で、札幌市の「路上生活者観察活動」の対象者でした。ホームレス支援団体からも、支援を開始した当初から「ああ…」しか発語ができない状態で会話が成立しないとの情報で、当院搬送時も意思疎通が困難でした。身体的な性別が男性ということ以外、名前、生年月日、住所など何もわからない状況。救急搬送の1カ月前から体調不良の訴えはあったようですが、駅員が数回救急要請しても本人が断っていたようです。当院に搬送後、切除不能の左肺がん疑いで「いつ亡くなってもおかしくない状態のため、死亡時の対応を確認してほしい」とSWに介入依頼がありました。
通常、行旅病人及行旅死亡人取扱法にもとづいて、行旅死亡人として対応することを検討しますが、札幌市からは身元不明者の行旅病人を対応したことはないとの回答でした。結局、医療費の支払いも困難な状況のため、生活保護の申請を検討することになりました。保護課からは「生活保護を決定させるので、火葬許可証を出してもらうために警察へ検死要請してほしい」と言われ、警察からは「なぜ行旅死亡人として対応しないのか」と問われたため、保護課、保健福祉課、警察間で相談して、最終的に警察へ検死要請を行い、生活保護による葬祭扶助で対応しました。
Aさんは入院3日後に逝去しました。人間としてあまりにも切ない最期となりました。身元照会を受け、火葬されたのは4カ月後になります。まったくの身元不明者は当院としても初めての対応でした。このような身元不明者にSWとして何ができたのか? 行旅病人、死亡人制度がもう少し利用しやすければ、尊厳ある最期を迎えることができたのか? 無料低額診療事業が周知され、受診でいのちを救えたのか? 当院医療福祉課としても悩んだ事例でした。
北海道民医連では、ホームレス支援団体と共同して支援活動を展開しています。このようなアウトリーチにより人間の尊厳が保たれ、手遅れ事例がなくなるように活動を継続します。
(民医連新聞 第1805号 2024年5月6日号)