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民医連新聞

民医連新聞

診察室から 子育てと民医連に共通の実践哲学

 もうすぐ3歳になろうとする息子は、機関車トーマスのヘンリーがトンネルに閉じこもり、仕事を放棄した場面をプラレールで再現する遊びに夢中です。子育てで私が大切だと思うのは、同じ時間を過ごし、彼の目線に立って彼の見ている世界を想像することです。彼自身の興味関心、能力、認知の仕方は子育てのハウツーには書いていません。彼にとって楽しい遊び方は何か、どんな言葉を投げかけると興味が湧くか観察し、子育ての諸先輩方や本にあたって自身と子をふり返り、メタ認知(自分の認知を客観的に捉える高次の認知)をしながら奮闘しています。
 2020年4月に現職の民医連の医療に飛び込んでから、気づけば4年目の後半戦です。その間、多くの人の伴走者として診療してきました。それまで形成外科を専攻していた私の関心は「オーダーメイドであること」でした。同じ傷や皮膚の欠損に対し、より良くなるならアプローチ方法は自由でいい。そんなところに魅力を感じ研さんを積んでいました。素晴らしい先輩方や技術に触れ、魅力を感じる一方、治療後の患者の今後の生活や人生について考えるうちに、より長期的な関係性を築いていく家庭医療への関心が高まり、転科を決心し今に至ります。
 民医連や家庭医療学の学習を続けるうちに、患者は「生活者」へ、生活者は「その人の人生の総体」へと、視点は大きくなりました。さらには文化や歴史から、あるいは社会問題からしてその人を見る視点、はたまた「人は人のなかで人になる」という観点で、家族、友人、支援者などの人間関係からその人を見る視点、などのメタな視点を学んでいます。
 「まず診る、援助する、なんとかする」。困りごとや心配事、社会的背景や成育歴、一人として同じ人間はおらず、かつ一人ひとり複雑な存在です。そこに正面からとりくむ民医連の精神と実践は、今急成長を遂げながら複雑な自己を形成しているわが子とのかかわり合いと同様、オーダーメイドであふれていて魅力的です。(植木孝典、栃木・宇都宮協立診療所)

(民医連新聞 第1795号 2023年11月20日)