地域のなかでの職員育成 2021年版職員育成指針実践交流集会の報告から
全日本民医連2021年版職員育成指針実践交流集会(昨年11月開催)では、青年職員から中堅、幹部までを含めた各地の育成の実践例を報告しました。そのなかから、地域のなかでの職員育成に焦点をあてた、鳥取と熊本の報告を紹介します。(多田重正記者)
職員を地域に育ててもらう 鳥取医療生協 木下直子さん (事務)
鳥取医療生協は今年度、地域から学ぶ要素を制度教育に積極的に取り入れています。そのひとつが、新入職員研修に食料支援活動の参加を入れたこと。コロナ禍でひろがった生活困窮者を掘り起こし支援しようと、鳥取民医連が労働組合や他団体とともに、2020年末から始めた「食料無料市」です。公営住宅に出向き、集会場などで食料支援や健康相談を実施。無料市を通じて知り合った気になる世帯には開催日以外にも食料を届けたり、生活相談に乗るなど、つながり続けています。
この無料市が、学びの場としての力を発揮。ある看護奨学生は、支援を求める利用者が列をなす様子に「ニュースで見たことが、地元で起こっている」ことや、「民医連綱領がこんな形で実践されている」と感想をのべました。
さらに、無料市でつながった公営住宅の住民が、職員の「先生」にもなってくれている、と木下さん。2022年度の平和人権ゼミ(県連開講)で、ゼミ生たちが決めたテーマが「格差と貧困」。地元でどんな貧困問題があるか出し合うなかで、「公営住宅で話を聞きたい」との声が出て、住民に依頼したところ、快諾。「断熱材が入っていない」「収納スペースがない」などの住環境や、年金生活の困難などを聞きました。ゼミ生たちは住民の話を受けて、無料市での血圧測定や室温アンケート実施など、アイデアを出し合って具体化。新入職員研修での無料市の説明役も担っています。
その他、2年目研修では医療生協の班会に出て、なぜ班会に参加するかなどを聞くアンケートをとって組織活動の意味を話し合いました。法人で実施する7つの制度教育のうち5つで、地域から学ぶ要素を取り入れました。木下さんは「職員を地域に育ててもらうという視点で、職員育成の機会をねらっていきたい」と話しました。
フィールド研修にこだわって 熊本県民医連 宮本詩子さん (看護師)
熊本県民医連は2022~23年、「人権」を教育活動のテーマに。実際に見て、聴いて、感じることを大切にしようと、フィールド研修にこだわりました。民医連外の企画や学習会も活用し、地域のなかで学び合うことを意識しました。
基礎I(入職2年目)、基礎II(3年目)研修では、国立ハンセン病療養所の菊池恵楓園へ。園内の資料館を見学した後、講演を受け、「偏った考え方や社会のあり方が患者たちの人権を奪っていることにあらためて気づかされた」などの感想が出ました。
基礎III(4年目)・基礎IV(5年目)研修では、熊本地震から7年たった被災者の現在を知り、学び、考えることがテーマ。災害公営住宅で支援物資を配り、健康相談会を実施し、健康体操も。聞き取り調査も行い、物価高騰で生活費を切り詰め、貯金を取り崩している住民の実情に触れました。
基礎III研修では、益城町で熊本民医連がNPOくまもと地域自治体研究所と開催した、震災後7年のメモリアル復興集会にも参加。孤独や不安のなかで生活している高齢者が多いこと、復興の名ですすんだ道路の拡大工事で高齢者の横断が困難になり、町が分断されていることなどを知りました。
「水俣病、ハンセン病、被災者支援など、熊本にはたくさんの学びの場がある」と宮本さん。「地域とともに歩む人間性豊かな職員育成」をめざす決意を語りました。
(民医連新聞 第1798号 2024年1月22日号)