相談室日誌 連載552 認知症ある身寄りなし患者 生保利用の後見制度の支援(福岡)
70代独居の男性のAさんは生活保護利用者です。今年の夏、近所からの通報で救急搬送。脱水の診断で入院となり、辻褄(つじつま)の合わない言動やトイレの場所がわからないなど、認知症の疑いがあり、当院へ認知症の精査、加療目的で転院しました。入院後、担当の地域包括支援センターの社会福祉士から「認知機能の低下で今後、金銭管理などのために成年後見人の市長申し立ての相談を行政にしている」と聞きました。主治医に後見の類型(後見・保佐・補助)を確認すると、後見相当でした。本人申し立てが困難な点、身寄りがなく親族申し立てができないので、市長申し立てによる成年後見制度が妥当だと当院でも判断し、あらためて行政に相談をしました。
その後、行政職員と面談し、「Aさん本人は受け答えもできるし、本人申し立てができないか、法テラスを利用して司法書士に相談してほしい」「後見人がいなくても、入所可能な施設への入所を検討してほしい」と言われました。後見相当でも、過去に本人申し立てを行ったケースがある話は聞いたことがあったため、いったん承諾。しかし、本人の判断能力が低下している状態で、「後見人がいなくても契約ができる施設への退院支援が正規のルートなのか」と、行政職員に聞くと、「そういう施設もある。他の病院もそうしていると思う。みさき病院だけ別の扱いはできない」「はっきりとした線引きはないが、金銭管理と施設の契約だけじゃ(受けられない)…」などの返答。具体的な策の提案はほとんどありませんでした。後見相当だと主治医が判断した以上、引き受けることはできません。保佐相当と本人申し立てを行ったとしても、後見で判断されれば、法テラスの契約も不履行になり、本人にとってのメリットがありません。
大牟田市は高齢化率も高く、独居高齢者も増加。地域共生社会の実現に向けてとりくみがすすめられる一方で、行政職員の判断で線引きされ、結局制度の狭間(はざま)をつくっているのではないかと感じました。
私は、この患者が安心して暮らせる居場所と医療・介護サービスの確保に向けて、今後も患者の立場に立ち、アドボケイトとして支援に尽力していこうと思います。
(民医連新聞 第1795号 2023年11月20日)