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民医連新聞

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いのち奪う政治、社会保障削減から転換を 2023年経済的事由による手遅れ死亡事例調査

 3月21日、全日本民医連は厚生労働省記者会で、2023年経済的事由による手遅れ死亡事例調査について記者会見を行いました。国民の生活が苦しくなるなか、調査は経済的困窮が医療へのアクセスを阻み、いのちを奪っている実態を明らかにしています。失われたいのちから何が見えるのか。(稲原真一記者)

 手遅れ死亡事例調査は、2005年から全日本民医連が毎年行っています。その年の1~12月の期間、保険料の滞納から資格証明書(※)や短期保険証になり無保険に陥ったり、保険証があっても経済的事由から手遅れになったと思われる死亡事例を、全国の事業所が報告し、集計したものです。
 記者会見では、冒頭で全日本民医連事務局長の岸本啓介さんがあいさつ。コロナ禍や物価高騰で雇用や生活が不安定になるなか、75歳以上の窓口負担2割化(※)など、全世代型社会保障の名で社会保障費が削減され、さまざまな影響が出ていると指摘します。
 事例では勤労世代の40~60代が全体の約6割で、ぎりぎりまで我慢して救急搬送でたどり着く事例も多いことに言及し、「本来であればこうした状況に合わせたセーフティーネットの構築が国の責任だが、それとは真逆の政治が行われている。一刻も早くいのち優先の社会保障制度への転換が必要」と訴えました。

いのち奪う困窮の実態

 23年は全国から48事例が寄せられました。性別では男性が37件(77%)、年代では60代以上が35件(73%)と高齢男性が多い傾向にあります(図1、2)。また世帯構成では独居が25件(52%)と社会的な孤立の影響もうかがえます。
 概要報告を行った全日本民医連前理事の久保田直生さんは「事例は氷山の一角」と強調します。65歳未満に無職が多い(11件、58%)ことにも触れ、「非正規雇用などの不安定雇用の人が、受診時には無職になっている事例が多い。日本では非正規雇用であることが健康リスクになっている」と指摘します。
 約6割が生活保護基準以下の収入(図3)で、負債や滞納は健康保険料の滞納が最多。無保険は22件(46%)でした(図4)。高すぎる保険料が人権侵害の無保険状態を生み、いのちを奪っている実態がわかります。コロナ禍の影響は7件で、ここでも収入減で受診が遅れた事例が目立ちます。
 一方で正規保険証や短期保険証があっても受診できず、手遅れになっている事例も24件(50%)報告がありました。窓口での一部負担が原因で、受診をためらわせていることがうかがえます。
 死因はがんが24件(50%)で最多。受診時にすでに終末期で手術などもできない事例が多く、医療費が原因で我慢や治療中断をしている事例が多数ありました。
 調査結果にもとづいて、全日本民医連は、3月8日に厚労省交渉を実施しました。交渉では無料低額診療事業(以下、無低診。)の制度拡充や改善、仮放免などの外国人の医療保障、無保険を生まない国民健康保険制度の改善、窓口負担の撤廃、75歳以上の医療費2割化の中止、生活保護制度の改善などを要請。交渉内容は記者発表にも反映しました。

人権侵害の2割負担

 80代男性の事例では、すい臓がんの診断後、医療費が払えずに治療中断。病状悪化後も入院をためらいましたが、職員が支払いの相談に乗り入院治療になりました。しかし、その時点ですでにステージIVの末期がんで、入院20日後に死去。年金収入は一定あったものの、高額の治療費が負担となって手遅れになった事例です。
 久保田さんは「75歳以上の窓口負担2割化の影響が出た事例。いのちを奪う2割負担は直ちにやめるべきだ」と言います。厚労省交渉で担当者は、75歳以上の2割負担について「配慮処置がある」と言いますが、手続きが煩雑で申請者は少なく償還払い(※)のため、お金がなければ受診の障害になることに変わりありません。

猛暑でもエアコンなく

 生活保護を利用する70代男性の事例では、エアコンがないことがいのちを奪う事態に。受診時に暑さによる体調不良の訴えがあり、保護課の担当者に相談するも「エアコンの設置には保護費から毎月3000円引いた上、実際に取り付けるのは2カ月後」と言われて諦めました。その翌日には脱水症状で受診し、入院を勧めますが本人が拒否。さらに翌日、本人より「動けない」と連絡があり、安否確認で訪問したところ、自宅でぐったりしているところを発見。緊急入院しましたが、その後急変して亡くなりました。
 生活保護の利用者の自宅にエアコンがないことは、毎年問題になっています。気候変動で酷暑が続くなか、国もようやくエアコン購入費の支給を認めましたが、それも18年以降の受給開始時にエアコンのない人に限られています。
 厚労省交渉でも改善を要求しましたが、「保護費のなかでやりくりするように」との冷たい回答でした。昨年5~9月の熱中症での救急搬送は全国で9万1467人。久保田さんは「医療現場ではエアコンを我慢して熱中症で運ばれてくる人がとても多い。その実態を踏まえ、どうあるべきか考えてほしい」と訴えます。

重い負担に受診あきらめ

 非正規雇用の40代女性の事例は、窓口負担が受診を抑制していました。女性は介護が必要な母親と精神疾患を抱えた兄と同居中でした。母親の介護の相談時に本人の体調不良を職員が発見し、無低診を利用して受診。子宮筋腫などが見つかり、無低診のない病院へ紹介しますが、支払いを気にして受診できず。生活保護の利用などを説得して治療の意思が芽生えた矢先、心肺停止で救急搬送され帰らぬ人となりました。
 無保険状態で治療中断した70代男性の事例もあります。男性は亡くなる2年前にすい臓がんの診断を受け、無保険状態でしたが、姉からの援助で短期保険証を発行。一度は抗がん剤治療を受けますが、高額な医療費から治療を中断します。その後、自宅で衰弱しているところを発見され、無低診を実施している民医連の病院に搬送されますが、すでに末期で、そのまま看取りとなりました。

すべての人に必要な医療を

 国民のいのちと健康を守ることは、憲法で規定された国の果たすべき義務です。しかし、無低診について交渉した厚労省の担当者は、「重要な意義のある制度」と認めながらも、「医療機関の慈善にもとづく自主的活動」として、制度の拡充や改善には後ろ向きの姿勢を崩しませんでした。
 近年、多くの先進国で窓口負担は無料や低額ですが、日本は窓口負担を増やし続けています。事例から明らかなように、医療費への不安や多額の支払いが受診をためらわせ、治療中断を引き起こしています。また今回、国民健康保険法44条(※)を利用した事例は0件。現場での適切な運用がされていないことがうかがわれます。
 全日本民医連社保運動・政策部部長の柳沢深志さんは「がん患者が医療費を理由に治療中断する事例は後を絶たない。救急搬送の増加も、医療費の負担から我慢をしている人が増えている影響を感じる。窓口負担をなくすことが本当に必要」と訴えます。一方で、受療権を保障する制度の改善や運用への要求に、厚労省の担当者は「世代にかかわらず負担することが持続可能な制度のために必要」という政府答弁に終始しました。
 柳沢さんは「厚労省は制度上、無保険者はいないと言うが、現実に無保険の事例がこれだけある。国は現行の保険証を廃止すると言っているが、無保険者がこれまで以上に増えるのではないか」と危機感を強めます。
 久保田さんは「保険料の滞納は困窮のシグナルと捉え、保険証を取り上げるのではなく、適切な相談や支援をすべき。下げ続けた国庫負担を戻し、高すぎる保険料を見直すことも必要。困窮に陥っても、すべての人が安心して必要な医療が受けられるようにするのが国の責任」と訴えます。

※調査の詳細はQRコードから閲覧可能

 

(民医連新聞 第1804号 2024年4月15日号)