相談室日誌 連載553 じん肺アスベスト外来の支援 給付金制度活用申請での事例(埼玉)
当院には、じん肺アスベスト外来があり、医師の診断をもとに、各種制度の利用手続きをSWが支援しています。
じん肺の原因となる粉じんの一種、石綿(アスベスト)は発がん性物質ですが、高度経済成長期の日本では建材などに多用されてきました。「国が規制権限を適切に行使せず、健康被害を被った」と元労働者が建設アスベスト訴訟を起こし、最高裁が国の責任を認めたことで、国は「建設アスベスト給付金」制度を2021年に創設しました。
Aさんは中学卒業後、福島県の左官屋で働いていました。モルタルをなめらかにするために石綿入りの粉末混和剤を混ぜて練り上げたり、壁を研磨したりする作業過程で、石綿を吸入しました。Aさんは、いくつかの会社に勤めた後は、一人親方として仕事を請け負い、年金は国民年金のみ、労災加入歴は判然としませんでした。給付金の申請書には、Aさんの職業歴を記載しました。
しかし、厚労省からは、「会社が存在したことを何らかの形で証明してほしい」と返答がありました。Aさんの妻が、几帳面に書き留めていた当時の電話帳を頼りに、最初に勤めた福島の左官屋に電話して、震災で廃業したことを確認したり、発注元だった大手建設会社に当時の作業員名簿がないか問い合わせをしたりしました。またデータバンクで倒産情報を調べ、なんとか会社の存在を確認できる手立てを考え、結果を表にまとめました。苦肉の策で、社員旅行の記念写真も証拠として添付しました。幸いにも、Aさんの兄弟が同じ会社に勤めていた時期があったので、業務内容については、同僚の証言も得られました。
結果、Aさんは申請から1年後、給付金を無事受給することができました。当時の職人に対するずさんな労務管理の影響や、建設バブルの崩壊後、廃業した会社も多く、「現場で作業に従事していたこと」を客観的に証明することは、時間も根気もいる大変難しい作業でした。
すでに労災適用を受けている人のほうが手続きは容易であり、門扉は開かれていても、制度にアクセスしやすいかどうかという点での格差は否定できません。手続き支援を重ねながら、建設アスベスト給付金制度が活用しやすくなるように、格差是正に声をあげていきたいと思いました。
(民医連新聞 第1796号 2023年12月4日・18日合併号)
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