包括的性教育の実践 医療の現場から、いのちの意味を伝える T(ティーンズ)・S(セクシュアル)・H(ヘルス)・P(プロジェクト) 東京 立川相互病院
東京・立川相互病院では、ティーンズ・セクシュアル・ヘルス・プロジェクト(以下、TSHP)と題し、地域住民や職員の親子を対象に、包括的性教育を行っています。コロナ禍で休止していましたが、昨年10月7日、5年ぶりに開催。人生を豊かにする性教育の実践を取材しました。(稲原真一記者)
いのちの始まりを知る
「ここをなんて言うかわかるかな?」と、講師の桂田ひとみさん(助産師)が、性器のイラストを指しながら尋ねると、フロアの子どもたちが元気に答えます。真剣な子どもたちの後ろには、少し戸惑っている親の姿もちらほら。
この日は「誕生のひみつ」という、4~7歳を対象にしたプログラムで、2回の開催に約30組の親子が参加しました。手づくりのイラストを使い、ペニスや腟(ちつ)など、性器の医学的な名称と役割を子どもにもわかりやすく説明。人形、紙芝居などで男女の身体的な違いやその理由、性交から受精、妊娠、出産までの過程を解説します。さらに実際の妊婦に協力してもらい胎児の心音を聞くなど、五感も使って学びます。
「誕生のひみつ」では知識に加え「なぜ、あなたが生まれたのか」「みんなに代わりはいない」なども伝えています。桂田さんは「プロジェクトを通して、いのちの意味、自分の存在の意味を知ってほしい」と話します。最後に今日知った内容はふざけて話さないことや、体のプライベートゾーンの範囲や性被害から身を守ること、被害を受けたら大人に相談することを約束して終了しました。
親も学びなおし
TSHPができたのは2004年頃。現場の事例から、望まない妊娠や性被害、性感染症などを防ぐために、職員の自主的な活動として始まりました。「地域で先駆的な活動をしていた助産師や教員のアドバイスを受けながら、年に1~2回の開催を続けて内容を充実させてきた」と桂田さん。現在は幼児向け(4~7歳)、中学年向け(8~10歳)、高学年向け(11~12歳)のプログラムで、発展的に学びを深めています。
プロジェクトは親子での参加を追求し、今回のプログラムの後半でも、親を対象に「なぜ、子どもへの性教育が必要なのか」を伝えます。講師の産婦人科の池田麗さん(医師)は、「親子がともに学ぶことで、家庭内でも性の悩みが話せるようになることが大切」と言います。親には、早い時期に正しい知識を知ることが二次性徴への備えになること、何が被害か理解することが性被害を未然に防ぐことなどを説明します。
参加した親からは「素直な子どもの反応にびっくり」「正しい知識は親も知る必要があると感じた」「子どもの学校でもやってほしい」などの感想がありました。
人生を豊かにする学び
TSHPは、2019年から正式な委員会として認められました。スタッフは関心のある有志での運営が基本ですが、新入職員の研修などでも活動しています。開催時は院内で電子掲示板なども使って宣伝し、参加希望者には事前に内容の案内文を配りアンケートを取っています。準備やふり返りに時間がかかるため、開催頻度が今後の課題です。
PTAの協力で、地域の学校での講演活動なども引き受けています。スタッフの小原かおるさん(看護師)は「TSHPは医療従事者が講師という安心感があると思う。しかし、本当は公教育などでも教え、すべての親子に学んでほしい。包括的性教育は自分や相手を大切にすることを学び、自己肯定感を育むベースになるもの」と言います。
池田さんは、現場で出会う若年妊娠の妊婦の親にシングルが多いことなどから、性教育の遅れが世代間の連鎖にもつながっていると感じています。「子どもの人権やジェンダーの問題にもつながり、学ぶことで人生をより豊かにできるのが包括的性教育。社会や家庭ですり込まれてきた価値観も変えて行ければ」と力を込めます。
(民医連新聞 第1799号 2024年2月5日号)
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