わかりやすくタメになる 患者目線の壁新聞 大阪・田島診療所
大阪・田島診療所は、患者向けの壁新聞をつくり、待合室に掲示。「わかりやすい」と好評で、慢性疾患の中断患者減にもつながっています。第16回全日本民医連学術・運動交流集会(10月)で報告された実践です。(多田重正記者)
通院患者に壁新聞について聞きました。「待ち時間の間に読んでると、『こうせなアカンのやな』ということなどがわかって、タメになる」と語るのは、中村晃子さん。
「コピーしてもらって、持って帰ることもある」と教えてくれたのは、生西敏子さんです。医療用語など、覚えられないことがあるときに家で確認しているとか。
壁新聞の内容について、患者から質問が出ることも。そんなときも「誰に聞いても答えてくれる」と榎本ミサオさん。「看護師だけでなく、みんなが勉強してはる」と信頼を寄せています。
患者が声をかけやすい環境づくりなど、職員の心配りも口ぐちに語ります。診療所の元患者で、現在他院に通院中の森川弘子さんは、夫が診療所のデイサービスに通っています。夫の付き添いで診療所に来ると「今でも、私のことも気にかけてくれる」と話してくれました。
慢性疾患への理解をひろげようと10年
診療所のある大阪市生野区は、かつてメガネ、履き物などの製造で栄えたまちです。職人気質の人が多く、慢性疾患患者でも「『薬だけくれればいい』と言う患者が多かった」と、看護師長の福川由香さん。
「血圧はそこまで高くないから」と薬を間引きして飲む人も。そこで待ち時間を使い、慢性疾患への理解を深めてもらおうと、2014年から壁新聞を始めました。看護師と事務で糖尿病、高血圧症、高脂血症(脂質異常症)の3グループに分かれ、月ごとに交代で掲示しています。手づくりで、今年で10年。慢性疾患の基礎知識がテーマのこともあれば、最近注目の話題を扱うことも。11月は高血圧グループの担当で、乾燥がテーマでした。
最初は文字だけだった壁新聞も、回を重ねるごとに、絵や飾りも織り交ぜて、文章も簡潔にするなど、わかりやすく親しみやすいものに。スマートフォンで、写真を撮っていく患者もいます。「どうやったら興味をもってもらえるか」と、楽しくなるように心がけています。
患者の情報を共有 中断患者も減少
あわせて、検査値をもとにした患者への説明を強めたり、慢性疾患の「カンファレンスシート」も作成し、中断患者がいないか集団で確認することで、中断患者が減少しています。2014年当時は、いずれの慢性疾患でも月あたり10人以上の中断患者がいることが珍しくありませんでしたが、今年8月には糖尿病患者119人中、中断は0人。高血圧は314人中2人、脂質異常症は78人中2人でした。
職員のなかで疾患の学習をすすめるとともに、患者の家族構成や生活背景もつかみ、ちょっとした変化を見逃さない職場づくりもすすめてきました。受付では「額や手の傷、爪が伸びていないか」など、注意して観察。「来院患者の顔が黄色い」と感じた事務が看護師に伝え、肝機能の異常が見つかったこともあります。患者の何気ない話に耳を傾ける際も、患者の背景まで共有するとりくみが役立っています。
壁新聞の作成時間の確保や患者増をはかること、若年層や増えてきた外国人へのアプローチなどが課題です。福川さんは、「壁新聞も活用した学習会を、組合員の班会やたまり場で開きたい。たまり場を地域に増やしたい」と語りました。
(民医連新聞 第1796号 2023年12月4日・18日合併号)