ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第19回 外国籍女性の高齢期をささえる経済的基盤とケアの脆弱(ぜいじゃく)性 文:新倉 久乃
高齢期は誰にでも平等に訪れ、安定した経済的基盤と適切な心身のケアの必要性が高まります。日本では老齢年金が経済的基盤となります。しかし、外国籍女性のなかには、夫の扶養や福利厚生の整った就労のもとになく、厚生年金に加入できない人もみられます。また、国民年金加入期間が短いか未加入ということもあります。私が生活困窮の相談で出会う在日タイ女性は、年金受給年齢になった時に加入期間が120カ月未満で年金を受け取れず、または受給金額が少なく、自活のため働き続けています。女性たちの出身国は福祉国家でないことが多く、生活困窮であれば、高齢でも「体が動くうちは働く」ことが当たり前なのです。しかし、加齢とともに就労時間と収入が減少し、体力も尽きて生活保護申請をしたいという相談が寄せられます。このような女性が、日本での生活を諦めて出身国に帰る時は生活保護が終了し、わずかな年金額や脱退一時金のみが生活のささえとなります。
一方、心身の衰えを補うケアに関しては、国境を挟んで生きる女性たちは、どちらの家族を頼るのかによってそこの医療や介護制度を利用することになります。在日タイ女性は日本に子どもがいる場合、日本に残るつもりだという人も多くみられます。しかし、加齢による心身の不調と不安の前に言語の壁が立ちはだかります。通訳制度が整備された地域もありますが、日常的なクリニックへの通院や介護サービスには通訳がつかず、日本人夫や子どもに頼ることにも限界があります。まして、離婚や死別をする、子どもの支援を受けられないという事情があれば、女性たちの見守りや介護は誰が担うのでしょうか。
1980年代から始まった「国際移動の女性化」で来日し、これまでともに日本社会を築いてきた外国籍女性たちの高齢期を、私たち日本社会はどのようにささえるのでしょうか。高齢期を家族制度でささえる従来のシステムの限界に加え、医療・福祉における多文化理解と多言語化が喫緊の課題となっています。
にいくら ひさの カラバオの会運営委員、和光大学講師。『在日タイ女性の高齢期と脆弱性―トランスナショナルな社会空間と埋め込まれたジェンダー規範』(2024年)
(民医連新聞 第1799号 2024年2月5日号)