フォーカス 私たちの実践 透析治療を拒否する高齢認知症患者への援助 岡山・水島協同病院 生きる意欲につながった患者・家族含む多職種カンファレンス
近年の透析患者の高齢化は著しく、認知症状を示す患者も少なくありません。高齢認知症患者の透析療法拒否の問題に直面し、患者・家族を含めた多職種でカンファレンスを実施。望む透析療法を見いだし、自宅で生活ができるよう患者・家族への援助を行いました。第15回看護介護活動研究交流集会で、現地実行委員長賞を受賞した岡山・水島協同病院の藤尾由貴恵さん(看護師)の報告です。
■患者紹介と経過
Aさんは80代の男性で長男と2人暮らし。妻は14年前に他界。次男と三男(養子)は別居し、長女も体調が悪く支援を望めません。Aさんの既往歴は、高血圧、高脂血症、脳梗塞後遺症、現病歴は慢性腎臓病、ネフローゼ症候群による末期腎不全にて透析を導入しています。Aさんは長年通院していた他院で腎機能悪化を指摘され当院に紹介となり、透析を導入。導入直後から浮腫、呼吸困難など症状で苦痛が強くなると他院を受診し、当院に転院や救急搬送され、入院・加療を行うことをくり返していました。また透析時の除水に伴う下肢つりや倦怠(けんたい)感などの症状に、「透析には行かん、なんぼ死ぬと言われても透析はせん」との発言がありました。
度重なる透析拒否、認知機能低下が進行し、今後の透析治療の援助について意思統一をはかる目的で、臨床倫理4分割法を用いて多職種カンファレンスを行いました。Aさんと長男、医師、透析看護師、訪問看護師、臨床工学技士、社会福祉士、ケアマネジャー、理学療法士、救急看護師、倫理委員会メンバーが参加しました。
■透析維持妨げの原因
透析拒否はあるものの、透析で体液バランスや尿毒症状が改善し、大きな問題はなく経過しました。その後、短期記憶障害がすすみ、脳梗塞後遺症の既往があり、難聴、認知機能の低下の状態で、週3回の透析療法の必要性を理解できていませんでした。透析後に増悪する倦怠感や下肢つりで、透析自体が自身の体調に悪影響をおよぼしているという間違った認識、病院は体調が悪くなったら行くところとの認識が、透析維持の妨げとなっていました。
Aさんは以前、シニアカーで買い物に行き、通院にも利用していましたが、接触事故で廃車に。長男や病院スタッフ、ケアマネジャーの働きかけで、介護タクシーの利用や訪問看護は受け入れるようになりました。
カンファレンスの間、Aさんは静かに話を傾聴し、また長男からは「父親のことをこんなにたくさんの人がかかわってくれて考えてくれていることを初めて知った」という発言がありました。
■寄り添ったケアに
認知症は進行していましたが、意思を尊重し対応する必要性を共有しました。定期的な訪問で、患者との関係性を築いてきた居宅介護支援スタッフからは、居宅スペースの清掃や週1回の入浴などの提案があり、Aさんと家族ともにデイサービスやヘルパーの受け入れができ、生活の質の向上につながりました。また訪問看護師と透析室看護師との連携を強化し、透析を2回続けてスキップした際は、訪問看護師が臨時訪問を行う取り決めを行い、患者の体調と意向に沿った透析療法の継続ができるようになりました。必要時には緊急透析を行い、Aさんと家族の思いに寄り添ったケアであるという確信につながりました。
Aさんは、体調不良による緊急入院が激減し、自宅での生活を維持できていましたが、23年2月に誤嚥(ごえん)性肺炎で亡くなりました。
■自主的に考える姿勢
Aさんの度重なる透析拒否は、認知機能の障害による反応と考えました。意思決定プロセスに準ずることであり、「多職種で協働し、よりよい保健・医療・福祉を実現する」という看護職の倫理綱領(日本看護協会)にもとづく対応が求められた事例でした。
患者と家族を含めた多職種カンファレンスは、患者・家族が問題点を客観的に見つめることができ、支援を実感できました。生きる意欲につながり、多職種からのアドバイスを受け入れ、問題解決を自主的に考える姿勢が生まれるプロセスが、患者・家族への援助を有効にした一事例でした。
(民医連新聞 第1795号 2023年11月20日)