2024年新春インタビュー 戦争しない人を総理大臣に 社会に目を向けて いま、声をあげよう
今年は日本女医会の会長で、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」でも精力的に活動する、前田佳子さん(医師)にインタビューしました。今の日本の政治や医師の働き方、ジェンダー平等に求められることなど、縦横に語ってくれました。(稲原真一記者)
戦争に正義はない
いつ終わるとも知れないロシアのウクライナ軍事侵攻、さらにパレスチナ・ガザ地区での紛争など、戦争が身近になっています。しかし、私はどんな戦争にも正義はないと思っています。「やられたからやり返す」という理屈では戦争はなくならず、それによって問題は解決しないからです。
ガザでの虐殺を見て感じるのは、先に仕掛けた相手には、何をしても許されるわけでないということです。日本も太平洋戦争では先に攻撃を仕掛けましたが、それによって広島・長崎への原爆投下が正当化されるわけではない。
日本はそうした経験をしているのに、どこか他人事です。ガザでの停戦を求めるデモも、海外は数万人という規模ですが、国内では数千人。このことに限らず、国際的な動きにすごく鈍感です。
若い世代にも声をあげている人はいますが、まだ壁があると感じます。世代や立場の違いを越えて、いっしょにやらなくては大きな運動はつくれません。すべて同じでなくても、方向性が同じ人たちが集まることが大切です。人を殺すのはよくない、人権を守ろうと言えるのであれば、いっしょに声をあげればいいのです。
軍事費よりも社会保障を
政府は働き方改革のなかでも、医師を増やさないと決めています。医療現場はシフト制でやれている職場もありますが、医師は人手不足で限界があります。労働環境を変えるいい機会ではありますが、具体的な方策が出せないまま実施が迫っています。このままでは、結局これまでの働き方と変わらない。見えない労働が増えるだけです。現状のなかで医師労働の負荷を減らすには、他職種と連携したタスクシフト・タスクシェアをすすめるしかありません。
根本的には医師が足りませんが、政治が変わらない限り、医師増員は難しいでしょう。社会保障費のなかで、医療費の比率は下がり続け、政府はとにかく医療費を削ろうとしています。軍事費に使うお金があるなら、それを使って医療従事者の処遇を保ちながら、持続可能な医療システムに変えていくことが必要です。
ジェンダー平等は努力の先に
政府や社会は女性の活躍と言いながら、家事や育児は女性がやることを前提に「男性“も”やってね」という価値観が透けて見えます。女性には家庭と仕事との両立を求めながら、「母親は大事」などの発言はなくなりません。発信力のある人は、もっとさまざまな個人のあり方を肯定してほしい。
ジェンダー平等をめざすなら、意思決定の場におけるクオータ制のような積極的な動きは、絶対に必要です。こういう話をすると「女性なら誰でもいいわけではない」「そもそも女性が少ない」というような声が、かならず出ます。確かに現状、医師や役職者に女性は少ないですが、それを理由にやらなければ何も変わりません。日本よりすすんでいる国も、自然に変わったのではなく、さまざまな努力を重ねて前進しています。抵抗勢力は大きいですが、理解のあるトップが現れた時に、周囲が後押しをすることも大切です。
一方で女性の側も、機会が訪れた時に応えられる準備をしてほしいです。学会などでも「性別で選ばれるのは嫌」という人もいます。ジェンダーエクイティー(男女公平)の観点で、基準を緩めて女性を増やしていくことが重要です。そのうちそれが当たり前になれば、「女性だから、男性だから」という考えもなくなるはずです。
気づきから行動へ
私が社会に関心を向けたのは福島の原発事故から。遠く離れた東京でも停電などの影響があり、社会の価値観が大きく変わって、このままではいけない、何かしなくては、と思うようになりました。
民主党政権でも大きな変化のないまま、第二次安倍政権以降の政治のあまりの酷さに、怒りが蓄積していきました。ずっともやもやしていた時に、知人を通じて福島を訪れました。復興を喧伝(けんでん)されていましたが、実際には根本的な解決はまったくしていない状況を目の当たりにして、国民軽視の政府に憤りを覚えました。
社会に目を向けるようになると、福島、沖縄、オリンピック、コロナ禍、すべてが同じ構造だと気がつきました。迫害されている人はまったく手当てされず、一部の企業だけが利潤をむさぼり、責任も取らない。このまま黙ってはいられないと、さまざまな活動にかかわるようになりました。
今の政府は、紛争開始直後のガザでの停戦を求める国連決議を棄権するという、信じられないことをしました。現地では避難民や医療従事者も標的にされているのに、です。そんな人たちが、日本の代表であることが悲しいです。
私は「どんなことがあっても絶対に戦争はしない」という信念を持っている人に、総理大臣になってほしい。「抑止力がなければ襲われる」という考えこそ非現実的です。ウクライナのゼレンスキー大統領ですら、日本には軍事的な支援は求めませんでした。絶対に戦争しないと誓っている国を、攻撃できる国などありません。
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私は民医連とは出会ったばかりですが、さまざまな分野で積極的に活動をしていると聞いています。ぜひ、今後はそこにジェンダーも位置づけてとりくんでほしい。どこの組織も過渡期ですが、民医連にも女性だけでなく、多様な人たちがいっしょに活動できる環境を整えてほしいです。
前田佳子さん
まえだ・よしこ 公益社団法人日本女医会会長。昭和大学医学部講師。一般社団法人日本泌尿器科学会理事。近年では「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」の共同副代表として、講演活動やメディアへの発信も精力的に行っている。
平和を求め軍拡を許さない女たちの会
政府のすすめる軍拡路線に反対し、さまざまな立場の女性が集まって昨年1月に結成された。軍拡に反対するオンライン署名の提出やシンポジウムの開催、書籍『私たちは黙らない!(日本機関紙出版センター)』の出版などを行っている。
(民医連新聞 第1797号 2024年1月1日)